【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~
183.サジタリアス攻防戦:リリ、まさかのまさかで、まさかなことをしてくれる。その頃、魔女様はスカートがあわわわ
183.サジタリアス攻防戦:リリ、まさかのまさかで、まさかなことをしてくれる。その頃、魔女様はスカートがあわわわ
「リ、リリアナ様?」
ボボギリがついに城への攻撃を開始し、サジタリアスの兵士たちは恐慌状態に陥る。
剣聖たちは必死に応戦するも、ボボギリの火力の前に防戦一方。
さきほどからの戦闘の疲れがピークに達している頃合いでもあった。
そんな時、クエイクは信じられないものを目撃する。
先程まで腰を抜かしていたリリアナから、急に光が溢れ出したのだ。
リリアナは目を閉じたまま立ち上がると手を大きく広げる。
それと同時に、暖かい光が城全体へと広がっていく。
「き、傷が治っていく!?」
それはまさしく奇跡とでもいうべき光景だった。
リリアナの光に触れることによって、負傷者が次々に回復していくのだ。
手遅れ状態の兵士であってもそれは同じで、次の瞬間には傷が癒えてしまう。
1対1のヒーリングではなく、1対多数、それも大多数相手の同時ヒーリング。
こんなことができるのは、一つのスキルしかなかった。
そのスキルの名は聖女。
ここ数十年現れていない、正真正銘の国を揺るがすスキルだった。
「リリたん、いや、リリアナが聖女だっただと!?」
奇跡を起こしていくリリアナを見て、サジタリアス辺境伯は目をみはる。
娘のリリアナがこれほどまでの魔力を秘めていたとは。
リストは亡き妻のことを思い出す。
病床にいた彼女は心優しいリリを見て、いつも言っていた。
「リリの優しさは人々を導く」と。
彼はその光に触れるだけで、泣き出しそうになるのを我慢するのだった。
「な、なんだ、この光は!?」
ボボギリの上空で眺めていたドグラは驚きを隠せない。
城から温かい色のオーラが立ち上がり、倒れていた兵士を包んでいくのだ。
数秒もしないうちに重傷の兵士たちでさえ立ち上がる。
まるで、非常に高度な回復魔法を受けたときのように。
「ほう、この時代にも生まれているのか……」
さらに遠くの森の上空で観察していたベラリスは、その光を眺めながらつぶやく。
その魔族は100年前の大戦の頃を思い出していた。
ベラリスの拳に少しだけ力が入る。
「ええい、構わん! その光ごと、押しつぶせっ! ボボギリ!」
光は次第に拡大すると、サジタリアス全体を覆い始める。
それがドグラにとって好ましくないことは明らかだった。
ドグラはその暖かな光を目にするだけで胸の中がざわついていくのを感じる。
今までに感じたことのない、焦りとも違う、奇妙な感覚。
それを振り払うために、ドグラは一気に勝負に出る。
うぉおおおおおおおん!!
ボボギリは太い腕を城へと振り下ろそうとする。
その一撃はサジタリアスの城壁を粉々に破壊するはずだった。
しかし、それはピタリと止まってしまう。
「うざってぇわ! 魔女様とあたしの城(シマ)に勝手に入ってくんな、ボケぇええええ!」
太い枝を繰り出そうとするボボギリの前で腕を広げるのは、リリアナだった。
彼女はいつもどおりのピンク色の髪の毛、いつもどおりの華奢な体つきだった。
しかし、いつもどおりの顔つきではなかった。
いつもの温和な顔ではなく、眉は釣り上がり、戦闘的な瞳をしていた。
スキルが暴走しているのか、それともこれが素の状態なのか、それは誰にもわからない。
「うざってぇわ!?」
「あたしのシマ!?」
「ボケェ!?」
辺境伯、レーヴェ、クエイクの三人はあ然として、顔を見合わせる。
信じられないものを見たというような顔で。
「な、な、なんだ、この力は!? お、おい、動くのだ!」
ドグラはボボギリの動きに異変を感じる。
いくら命令を下しても、ボボギリが城の中へと侵攻できないのだ。
それどころか、少しずつその巨大な体が押し戻されていく。
より巨大な何かがボボギリを抑え込んでいるようだ。
並の騎士なら一撃で殺すことのできる種での攻撃を発することもできない。
剣聖たちを苦しめた縦横無尽に動く小枝を出すこともできない。
城壊しのボボギリがまるで無力化されてしまった有様なのだ。
ボボギリの瞳には光が宿って入るものの、動くことがほとんどできない。
「おぉおおおっ! 傷が治ったのだっ! にゃはは、リリアナ様かっこいいのだよ!」
クレイモアは嬉しそうにリリアナのところに駆け寄る。
先程まで体中にできていた傷がリリアナの光によって一気に癒されてしまった。
握力も戻り、再び全力で剣を振るえそうだ。
しかし、聖女に覚醒したリリアナはそれだけでは満足しなかった。
「クレイモア、ハンナ、シルビア、サンライズ、こっちに来なっ!」
彼女は4人の騎士を大声で呼び出したのだ。
その口調や顔つきは明らかにいつものリリアナではなく、また別の何かのようだった。
「ひぃいいい、剣聖を呼び捨てにしてるぞ!? あんなの私のリリたんじゃない……」
「なんだか、かっこいいぞ、リリアナ……。ち、父上、お気を確かに!?」
辺境伯は愛する娘の豹変に驚きを隠せない。
いつも温和で柔和で誰にだって優しい少女、リリアナ。
クレイモアに無茶振りされて八の字眉毛の少女、リリアナ。
それがあろうことか、自分よりも遥かに年上の剣聖サンライズを乱暴に呼び捨てにしているのだ。
