92.魔女様、サジタリウス上空に赤い円を発生させ、この世の終わり状態にする
「あのトビトカゲ、ぜったいに許さないんだから!!」
私は辺りを入念に見回す。
外にはもう兵士はおらず、見張りの人の死角に入ることもできそうだ。
私がスキルを発動させてトビトカゲがいなくなっても、文句は言われないだろう。
私は曇り空を見上げて、大きく深呼吸をする。
空はどんよりとしていて、なんだか物憂げだ。
狙うは上空数百メートルの腐ったトビトカゲ。
奴らは規則的に旋回していて毒を撒いている。
まるで、私たちをあざ笑っているかのように邪悪なモンスター。
私のドレスを汚してくれた、最低最悪のモンスター。
はっきり言って、うちの村の近くにいるトビトカゲのほうがよっぽどかわいい。
「あんたたちなんか、燃えちゃいな!」
私はモンスターの旋回する範囲すべてに赤い熱の円が出現するのを想像する。
赤い円が、高熱に、いや、超高熱になり、触れたものは跡形もなく燃える。
そんなイメージをする。
——ふぃいいいいん。
すると妙に緊張感のない音とともに、私の眉間から真っ赤な円が発生。
これはさきほどの余興で氷を溶かしたスキル、熱平面とほとんど同じものだ。
……だけど、ちょっとだけ違う。
——ふぃぃいいいいいいいん。
そう、空に浮かぶのだ。
あれはまっすぐ対象に向かうだけだったけど、これは上下に移動するのである。
それは変な音をたてながら、ゆっくりと空へと浮かび上がっていく。
よぉし、このまま大きくしちゃおう!
この間は村全体の気候を変えたんだし、街を覆うぐらいの円だってできるはず。
————ふぃぃいいいいいいいいいん。
数秒後、私の放った赤い円はトビトカゲの飛行範囲をすべてカバーする範囲にまで拡大していく。
見上げれば空一面、真っ赤だ。
曇り空に真っ赤な円が浮かび上がっている。
……あれ?
ちょっと大きくなりすぎちゃった?
気づいた時にはサジタリアスを覆うぐらい、めちゃくちゃ巨大な円が空に現れていた。
自分で大きくしておいてなんだけど、サジタリアスってここまで大きいのか。
だ、誰も見てないよね?
でも、まぁ、こんな巨大なのを私みたいな普通の女の子が作ったなんて誰も思わないよね?
うん、それだ、そうに違いない!
————————ばしゅ、ばしゅ、ばしゅ。
私の放った赤い円はトビトカゲの毒息を受け止めながら、さらに上昇を続ける。
まだ慣れていないからか、動きはそんなに速くない。
だけど、これでもう街が汚染されることはないはずだ。
————————————じゅっ、じゅっ、じゅっ…。
そして。
トビトカゲたちは「消える」。
まるでろうそくの炎を水の中に入れた時みたいな、しょんぼりした音とともに。
私の放った円が旋回するトビトカゲたちを全部燃やしてしまったのだ。
ふぅむ、さすがに剣が蒸発するぐらいの高温だと、消えちゃうものなんだなぁ。
「あ、一匹だけ残ってる!」
ふと気づくと、1匹だけ飛んでいるのを発見する。
「悪いけど、逃がさないよ!」
熱視線を飛ばして、胴体を真っ二つにする私なのである。
しゅぼっと音がして、明らかに手ごたえあった感じ。
おそらくはサジタリアスの外に不時着するだろう。
「えええええ、うっそぉ!? あれで生きてるの!?」
しかし、トビトカゲはかろうじてのこった翼でふらふらと飛行を続ける。
さすがは腐ったトビトカゲ。
クレイモアが攻撃した時も飛んでたもんなぁ。
あろうことか、そいつはこっちのほうに向かってくる。
うわ、やだ、気持ち悪いし、あんまり間近で見たくない。
「えいっ!」
しょうがないので、熱平面を生み出す。
先ほどは大きすぎたから、今度は少し小さめの奴を。
慣れが生じたのか、さっきよりもすんなりと赤い円が現れる。
その熱の円はすすーっと飛んでいって、トビトカゲに直撃する。
……じゅっ。
今度もやたらとしょんぼりした音とともに、トビトカゲは消える。
ふぅ、よかった。
あんなの絶対に間近で見たくない。
……コトン。
「ん? なにこれ?」
トビトカゲの残骸とともに、上から何かが落ちてきたのだ。
拾上げてみるとそれは指輪で、私には読めない文字が刻印されていた。
私の熱で溶けなかったのか、しゅーしゅー煙をあげている。
なんだろこれ?
ドラゴンがどこからから持ってきたのかな?
なんだか、値打ち物の予感だし、もしも売れるなら村の財政の足しにしてもらおうかな。
戦利品というわけで私はそれをもらっておくのだった。
貧乏領主だし、これぐらいはいいよね?
「あっ、いい天気」
私は空を見上げる。
サジタリアスの上空の雲にはぽっかりと穴が開き、とてもいい天気が広がっていた。
すごくきれいな青空で、空気も住み切っている感じ。
なんだかすっごく気分がいい。
ふぅっ、ちょっとせいせいした。
いくら温厚な私でも怒らなきゃいけないことってあるよね。
周囲を確認した後、私はこっそりと屋内に入るのだった。
よぉっし、バレてない。
バレてないよね?
【魔女様が使用したスキル】
・熱平面(円):より広範囲に高熱を発する円を放つスキル。温度を選ぶことはできるが、今回はクレイモアの剣を溶かしたのと同じぐらいの温度。人間の都市一つぐらいは軽々と射程にいれることができる。相当の防御がない限りは、即死してしまう。広範囲の即死技。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます