喧嘩する程度には仲も良い

@chauchau

日常の切り取り


 男女が二人。

 酒場ですることと言えば、愚痴を肴に酒を飲むと相場が決まっている。


「種族の差ってやつを考えろ」


「そっちこそ男女の差を考えてものを言いなさい」


「男も女も関係ねぇだろ、今回の話にゃ」


 片や見目麗しい長身の女性。

 透き通るほど白い肌と特徴的な長い耳が、彼女がエルフであることを示している。


 片や勇ましい短身の男性。

 床にまで達する長い髭と短くも厳つい手足が、彼がドワーフであることを示している。


 絵物語のなかでは相性が悪いことで有名な二つの種族が、実際には言うほど仲たがいすることなく協力しあって生きているのは暗黙の了解である。

 だが、火のない所に煙は立たぬというように、時に二つの種族は言い争うことがままあった。それも、酒の席、男女の話となれば致し方のないことである。


「ふん、ドワーフはいつもそうよ。男女の機微ってやつを理解しようとしないのね」


「それを言うなら話のスケールを大きくするのがお前らエルフの専売特許だろうが」


「あんただってエルフでひとくくりにしているじゃない」


「お前さんに合わせてやってんだよ」


 次々に空になっていく木製ジョッキ。

 ウェイターの女性がてんてこ舞いに忙しく飛び回る一方で、周囲の酔っ払いどもは絶好の遊び道具を見つけたとばかりに賭けに興じはじめている。


「人間の88歳なんざ婆さんだろうが、それもいつお迎えが来てもおかしくないような高齢だぞ。優しくしてやった小僧を褒めてこそすれ嫉妬するなんざ見苦しい」


「88歳なんてまだまだ若い小娘じゃない! 第一、高齢とかいうけど、あの女のマナはまだまだぴっちぴちだったじゃない!」


「身体魔力で年齢を語るなって何度言や気がすむ! 寿命の短い人間の魔力が衰えるはずねえだろうが!」


「だから浮気だって言ってんのよ!!」


「ンなわけねぇだろ! 千歩譲ってそうだとしても、お前さんと小僧は恋人関係じゃねえから浮気でもねえよ!」


「100年もあれば落とせるわよ!」


「小僧が死んでるわい!」


 彼らがパーティを組むようになってもう2年が経過した。

 飲んだくれる二人と、他を合わせて五人のパーティはそこそこ成果を残している。そんな街の小さな有名人が、酒場でくだらない喧嘩話を花咲かせていることは、街の誰もが知っている。


 付け加えていえば。

 エルフがドワーフと飲んでいる間に、渦中の少年の幼馴染である人間の少女が、少年を口説いていることも、また、街の誰もが知っている話なのであった。

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