塩とタレと魔王軍

水曜

第1話

 とある世界のとある魔王城。

 我が最強の魔王軍は、崩壊の危機に直面していた。


「タレだ! 絶対にタレに決まっている!」

「いいや、塩だ! 塩以外は断じて認めん!」



 魔王たる私の前で、屈強な部下たちが言い争っている。

 一人一人が一騎当千の強者ばかり。伝説の勇者であろうが、異世界からの転生者であろうが返り討ちにしてきた歴戦の猛者同士が今にも掴みかからんばかりに火花を散らしているのだが。


 その理由はというと。


「焼き鳥にはタレだろうが!」

「焼き鳥には塩だ!」


 古来より綿々と続く二大派閥。

 焼き鳥のタレ派と塩派。

 今、我が魔王軍はその二つの派閥に割れて激しい争いを繰り広げていた。


 たかが食べ物のことということなかれ。

 以前に、タケノコ派かキノコ派で揉めたときは、あわや内戦の大惨事に発展する寸前だったのだ。元々、血の気の多い集まりであることに加え、どうもウチの連中は食に対して異様な執着をみせる傾向にある。


 戦って食う。

 食って戦う。


 それこそが生きる楽しみというわけだ。


「魔王様! 焼き鳥にはタレですよね!」

「何を言うか! 魔王様も塩派に決まっている!」


 何だか、こっちにまで飛び火してきた。

 正直なところ、タレが好きならタレで食べれば良いと思うし。塩が好きな塩で食べれば良いと思うのだが。


 そう言っても誰も納得はしまい。


「……我々、魔王軍の掟はただ一つ。弱肉強食だ。魔王の名において命じる。タレ派と塩派から代表者を決めて戦うが良い。己が誇りを通したければ、相手に打ち勝ってみせよ!」


 部下たちからは歓声があがる。

 結局、武闘派集団の我々にとってはこの手のやり方が一番後腐れがない。これが被害を最小限に抑える最良の方法だ。




 ちなみに、私は焼き鳥には絶対に山椒をかける。

 他の者がどう食べようと自由ではあるが。

 これは決して譲れない。



 

 なので。

 後日、タレ派と塩派の代表の戦いに乱入した山椒派が勝利をおさめたことは言うまでもない。


 

 うん。

 我がことながら。


 ……うちの魔王軍はもう駄目かもしれない。

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塩とタレと魔王軍 水曜 @MARUDOKA

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