7 退屈、思い知る
「ねぇ、キミ。いつまで寝てるつもり? そろそろ起きなよ」
人間だったころの記憶は死のショックで消え、復活してから眠るまでの記憶がないのは僕が思い出すのを嫌がっているからだろう、と隼人は言った。
目が覚めたとたん、僕は何も考えず、目の前にいた隼人の首に
満腹になった僕が、ハッと我に返り、自分の仕業に
「ボクと一緒にお
隼人の首筋から二筋の血が流れていたがすぐに止まり、傷口もあっという間に塞がって消えた。
「キミからは人間の血の匂いがしない ―― チェリーなんだね。ボクと一緒なら、ずっとチェリーでいられるよ」
僕が目覚めたとき、時代はとうに移っていて、
それから隼人は僕を連れていろんなところ ―― 海外も含め ―― に行き、そこに住み、いろんな職業に
ちなみに僕の生前の名は
「だからバンちゃんはお留守番。で、
隼人がニヤリと笑った。
奥羽さんは
どんな悪戯かは、それを言ったら隼人に怒られる、と気を持たせるだけで決して言わない。
隼人が奥羽さんに頼むのは
諜報だけでなく、情報収集にも
翌日、嬉しそうに
「行ってくるね。よろしくね、バンちゃん」
と、隼人は出かけた。
つい最近、江の島のトビが人間の食べ物を
「……コーヒーでも
ドリップケトルに浄水を入れ、火に掛ける。カップにドリッパーを乗せ、ペーパーフィルターをかぶせ、
あ、お湯が沸いた……火を消し、換気扇を止め、充分蒸らしてからコーヒーをゆっくり淹れる。淹れたてのコーヒーをリビングに運んでソファに座って。そうだ、テレビでも見よう。いつも隼人が座っている、テレビの真ん前の特等席で今日は見よう。
つけたはいいけど、ワイドショーばかり……隼人がいれば、いろいろ突っ込んだり反論したりするから、それなりに面白いのに、今日は全く面白くない。司会者の笑う声も白々しい ――
一人っきりって、こんなにつまらないんだ。やる事がないって、こんなに
たった一日でも僕が家に帰らないと、隼人は寂しかったと泣く。自分で、
クローゼットに入りたい。僕のためにわざわざ工務店に頼んで、僕の部屋に作ってくれたクローゼット。高さは2メートル、横幅は60センチ、そして奥行き45センチで、ぴったり僕サイズ。中に入って寄り掛かると、背板が
「あ、だめだ。奥羽さんが来るんだった」
現実に戻った僕は、
しかし、暇なのは間違いない。何か映画でも見るか、と、テレビの横のラックを
隼人はコメディーやラブストーリーは必ず一人で見る。誰にも
ちなみに、僕たちに
ラックを探っているとき、隼人から電話がはいった。
「バンちゃん、久しぶり。元気?」
それ、今朝まで一緒にいた相手に言う言葉?
「それがさぁ、ボクとしたことがうっかりしちゃって……僕の部屋のベッドの上に封筒があるから、それ、奥羽ちゃんに渡して。今回の
そんな大事なこと、忘れるなよ。報酬がないだと? って、奥羽さんが怒ったら怖いぞ。
「あー。それから、いくら暇だからってボクの部屋でディスクとか探さないでね」
「ディスク?」
「うん、バンちゃんが見たら鼻血が出そうな動画が焼いてある。探しちゃダメだよ」
……どんな動画だよっ?
「たとえばピーがピヨッしてピピー、って動画。ね、判った? 絶対探しちゃダメだからね!」
隼人、なんで肝心なところがハヤブサ声なんだよっ? さっぱり判んないぞ。てか、便利に言語を切り替えるなっ! ハヤブサ語って言っていいのか迷うけどね、そのピー音。
「ん、じゃね」
と、一方的に電話は切れた。やっぱり隼人、しばらく帰ってくるな。少し話しただけで、疲労感が半端ないぞ。
ため息をついてから隼人の部屋に行く。隼人が言っていた封筒はすぐ見つかった。そして、タイトルのついていないディスクが並んでいるのもすぐ判った。
隼人のぶぅあぁ~か。ああ言えば、僕がディスクを探ると思ったんだろ? で、帰ってきて僕を責めるか
それとも ―― 本当に僕にも知られたくない秘密が隠されている? あぁ言えば、意地でも僕は見ないだろうと、そう隼人が思ったとしたら? まぁ、いいや。隼人が見るな、探るな、と言ったんだ。言った通りにしておけば、隼人は怒りも揶揄いもしない。
隼人が隠している事を、僕が知る必要もない。
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