60.黄昏の剣聖サンライズ VS 白昼の剣聖クレイモア
「……ご老人、名前はなんていうのだ?」
「名乗るほどの名前は持っておらんな、今はただの辺境の村の村長じゃ」
白い鎧兜に身を包んだ長身の女騎士、クレイモアは両手剣をもって構える。
守ることを捨てた攻撃特化の構えである。
対する村長のサンライズは片手剣を構え、一撃必殺のカウンターを狙っていた。
がぎぃいん!
金属がこすれる音とともに二人の戦いは始まる。
「やるな、老人!」
「ふむふむ、なるほどのぉ」
身の丈ほどもある大型の両手剣でサンライズを一刀両断にしようとするクレイモア。
だが、サンライズはそれを間一髪でかわし、鎧の隙間を狙って攻撃を仕掛ける。
迷いのない一撃必殺の技を繰り出すクレイモア。
対するは、変幻自在のカウンターを駆使するサンライズ。
がぎぃん、がぎぃいんと鋭い金属音が響き、一進一退の攻防が始まる。
「う、嘘だろ。クレイモアと斬り合える人間がいるなんて」
「あの一撃で普通は死ぬだろ? どうなってるんだ、あのじじい」
お互いの刃を削り合うような接戦が始まると、サジタリアスの兵士たちが動揺の声をあげる。
大地の果てと呼ばれる辺境に尋常ならざる老剣士がいることが信じられないのだ。
「ふははっ! こんなに強いのとやりあったのは初めてなのだ! 敬意をこめて名乗らせてもらおう」
クレイモアは少しだけ間合いを開けて、大きな声を出す。
「あたしの名前はクレイモア、白昼の剣聖、クレイモア・ウインターなのだ」
クレイモアはサンライズと距離をとると、高らかに自分の名前を宣言する。
クレイモア・ウインター。
白昼の剣聖。
その名は辺境地域には広く知られたものであり、ザスーラ連合国の至宝とまで呼ばれる人物だった。
「ひぃいいい、やっぱりあれは白昼の剣聖やったんか」
「ひっさびさに見たで……、あれが白昼」
名乗りをあげたクレイモアを見て、メテオとクエイクは怯えた表情をする。
彼女たちはその白い鎧から、あれがクレイモアであると予感していた。
「ユオ様、あれは別格やで。サジタリアスどころか、ザスーラ連合国全体で見ても化け物の類いやで?」
メテオはそう言って、クレイモアの逸話をユオに紹介する。
いわく、
・南部に現れた巨大な魚竜を討伐した
・城壁ほどの大きさのゴーレムをしずめた
・盗賊団のアジトを襲撃して、1000人単位を捕縛した
などなど、その活躍は枚挙にいとまがない。
サジタリアスの悪人たちは、その名を聞いただけでも震え上がると言う。
彼女が降伏勧告を行なったのも、剣聖の名を使って相手を揺さぶることだったのだ。
もっともユオは剣聖の名前など知らなかったので、動揺することもなかったが。
「もう一度、問う、あんたの名前を教えてほしいのだ!」
クレイモアは両手剣を下ろしたまま、大きな声で問いかける。
兜で顔立ちはわからないが、その視線が真摯なものであることは疑いようがない。
サンライズは久しぶりに騎士道らしきものを感じ、素直に名乗りをあげることにした。
「わしの名前はサンライズ・サマー。それだけ言えば、十分かの?」
サンライズ・サマー、その名前を聞いた騎士団の面々はざわつき始める。
2代ほど前の剣聖の名前であり、剣聖の区分は「黄昏」。
その名の通り、変幻自在な攻撃スタイルを得意とする人物だ。
当時、世界最強のリース王国の騎士団長として幾多の戦場を飛び回った人物だ。
竜を殺した逸話など、もはや伝説の一人になっていて、まさかこんな辺境で生きているはずがないとさえ思えた。
「サンライズ!? うそだろ、あのじいさんがサンライズなのか!?」
「とっくに引退しているはずだろ。それに、もう90超えてるんじゃないのか?」
どんなことがあっても心を動かさない歴戦の騎士団であってさえも、伝説の人物の登場に心は揺れる。
もちろん、虚偽であると疑うことはできる。
「本物なのか?」
「わからないが、あのクレイモアと斬り合ってんだぜ?」
「同等の力を持ってるってことなのか、あのじじいが!?」
しかし、剣聖クレイモアと真っ向から斬り合う姿は、彼が本物であることの何よりの証拠だった。
「はははっ、十分なのだ! 黄昏の剣聖!!」
クレイモアは果敢に大剣を振るい、サンライズへと斬りこんでいく。
一方のサンライズはその攻撃を柔らかく受け流す。
まさに一進一退の攻防。
「……クレイモアよ、お前は自分の父親のことを覚えているか?」
斬り合いながら、サンライズはクレイモアに質問をする。
しかし、命のやり取りをしている時にはあまりに場違いな質問だ。
「あたしは物心ついた時から母上殿と二人暮らしなのだ!」
クレイモアはその質問にかく乱されることなく、攻撃をしかけながら返答する。
ユオ達、サジタリアス騎士団たちは固唾を飲んで戦いの動向を見守る。
激しくぶつかり合う剣と剣、二人の実力が伯仲しているのは明らかだった。
「くだらないお話はもう終わりなのだ!! 喰らえ!」
クレイモアは両手剣を頭上に抱えたまま、高く飛ぶ!