もっとも、リリアナは貴族であり、サンライズはその配下の騎士団所属だ。
主従関係から言えば決して間違っているわけでない。
しかし、今までとのあまりの違いにリストは卒倒しそうになる。
「加護がほしいか?」
リリアナは自分の前に集まった4人の心に直接、語りかける。
魔力を伝導させることによって可能な特殊な技法である。
それは天魔のシルビアでさえ、まだ習得していない魔力操作の奥義の一つだった。
「ひ、ひぇ、リリアナ様の声が響いてくるのだ!」
「すごいです! これって魔女様の言葉が私の中に降りてきたときみたいですぅ」
「な、なんなのこれ!? え? 加護って何!?」
「ふぅむ、これは年寄りにもよく聞こえるのぉ」
4人は突然のできごとに、目を白黒させる。
それもそのはず、心にいきなり語りかけられると普通はびっくりしてしまうのだ。
もはや加護がほしいと応じられる状況でもなかった。
蛇足であるが、ハンナの心にユオが語りかけたことはない。
これは一種の妄想による記憶の捏造である。
「我は
しかし、ほぼ暴走したリリアナは相手の言葉など聞く耳を持たない。
彼女はすぅっと息を吸うと、4人の戦士に勝手に大量の加護を繰り出した。
刹那、オレンジ色の光が戦士を包み込む。
加護、それは補助魔法の術士が使える魔法の一つだ。
攻撃力、防御力、あるいはそれ以外の能力を一時的にあげるというもの。
しかし、聖女であるリリアナのそれは一般的な加護とは異なっていた。
「おおおおおっ! 体が軽くなったのだ! 翼が生えたみたいに!」
「私も飛べそうですぅううう! 力も湧き出てきます! アイキャンフライ!」
クレイモアとハンナの体が輝き始める。
きぃいいいいいんっと耳鳴りがするほどの大量の魔力が溢れてくる。
その力は剣先にも及び、今なら触れるものをすべて一刀両断できるという自信が生まれてくる。
「す、すごいわ! 魔力がどんどん溢れてくる! 理想の私になれたみたい!」
シルビアは魔力操作せずとも、自分の体型を偽装できていることに気づく。
胸はぼぼんとせり出し、ウエストはきゅっと締まり、脚はすらっと地面に伸び、ヒップはほどよく上がっていた。
まさにシルビアの考える最強の美女。
それなのに、一切の魔力の消耗を感じない。
体が軽く、心も軽い。
シルビアはこれで心置きなく戦えると確信するのだった。
「お、おぉ、膝の痛みが消えたのじゃ! 目もよぉく見えるぞい!」
極めつけはサンライズだった。
髪の毛に色が戻り、顔の皺も薄くなっていく。
それでも十分に中年だったが、多少なりとも若返っている。
クエイクは「若返っとるぞ!? そんなんありなん!?」などとツッコミをいれる。
だが、リリアナが恐ろしげな雰囲気なので、追随してツッコむものはいない。
「さぁ、行きなっ! サジタリアスの城を壊してくれたやつに100倍返しだっ!」
リリアナはぎろりとボボギリをにらみつける。
その目線の先にあるのは巨大なモンスターだけではない。
そこにはドグラが浮遊していた。
ドグラはリリアナの光によって偽装魔法を暴かれてしまったのだった。
「木偶人形使いのバカ魔族、てめぇも首を洗って待ってろよ! ぎったぎたに癒やしてやるから、かかってこいよ!」
リリアナは扇動的な言葉で、ドグラの討伐を高らかに宣言する。
それはボボギリを完全に無効化したことによる勝利宣言に他ならなかった。
「木偶人形だと!? お、おのれぇええ!? 私の研究を愚弄するかぁああ!」
もちろん、その態度にドグラは激高する。
魔族とは人間の上位的な存在であり、恐れられる存在でなければならない。
その信条を揺るがされたのだ。
彼の内側に沸騰するのは、ただの怒りではなかった。
「ベラリス様の命令通り、生ける屍にしてやろうと思っていたが、お前らは粉々に砕いてやる!」
彼はふぅっと息を吐き、目の前の魔法陣の出力を最大限に上げる。
それは世界樹のエネルギーをボボギリに最大許容量の分まで注ぎ込もうという術式だった。
うおおぉおおおおおおおおん!!!
魔力を受けたボボギリはさらに巨大化。
リリアナの光を突き破ると、再び動き出す。
それに対するのは、4人の戦士と1人の聖女。
ボボギリを収束させる最後の戦いが始まろうとしていた。
◇ その頃一方、魔女様は
「な、なんなのよ、ここの植物!? 水玉ピンクとかどういう趣味!?」
「あぎゃああ、ここは迷いの森じゃ! ありゃりゃ、わしの植物操作が効果ないぞ!?」
「ちょっとぉおお、やばいって、私のスカートが破れる!? エリクサー、パンツ見えてる! あーもう、ここらへんの森を燃やすけどいい!?」
「待つのじゃ! この森は貴重な資源なのじゃぞ! ふむふむ。なるほど、そうか、こやつら古文書にある『つんでれ』というやつじゃ! 褒めるのじゃ! 褒めれば言うことを聞く!」
「な、なるほど。えーと……。わぁ、すごーい、キレイな水玉模様の花ですねぇ! センス抜群!」
「そっちの緑とピンクの樹の実もかっこえぇのぉ!」
「すごぉおい、花にギザのギザの歯がついてるって流行の最先端ですねぇ!」
「お、おぉ、少し、でれっとし始めたぞ! その意気じゃ!」
魔女様とエリクサーは道に迷っていた。
少しだけ、少しだけである。
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