異世界モルモットはカラカラ音を立てる

@ri_na09

第1話 ここはどこ?

 冷たい。体温が急速に奪われていく。


 痛い。頬や腕、腰に強い痛みを感じる。


 そうか、自分は倒れたのか。受け身を取ることができず、全身をしたたかに石畳に打ち付けた。 


 寒い、寒い、寒い。

 

 ひんやりとした石畳が体温をどんどん奪っていく。

 

 体は動かない。意識は戻ってきた。ずきずきと体中が痛む。ここはどこだ……?


 目だけで周りを見回してみる。暗い。月明かりが差し込んでいる。どこか建物の中のようだ。

 綺麗な宝石がちりばめられた大きな扉が奥に一つ見える。だがそれ以外は粗野な石造り。息をすれば埃が舞い、咳が出る。見た目にも汚く、まともに手入れされていない印象を受ける。あの場違いな扉さえなければ、牢獄と言われてもおかしくない作り。

 

 奇妙だな、と思った。あんな豪奢な扉を作って、内装をこんな雑にすることなんてあるのか?いや、それよりも、なぜ自分はこんなところで倒れているんだ……?というか自分って何者……。

 

 ……


 扉の向こうからかすかに音がした気がした。


 …………


 バタバタとした音がこちらに近づいてくる。誰かが走っているような。


 バタン!!と大きな音を立てて扉が開いた。


 「あーーーーーー!!!!きてますよ!きてますきてます!!」


 光が差し込んでくる。眩しい。

 メイド?そして、耳がついている。獣っぽい。猫耳というよりは狐耳。若い女の子のようだ。年のころは10代前半ぐらいに見える。

 ロングスカート。位置的にパンツは見えない。もう少しスカートが短ければ……。

 いや、いかんいかん。混乱しているのだ。そんなことを考えている場合ではない。

 笑顔。邪気のない笑顔とはこういうものを言うんだろう。大人になるにつれて失っていく、子供にしか出せないあの顔だ。

 こんな子に対してなんてことを考えるんだ自分は。


 「大丈夫ですかー?今運びますねー」

 

 どうやって?どこに?

 子供が僕を運べるのだろうか。僕の目には彼女の痩せた腕が映っている。倒れた人を移動させるほどの腕力があるとは思えない。


 ……


 あれ?寒くない。というか、ほんのり暖かいような。


 段々彼女が近づいてくる。


 いや違う。彼女は扉の近くから動いていない。満面の笑みのまま。

 気づいたらもう彼女は目と鼻の先にいた。彼女の鼻息を顔で感じるほどだ。顔を突き合わせている。何がどうなっているのだろう。


 心地よい。暖かい。ハンモックに揺られているような。


 「じゃあ行きますかー」

 

 彼女は踵を返し、部屋から出る。僕は彼女のすぐ後ろで一定の距離をキープしている。

 

 後ろで、扉がバタンと閉じる音がした。重い、重い音だった。




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