9 手首、追いかける
「あぁ、あった、あった。ここだ」
今回も
「うひゃあ、こりゃ出るわ」
僕の気持ちを
「出るから僕たちが来たんじゃないか」
と、
「出るって、なんか、自分が言われてる気分だ」
と、奏さんが笑った。
楽園都市は、バーベキューに行った『こども自然園』に近く、むしろ裏山の裏って感じの位置関係だ。その裏山に隠れるように廃屋はあった。場所からして、
「いい時間だ……」
「うーーーん、やっぱり妖怪じゃあないのかな」
廃屋の周囲をぐるりと見回してから、隼人が
「妖怪じゃないって?」
満が問う。
「
と、隼人が
うーーーん、隼人、僕もその一人じゃないの? 人間だった僕は死んでいるのだから。
「バンちゃん」
と呼ばれ、ついギクッとする。
「どうした、そんなに驚いて?」
隼人は不思議そうな顔をして、満が馬鹿にしたように笑う。
「自分もお
「そうじゃないって」
僕の言い訳を無視して、
「どうでもいいからバンちゃん、ちょっと、そこの取れかけた戸から、中に入ってよ」
と、隼人が言いだす。
「え?」
「ここに
手って、
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよっ!」
「首、
隼人ぉ! 僕が殺されてもいいのかよっ!
「バンちゃんはこれ以上、死なないけど、朔もミチルも奏さんも、まだ生物として存在してるから。ここはバンちゃんしかいない」
―― はい、承知いたしました。
「あ、いい忘れた。『手』が出てきたら、取り
隼人が後ろから声をかけてくる。それって、やっぱり捕まったら殺されるってことなんじゃない? 本当に僕は二度と死なないんだろうか?
内部には光が全く届いていない。ぼんやりと、何かがごちゃごちゃ置かれて荒れ放題なのが
「何も見えないよ」
と声をあげると、うっすらと明るくなった。隼人が神通力を使ったのだろう。
恐る恐る足を踏み入れ、玄関に入り、
これ、中を確認しておかなきゃ、隼人が怒るよね?
そっと襖を開けようとしたが、そうは
「……」
12畳かな? 広い部屋だ。その広い部屋の真ん中に、
「う、うわっ!」
十二単の女性の手は
屏風の中で扇が手から落ちる。そしてそこにはあるはずの顔がない。いや、そもそも、絵だぞ? なんで扇が落ちる? そして扇を持っていた手が動く?
「隼人!」
叫ぶが早いか僕は
首を絞められるなと隼人は言っていた。捕まったら首を絞められるという事? 頬を撫でるどころじゃすまされない! 入り口の間の衝立を
「はい、ゴール!」
隼人の声が聞こえ、勢い余った僕を朔が抱き止める。朔に抱き止められながら振り返ると、スルッと『手』が建物の外にまで伸びてきたところだ。
「はい、
再び隼人の声がして、玄関横に控えていた奏さんが『手首』を
「%$△◎!!!」
叫ぶような声と言うか音がして、次には家の中から物がぶつかり合う音がし始め、それがどんどん近づいてくる。
ガシャーーーン! ついに屏風が玄関の引き戸にぶち当たった。『手』が伸ばしていた腕(?)を縮めて屏風に帰ろうとしたのに、奏さんに捕まえられていて、逆に屏風を引き寄せた。
「ふーーーん。綺麗な着物だね。十二単?」
屏風を覗き込む隼人の後ろから、
「その、絵の足元にある扇、最初はそれを持ってたよ」
と僕が言うと
「扇ね、これも綺麗だね。でも関係ない」
と、隼人が馬鹿にする
あ、そうですか、余計な情報ですいません。
「さぁて、どうしようかな? 手首、切り落とそうかな? それとも十二単、脱がせちゃおうかな?」
奏さんに掴まれたままの『手』がガタガタ震えているように見える。
「隼人、女性の服を脱がすのはどうかと思うぞ?」
奏さんが意見する。
「そんなに力いっぱい手を握っているのもどうかと思うよ?」
「だったら離すか?」
えっ? 奏さんが隼人の返事を待たずに『手』を離した。『手』は絵の中に戻り、扇を拾うと、ない顔を隠し動かなくなった。一見ただの絵だ。
「案外、簡単だったね」
と隼人が言えば、
「そうだな」
と奏さんが答える。
「んじゃ、引き揚げよう」
奏さんが屏風を
「ねぇねぇ、その絵、どぉすんのお?」
奏さんに
「駄目だ、満、何でも欲しがるな」
朔が満を
「うちの玄関に置こうよ」
「邪魔なだけだ」
朔はとりあわない。
てか、そんな屏風、置いて大丈夫なのか? それより、屏風が置けるほど、朔たちの住処は広いのか?
屏風はパタパタと折りたたまれ、車の荷台に奏さんが積み込んでいる。それを見ながら隼人が
「奏ちゃんが明日、雲大寺に持ってく。住職が
と、言う。
雲大寺の住職は奏さんの知り合いで、隼人をはじめ、僕も人狼兄弟も、門の前までしか行けない。隼人は異国の神だし、人狼兄弟は
ただ、奏さんだけは神でも、お化けでもない妖怪だから、境内に入れるし、住職とも付き合える。隼人と組んで、人間に危害を加えないと奏さんが決意してかららしい。
「供養って?」
尋ねる僕を隼人がチラリと見る。
「その昔、あの屏風の前で首を切り落とされた女の血が、あの屏風に飛び散った。女は
屏風を積み終わった奏さんが、タバコに火を付けて、煙の行方を見守っていた。
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