【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~
142.ラインハルト家のミラージュ、禁断の大地に聖域エリクサーがあると知って、ユオの村に攻め込みます! さぁ、戦争だ!
142.ラインハルト家のミラージュ、禁断の大地に聖域エリクサーがあると知って、ユオの村に攻め込みます! さぁ、戦争だ!
「なんだとぉっ!? ユオの村の近くに聖域草の群生地があるだと!?」
その知らせを聞いたミラージュは仰天する。
禁断の大地に聖域草があるとは知っていた。
だが、それは非常にまれなものだと聞いていたからだ。
「は、はい。ザスーラの冒険者ギルドが声明を出しまして、ザスーラ中が仰天しております。これはおそらく、ビビッド商会が販売している特効薬とも大きく関係していると思われます」
「ちぃっ、奴らが出てきたのか……」
ビビッド商会の名前を聞いてミラージュは歯噛みする。
その商会は儲かることならなんでも口を挟んでくることで知られていた。
独自のスパイや兵団を持っており、真正面から戦うのは面倒くさい相手だ。
「アクト商会の販売網は激減しております! いかが致しましょう」
ミラージュの部下は聖域草取引のパートナーであるアクト商会の現状について事細かに説明する。
聞けば聞くほど、アクト商会は劣勢に立たされていることがわかる。
特に悪いのが平民相手にインチキ薬を売りさばいたことだ。
ザスーラの首相は平民出身ということもあって、あまりおおっぴらにそんなことをやると睨まれる可能性がある。
このままではラインハルト家も非難されるかもしれない。
ミラージュは顎に手を当てながら、しばし熟考する。
「アクト商会との関係はこれで終わりだと伝えよ。もう十分に儲けさせてもらったからな」
「ははっ」
ミラージュはアクト商会との関係をこれにて清算すると伝える。
そもそもは商売上のパートナーでしかないわけで、これ以上、深入りするのは危険だと判断したのだ。
当然、アクト商会への後ろ盾も解除することになる。
何事も引き際が肝心なのだとミラージュは自分の考えを誇らしく思う。
「今回の件につきまして、ガガン様にはいかがお伝え致しましょうか?」
「在庫が一掃され、アクト商会との取引が円満に終了したとのみ伝えよ。父上は休暇中だ、報告は遅れてもよい」
「ははっ」
ミラージュは禁断の大地での聖域草の群生地については伏せた上で、報告するように伝える。
なぜ聖域草について伏せたのかと言うと、理由がある。
彼にはもう一つやるべきことがあったからだ。
「それと、聖王国の魔獣使いに伝令を出し、ここに来るように伝えよ」
「聖王国ですか!? りょ、了解いたしました!」
部下の男が部屋から去っていくと、ミラージュは地図を見てにやりと笑う。
彼の視線の先にはユオの住む禁断の大地があった。
「それなら俺が禁断の大地の村ごと手に入れてやろうじゃないか! ユオ、お前は私のための踏み台となるのだ……!!」
ミラージュは禁断の大地に秘密裏に出兵することを決意する。
父親が女王から睨まれていることもあり、派手な動きはできない。
例えば、彼の率いる騎士団を行軍させることは不可能だ。
しかし、それでもミラージュに恐れる要素など何一つなかった。
そもそも彼は優れた炎魔法の使い手であり、辺境の村の制圧など一人でも十分だ。
さらに念を入れて、聖王国から魔獣使いを数人雇い入れることにしたのだ。
アクト商会との取引で財源だけは十分にある。
大規模なモンスター軍団を組織し、村を思いっきり蹂躙してやろう。
「完璧な計画だ……!」
禁断の大地の村を手に入れ、聖域草の群生地を手に入れること。
それこそが彼の兄たちを出し抜き、ラインハルト家の跡取りレースで先頭を走るための奇策なのだ。
彼は含み笑いをしながら、そう確信するのだった。
だが、彼は知らない。
その村で新たな化け物が生まれようとしていることを。
◇ 一方、その頃、ララたちは
「ララさん、これで今日のノルマは終わりです!」
「皆さん、お疲れ様です!」
ユオがメテオたちの街にいる間、辺境の村は大忙しだった。
特効薬の生産と搬出は村人総出で行う一大事業と化していた。
その先頭で村人を鼓舞していたのが、ララである。
普段はユオの補佐をしている彼女であるが、ユオがいないときにはリーダーとして働くように言われていた。
ララの采配により村人たちの仕事は効率化され、朝から夕方までの7時間労働ですむことになった。
もちろん、おやつもついてくる。
ユオから手紙ではメテオを無事に取り戻したことが書かれていた。
特効薬の流通も問題なく、このままのペースで行けば、数週間以内に流行病は沈静化するのではないかという話だ。
