2.ユオ様、盗賊相手に「熱」を出す


「ひゃっはー! 仕事の時間だ!」


「おらおら、お前ら馬車を降りろ!」


 住み慣れた王都を離れ、荷馬車を乗り継いで北へ向かうこと1週間。

 私を追放してくれた実家が治める領地を通行している私達なのである。


 街道を移動するにつれて思うのは、とにかく村々が貧しそうなこと。

 みんな着ているものが質素だし、家も簡素だし、王都とは大違いだ。


 治安さえ怪しくなってきた地域に入ったところで、冒頭の出来事が発生。

 私たちの馬車は十数人の盗賊に囲まれてしまったのだ。

 明け方直前の薄暗い時間帯であり、とっても眠いし、とってもムカつく。


 昔からよく言うことだけど、人の眠りを妨げたやつは地獄行きと相場が決まっているのだ。



「おぉっ、若い女が乗ってるじゃないか!」


「子供は奴隷商人にでも売るとするか。ひはは、今日は宴ができるぞ!」


 抜け出そうか考えていると、無精ひげだらけの男たちが私たちを見つけて騒いでいる。

 見張りをしていたはずの馬車のおじさんはとっくに逃げ出してしまったらしい。


「ママ、怖いよぉ……」


 荷馬車の乗客は子供二人を連れたお母さんと私たち。

 子供たちは恐怖でがたがたと震えている。


 普通に考えればこの先の人生が真っ暗になってしまう絶体絶命の大ピンチ。

 だけど、ここで大人しく盗賊どもに従うつもりはさらさらない。



「ご主人さま、私がやります。無礼者には氷漬けか、かき氷になるか選んでもらいます」


 ララが小さな声で物騒なことを言う。

 自信があるのはいいことだけど、盗賊のかき氷は想像したくないなぁ、うん。


 見えている範囲で盗賊は10人前後。

 たぶんだけど、ララの魔法だけでもやれない人数じゃない。


 とはいえ。


 さすがに全員を一瞬でやっつけるのは難しいだろう。

 奴らはきっと私たちを取り囲んで袋叩きにするつもりだろうから、ちょっとでも時間の猶予を与えるのはまずい。



「私に任せてくれる? せっかくのスキルを試してみたいし」


「……わかりました。危なくなる前に補助いたしますので」


 というわけで、私は出番とばかりにひらりと馬車から降りる。


 そもそも、である。


 眠りを中断させられた私はちょっとイライラしていた。

 人の寝込みを襲うなんてちょっと許せなかった。

 私は眠りを中断させられるのが一番嫌いなのだ。


 そして、子供たちを泣かせるなんて絶対に許せなかった。



「ちょっと危ないからお母さんの後ろに隠れていてね」


 私はお母さんの足にしがみついている子供たちに微笑みかけて、身を隠すように言う。

 それから、盗賊の群れの前に歩みだすのだった。


「なんだぁ? 丸腰で出てきやがったぞ。ふふん、言っとくがなぁ、俺は相手の魔力がだいたいわかっちまうんだよなぁ!」


 盗賊の親分の前に歩み出ると、にたにたと笑ってそんなことを言う。


「おぉっ! さすがは親分(おやびん)!」


「歴戦の勇士!」


 すかさず子分たちは歓声をあげる。

 かなりの精度の掛け声なので、きっとおそらく練習してるんだと思う。


「お前の魔力は…限りなくゼロだ。ふん、ゴミめ」


 とはいえ、盗賊の親分の勘はあんがい正確だった。

 彼は私が魔力を持たないことを知ると、勝ち誇ったように笑い出す。 


「ぎゃはは、こいつはとんだバカ野郎だぜ!」


「こいつは頭がおかしいんじゃないか!?」


 同時に、子分たちも嘲り笑いをする。

 確かに大勢の暴漢の前にかよわい乙女がふらりと現れたんじゃ、正気を疑うよね。


「あんたたち、降参するなら今のうちよ。私の『ヒーター』のスキルでぶっ飛ばされる前に、おとなしく降参しなさい!」


 とはいえ、私には勝算があった。

 それは先日のスキル授与で頂いたヒーターのスキル。


 旅の道中、私はこの「温めスキル」を磨いてきたのだった。



「はぁあ!? ひぃたぁだぁ?」


「そんなスキル聞いたことねぇぞ?」


「どうせ、ものを温めるとか、そういうしょっぼいスキルだろう」


「言っとくが、俺のスキルは爆裂拳だ。膨大な魔力とともに拳が飛んでくる、俺の必殺技!」


「親分(おやびん)のはすげぇんだぞ、妙な動きをした瞬間に吹っ飛ぶぞぉ?」


 盗賊たちはゲラゲラとお腹を抱えて笑う。

 確かに私のスキルはものを温めることができる。


 対する盗賊の親分さんは格闘系のスキルを持っているとのこと。

 普通に考えれば、『温めスキル』程度が敵うはずがない。

 

