学生トーク「88歳編」

山田 武

学生トーク「88歳編」



「88歳か……」


「…………いや、何故にそんなピンポイントな年齢なんだよ」


 当然とも言えるツッコミを入れる彼に、友人はその理由を述べる。


「米寿……なんか妙に頭に残ってさ、なんか残らねぇか米寿」


「……残るか残らないかで言えば、まあたしかに残る気がする」


「だろ!? 喜寿も米寿も白寿も皇寿も、年齢に関する言葉って妙に印象に残りやすい気がするんだよな!」


「何故にゾロ目限定……還暦とか古希の方が先なんだから忘れてやるなよ」


 話の流れから察しがつき、スマホで祝い歳について調べていた。

 なぜか77歳、99歳、111歳の呼び名のみを語る友人にツッコミを入れてしまう。


「なあ、88歳の自分って何をやっていると思う?」


「…………そういうのって、20歳ぐらいでやるからいいんだろ? なんでそんな想像もつかないぐらい先の年齢でやるんだよ」


「まあまあ、遊びなんだから。せっかくだし考えてみてくれよ」


 言われてみて、それもそうかと適当に考えてみる。

 88歳、すでに定年退職しているであろう年齢で仕事のことは考えなくていいだろう。


 ──だが、もう一つ考慮しなければならないことがあることに気づく。


「…………そもそも、生きてるかな?」


「おい!? それを考えちゃったら元も子も無いだろう!?」


「いやほら、過去の情報だけどギネスに男性の寿命が80.1歳って書かれていたこともあるんだぞ? そもそも88歳を超えてないだろ……そう考えると、無理な気がしてな」


「諦めるなよ、夢を持てよ! ほら、今の現代医療がうんぬんかんぬんで……とにかく長生きできるだろ!!」


「そうかな……俺、頑張れるかな?」


「ああ、大丈夫だって!」


 そんな人生になんら意味を持たない軽いやり取りをしている間に、次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。


 彼らは何事も無かったかのように、先ほどまでの会話など忘れて授業に向けて意識を切り替えるのだった……当然、会話の内容など授業によって上書きされたのだが。


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