世界は霧の中に隠れて掴めない
早福依千架
読めないってどういうことだろう
【文章が読めない】
こんなことってあるのだろうか。特に、普段から文章に触れる機会が多い人には、全くもって意味のわからないことだと思う。今このエッセイを読んでくれているあなたも、きっとその1人だ。
私だってそうだった。のめり込むように物語の世界に入っていけたし、スラスラと次の展開を読んでいくことが出来た。勉強だって嫌いではなかったから、回りくどい説明文だって、意味がわかってしまえばその回りくどさに感心するタイプだった。
それがどうしてだろう。文章を読み込めないことに気が付いた。まるで詰まってしまったコピー機のようだ。文章を何度見ても、脳に出力することが出来ない。「あ」は「あ」だし、「い」は「い」になった。
本を読む度、何度も同じ動きをする眼球に申し訳なささえ感じる。次の文なんて、到底読めやしない。安らぎの文章も、大切な資料も、堅苦しい医学書も、何もかもが切り離された文字と文字になる。読んだはずなのに、その瞬間から記憶が無くなっていく。プツン、プツンと、全ての文章はバラバラに脳の中に入ってくる。並べられない。繋げられない。何を言っているのかわからない。何が言いたいのか、理解できない。読み込めない。脳の中の重大なエラー。私は文字の海に溺れて、文字の波にぶつかる。海の中はどこまでも暗く、どこまでも先が見えない。
とんでもない不安に襲われた。初めてのことだった。ただただ内容が難しいとか、私自身の学力が低下したとか、そんなことなら良いのにと何度も思った。だけど、現実はそうではない。いつも読めていたものが読めなくて、いつも理解していたことが理解できない。
それは次第に文字だけじゃなく、言葉そのものにも現れることになった。誰かに言われたことが理解出来ず、行動に移せないのだ。極端な話、「歯を磨きなさい」と指示されて、「歯を磨くんだな」と文章を理解したところで、その方法が分からなくなるような感覚だ。言われていることは「音」として分かっても、内容が分からないから行動のしようがない。思考が完全に停止してしまって、何をするにも驚くほどの低速になってしまう。
そんな状況は、私をどんどんと闇の中に突き落としていった。自然と文章から離れ、物語を読むこともなくなり、ぼーっとする時間が増える。友達や知り合いから来る連絡にも返信出来なくなり、人との関わりが途絶えていく。悪循環に飲み込まれた私は、こうして完全に海に沈んでいった。
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