私のおじさん

「今日のお説教も長かったな、凛子」


「いつもに比べたらまだましよ、待たせてごめんね」


最近仲良くしている男の子、彼は学校近くのコンビニで私を待ってくれていた。ジュース片手にスマホを弄りながら。

今日、彼の部活が休みでありお互い会える時間が出来たので待ち合わせをした。その後は何も考えていない。


「なんだろう、なんというか……遊びいかね?カラオケとか」


「いいね!カラオケ久々だから行こう!」


当日ふらっと会って、ふらっと遊んで帰る。

そんなふんわりとした関係がどことなく心地良い。

何故仲良くなったのかは分からない、気付いたらよく会うようになった。


そんな今日の帰り道、カラオケでたくさん歌い騒ぎ、ファミレスで夕飯を食べてお開きとなった。


すっかり暗くなった道端、それでも少し前よりは日が長くなったような気はする。遠くの空が茜に染まっている。吹く風が心地良くて目を瞑る。


「みやこちゃんじゃない、今帰りかい?」


後ろから声をかけられた。はっとしながら後ろを振り向く。誰かと思ったら、その人は「おじさん」だった。


「おじさん、ただいま!」


「おかえりおかえり、今日もお疲れさんね」


優しい笑顔を見せながら私の横を歩く。


「おじさん、そのあだ名はなんか恥ずかしいからやめてって言ったじゃない」


「可愛いじゃないの〜、覚えやすいし。何よりおじさんはこの名前で慣れちゃったよぉ」


宮元みやもと凛子りこ』を略して『みやこ』と呼んでくるおじさん。何故か分からないけど、照れてしまう。


「それにみやこって、都会って意味を込めてるんだよ?みやこって文字があるでしょ?」


「あー、確かに」


「みやこちゃんはすごく立派な子でしょ?お勉強もできるし、運動もできるし。みやこちゃんの将来はね、街を繁栄させる柱になる子なんだよ」


こんなオーバーなことを口癖のように言ってくる。

できればオーバーに褒めるのはやめてほしいと言ったが「本当のことだから」と一点張りで聞いてくれない。

私が小さな頃からずっと、変わりなく。


物心ついた頃から私とおじさんは仲がいい。お菓子をくれるときもあるし、悲しいことがあったときに泣き止むまで慰めてくれたこともある。嬉しいことがあったときも、ずっと側にいて話を聞いてくれた。

今でもこうして、たまに道で会い、話したりする。他愛もない話だ。「進路を決めろと言われるのが嫌だ」と嘆いたり、授業が退屈だとぼやいたり、そんなことを話す。最近はこれくらいしか話題が無い。それでもおじさんはうんうんと聞いてくれる。優しい人だ。


「今日も話を聞いてくれてありがとう!じゃあね!」


「気を付けて帰るんだよ」


手を振りながらそう言いあって、私達は別れた。


いつも黒いズボン、黒いシャツに黒いコートを身に纏うおじさん。


全身黒ずくめなその見てくれは、一見するとただの不審者ではある。それでも私にとっては親切な近所のおじさんである。


たまに私達とすれ違う人が、訝るような目で私達を見る。「変なの」と小さな声で言われることもある。

確かにあまり普通とは言えない出で立ちだけど、それでも良い人であることは間違いない。

おじさんはかけがえのない存在である。


私だけの、かけがえのない存在。

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