3.自称最強の盗賊は悪夢を思い出す

「あんたたち、降参するなら今のうちよ。私のヒーターのスキルでぶっ飛ばしてあげるわ!」


 俺の名はジャミ。


 辺境間近の村じゃちったぁ名のしれた偉大なる盗賊だ。

 自分で言うのも何だが、俺は強い。

 並の冒険者なら、片腕であしらっちまうぜ。


 今日も楽しく馬車を襲っていたら、予想外の出来事が起こる。


 馬車の中にいた小娘が俺たちをやっつけるなんて言い出す。

 育ちが良さそうな服を着た、いかにもお嬢様って感じの小娘だ。


 しかも、そのスキルは「ひぃたぁ」などと言いやがった。




「はぁあ!? ひぃたぁだぁ?」


「そんなスキル聞いたことねぇぞ?」


「どうせ、ものを温めるとか、そういうしょっぼいスキルだろう」


「言っとくが、親分のスキルは爆裂拳だ。お前が妙な動きをした瞬間に吹っ飛ぶぞぉ?」


 俺たち腕一本で生きている盗賊。

 仲間は百戦錬磨の強者ぞろいだ。


 この俺は爆裂拳のスキルを使いこなすことで、どんな相手も沈めてきた。

 そんじょそこらの小娘にやられるわけがない。



 仲間たちと笑っていると、小娘は地面にかしずく姿勢をとった。

 なるほど、謝罪するので許してほしいっていうサインだろうか。


 しかし、そうは問屋が卸さない。

 奴隷売買は大金になるんだからな。

 

 武器や手下どもの手当のためにも、金がいるってもんだ。

 この小娘はいくらになるんだろうかと、算段を付けているときだった。



「えいやっ!」


 ちゅどーんっ。


 足元から伝わる爆風。

 耳をつんざく強烈な音。

 

「ぐ、ぐひぃっ!?」


 何が起きたのかわからないまま、俺はふっとばされていた。

 そして、そのまま森の木に体をぶつけて呼吸さえできない。


 な、な、なんだ!?

 何が起こった!?


「親分(おやびん)がやられた!? な、何が起きてやがる!?」


「くそぉ、魔法使いか!?」


「てめぇっ! ジャミ一家を舐めるなよ!」


 俺がふっとばされたのに気づいた仲間たちが大声を上げる。

 油断した俺も馬鹿はたしかに馬鹿だった。


 しかし、あの小娘がいくら妙な技を持っていようと、多勢に無勢。

 仲間たちの一斉攻撃に敵うはずが————



 ちゅどーんっ!


 ぼくわぁああーん!


 ずがぁあああん!


 俺はこれまでに見たことのないぐらいおっそろしいものを目にしていた。

 仲間たちが攻撃を加えることもできないまま、無慈悲にぶっとんでいくのだ。


 悪夢だ、これは悪夢だ。


 「ひぃたぁ」なんていうしょぼいスキルの小娘に俺たちが一方的にやられるなんて。

 気づいたときには縄で縛り上げられ、村の牢屋に放り込まれていた。



 俺は知らなかった。


 その数日後に続々と俺のライバルと目する盗賊団が捕まってしまうことを。

 疾風のアニーキに、恫喝のジャーク、そして、豪胆のアセッカーまで。

 数日もしないうちに牢屋がいっぱいになってしまうことを。


 しかも、それをしたのは全てあの黒髪の女とメイド服の女のコンビだということを。

 あの忌々しい黒髪女は<<盗賊殺し>>なんていうあだ名が付いていることを。

 そして、奴こそが<<灼熱>>だったなんて。

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