そして、サンライズの頭上にいきおいよく大質量の大剣を振り下ろす。
「出たぞ! クレイモア様の必殺技だ!」
騎士団の面々は勝負が決まったと声をあげる。
クレイモアの放った技は激烈激震(ギガインパクト)。
名前はそうそうたるものだが、クレイモアは器用なことができるわけではない。
実際にはただのジャンプからの剣撃である。
しかし、単純明快な技にもかかわらず、その攻撃を無傷でかわしたものはいない。
その理由は明白だった。
圧倒的な、そう、圧倒的すぎる破壊力を持った一撃なのだ。
どっがあぁああああんっ!!!!
大音量の破壊音とともに、地面に半径10メートル程度の大穴が開く。
この技は攻撃を避けたとしてもその衝撃で敵を倒すことに目的があった。
禁断の大地からたまに迷い出てくる陸ドラゴンさえ、一発でバラバラにしてしまう。
研ぎ澄まされた肉体から生まれる圧倒的な破壊力が、その特徴だった。
それこそが、クレイモアの持つ剣聖の区分、<<白昼>>の特徴だった。
まさに空に輝く太陽のような、あからさまかつ、あっけらかんとした堂々たる攻撃スタイル。
しかし、それが故に攻撃を防げるものはこれまで現れなかった。
「おじいちゃん!」
祖父がやられたと思ったハンナは救出に向かおうとする。
サンライズは温泉を通じて回復しているとはいえ、スタミナはそれほどなく、体力的にはクレイモアにはかなわない。
ユオ側の人材でそれを見抜いていたのは同じく剣士のハンナだけだった。
「ハンナ、来てはならん!」
ふらふらっと大穴から這い出る真っ白い髪の剣士、サンライズの姿がそこにはあった。
額から血を流してはいるが、まだなんとか立ち上がることは可能らしい。
「う、嘘だろ?」
「あの一撃で陸ドラゴンの群れでさえバラすっていうのに……」
クレイモアの一撃を喰らって立てるものがいることに騎士たちは驚嘆する。
騎士団の表情は凍りつき、もはや誰もはやし立てるものはいなくなった。
「じいさん剣聖には悪いけど、ここで眠ってもらうのだ!」
クレイモアは傷を負ったサンライズに向けて大きく両手剣を振り下ろす。
胴体を真っ二つに叩き切る勢いで放たれた斬撃は、しかし、空を切るのだった。
「なっ!!?」
明らかに瀕死だったはずのサンライズの姿が消えたかと思うと、次の瞬間、クレイモアの白い兜が宙を舞う。
クレイモアの金色の髪の毛が風に煽られてきらめく。
とどめをさす際の一瞬の油断。
その油断をついた鮮やかなサンライズの刺突だった。
クレイモアはあまりに速いサンライズの剣撃に反応できなかった。
だが、彼女は身に着けていた白い兜によって一命をとりとめる形になった。
「ぐぐっ、今のを防がれるのか? ふぅむ、難儀な防具じゃのぉ」
追い詰められたのはサンライズの方だった。
「……ここまでか。魔女様、申し訳ございませぬ」
起死回生の一撃を放ったはずが、相手の兜に防がれ、傷一つ与えられなかったからだ。
彼の体力は限界に達し、呼吸は荒く、足はがくがくと震えている。
勝敗は誰が見ても、明らかだった。
「……白昼の剣聖よ、一思いに斬るがいい。ここがわしの散り際じゃ」
「サンライズ、あんたのことは忘れないのだ!」
サンライズは一思いに自分を斬るようにクレイモアに伝える。
クレイモアは両手剣を頭上に構え、サンライズにとどめを刺そうとする。
ハンナは必死の思いで駆け込むが、もはや間に合う距離ではない。
誰もがサンライズの最期を確信したその瞬間だった。
じゅっ……。
「ひえぇえ、私のクレイモア(両手剣)が折れたのだぁああ!?」
岩をも砕くクレイモアの両手剣が、真っ二つに折れてしまう。
いや、折れたのではない。
両手剣の断面は直線的なものであり、より鋭利な剣で切られたようになっていたのだ。
その断面は赤く光り、金属が溶けるとき特有の不愉快な匂いを発生させる。
「あたしの大事な剣がぁああ!?? 誰だ、許さないのだ!」
剣を折られ、怒りの声をあげるクレイモア。
「村長さん、諦めちゃダメでしょ! これ以上、やるって言うなら私が相手になるわ」
そこに現れたのは、黒髪の少女、そして、禁断の大地の領主、ユオだった。
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