ユオはこれからザスーラの首相に会ったら、すぐに戻ってくると言う。
「これで一仕事、完了ですね……」
ララはふぅっと息を吐いて、主人が返ってくるのを待つのであった。
そんな折、見張りの一人がララのもとに駆け込んでくる。
「ララさん、大量のモンスターを連れた人たちが見えます! お、お客様でしょうか!?」
見張りが言うには、村から数kmの所に大規模な布陣が見えるということだ。
旗をたてておらずどこの勢力かはわからない。
しかし、ララはすぐに尋常の事態ではないことを察知する。
大量のモンスターを使役することの目的は一つしかない。
『戦争』の二文字が彼女の頭の中に浮かび上がる。
おそらく聖域草の情報を聞き出した何者かが軍勢を率いてきたのだろう。
ララは村人の一人に急いで鐘を叩かせ、非常事態であることを連絡する。
「みなさん、訓練どおりに整列してください! 冒険者の皆さんに志願を募ってください!」
それから、村人たちに号令をかける。
サジタリアスの兵団に攻め込まれたときは村長とユオの二人が撃退した。
しかし、今はかなり分が悪い。
まず領主かつ村の最大戦力のユオは村から離れている。
「ララさん、やっぱり、あの三バカ、じゃなくて、村長とハンナとクレイモアはダンジョンにモンスターをしばきに行ったみたいですわ!」
ドレスが慌てた顔をして駆け込んできた。
そう、今まで村を守っていた三人に休暇を与えたら、仲良くダンジョンに潜ってしまったのだった。
たまには温泉でゆっくりなんてことができないのが、あの三人である。
リリの話では『ダンジョンで料理を作る』とクレイモアが言っていたらしく、村に戻るのは遅くなる可能性が高い。
『油断』
『平和ボケ』
そんな言葉がララの頭の中をよぎる。
だが、すぐにその考えを振り払う。
今は平時ではない。
自分を責めるために時間を使ってなどいられないのだ。
ララは考える。
村のハンターを派遣して三人を呼びもどすべきか?
しかし、ダンジョンの中を捜索するのはかなり時間的に厳しい。
そもそもダンジョンに到着するまでにあの崖を降りて、モンスターを倒す必要がある。
それよりもハンターと村人だけで村を守るべきか?
冒険者はどれだけ協力してくれるだろうか?
ララの中でいくつものシミュレーションが組み立てられる。
「ララさん、どうしましょう? ま、また私は囮ですか?」
リリは泣き出しそうな顔をして、そんなことを言う。
だが、今回のモンスターは人間に操られている以上、囮に使える可能性は低い。
リリには負傷者の手当をお願いすることを伝えると、リリは「わかりました」と強くうなずくのだった。
「おぉい、敵さん、ぞろぞろと集まってやがるぜぇ」
ララはドレスと一緒に、ひとまず村の城壁の場所で向こうの出方を窺うことにした。
ドワーフたちの構築した頑丈な壁がある以上、一気に攻め込むのは難しいはずだ。
敵もそれをわかってか、隊列を整えて出方を窺っているようだ。
「ララさん、連中から手紙が送られてきました!」
見張りの少年が持ってきた手紙の宛名を見たララは、ぎょっとしてしまう。
そこには『愚かなる妹、ユオへ』と書かれていたのだ。
ララはその筆致だけで何が起きているかを理解する。
攻めてきたのは彼女の主人であるユオの義兄、おそらくはミラージュであることを。
おそらくは聖域草やダンジョン発見の噂を聞きつけて、村を横取りに来たのだろう。
主人あてに送られてきた手紙をメイドの自分が開けることはできない。
だが、中に何が書かれているかは想像ができた。
あの傲慢なミラージュがモンスターの軍団を引き連れてきて、仲良くしようなどというはずもない。
そうなると選択肢は一つ。
主人であるユオが戻るまで守り切るしかない。
ララは城壁の近くに村人を集めると、大きな声で演説を始める。
「今、魔女様は村にいない。しかし、これは敗北を意味するのか? 否! 始まりなのだ! 他の地域に比べ、我が村の人口は万分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か。諸君! 我が魔地天国温泉の目的が正義だからだ! 魔女様ばんざい!」
ララにはアジテーションのスキルがあったらしく、村人たちを鼓舞し、勇気づける。
「さぁ、皆さん、防衛戦といきましょう。いいですか、誰一人、死んではいけませんよ! すべては魔女様のために!」
「おぉおおおおおお! 魔女様さいこぉおおおお!」
「魔地天国おんせぇええええん!」
ララは村人たちを前に大きく気を吐く。
村人たちはそれに呼応するかのように、大声を張り上げる。
ユオ、村長、ハンナ、クレイモア抜きの防衛戦争が始まろうとしていた。
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