「しょぼいスキルの姉ちゃんよぉ、今さら頭を下げても許すわけにはいかねぇぞぉ?」


 盗賊の一人が邪悪な顔で、にへにへと笑っている。

 本当にバカで間抜けで救いようのない奴ら。

 こんなのがいるから世の中がよくならないのよね。


 私は覚悟を決めて、目の前の相手にスキルを発動させることにした。



「えいやっ!」


 私は盗賊の足元にある地面に手をおいて、思いっきり熱を込める。

 ヒーターのスキルで地面に熱を込めるとどうなるか?

 原理はさっぱりわからないが、「あること」が起こるのだ。

 

 ちゅどーんっ。


 爆発だ。

 私が熱を込めて「爆発しろ」と念じると、地面でも、岩でも、爆発してしまうのだ。

 盗賊の足元の地面は一気に吹き飛ぶ。


「ぐ、ぐひぃっ!?」


 いい音を立てて吹っ飛んだ彼は木の幹に体をぶつけて動かなくなるのだった。

 

 よっし、成功!

 軽くガッツポーズをする私なのである。


「親分(おやびん)がやられた!? な、何が起きてやがる!?」


「くそぉ、魔法使いか!?」


 突然、一人が吹っ飛んだのでざわつく盗賊たち。

 しかも、どうやら親分をふっとばしてしまったらしい。


「てめぇっ! ジャミ一家を舐めるなよ!」


 盗賊たちは手にナイフや斧などの得物を取り出して、私を囲んで襲い掛かってくる。

 彼らの狙いはいわゆるところの袋叩き。

 まさに盗賊の典型的な戦い方。

 案外効率的な戦い方なんだろうけど、私は何のちゅうちょもなく再び地面に手を当てる。


 ちゅどーんっ!


 ぼくわぁああーん!


 ずがぁあああん!


 先ほどと同様に、冗談みたいな爆音を立てて地面が爆発する。

 盗賊たちは悲鳴を上げる暇もなく、ただただ前へ後ろへ左へ右へ吹っ飛んでいく。

 彼らが動かなくなるころには、半径1メートルほどの穴がいくつも地面に開いていた。


「ご主人様、さすがです! 熱爆破(ヒートボム)の技はかなり使えそうですね!」


 一部始終を見届けたララが歓声をあげて近づいてくる。

 スキルを授与された時、巫女さんは「魔法じゃないのでいくらでも使える」と言っていた。

 確かに何連発しても体にも心にも支障はない。


 あまりに連発できるので、「これってありなの?」と自分でも驚いたけど、実際に使えているのでしょうがない。

 これまでの道中でこのヒーターのスキルを訓練しており、その効果は実験済みだったのだ。


「どうせなら、盗賊自体を爆破すればよかったんじゃありませんか?」


 ララの言う通り、地面ではなくて盗賊の体を爆破することもできるんだろう。

 だけど、返り血は浴びたくないし、私は別に冒険者じゃないから率先して戦いたいわけじゃないんだよね。


 私がスキルを使うのは、あくまで自衛の範囲で十分。

 それに甘ちゃんの考えなんだろうけど、率先して人を殺めたくもないわけで。



「ご主人様、この盗賊たちは次の村で引き渡しましょう」


 ララは盗賊たちを縛り上げ、手際よく荷馬車に放り込む。

 細い体格からは全然想像できないけれど、彼女は非常に力持ちなのだ。

 



「ジャミ一家のクロード・ジャミじゃないか! こりゃあ、おったまげた!」


「おぉっ、お前たちも無事でよかった!」


 しばらく進むと村があったので、私たちは盗賊をひきわたす。

 その村の村長さんからはやたらと驚かれ、さらには感謝もされる。

 どうやら捕まえた盗賊はこの地域のお尋ね者だったらしい。



「お姉ちゃん、ありがとう!」


 助けた親子からは目に涙を浮かべられて感謝され、少しだけ眠気が吹っ飛ぶのだった。

 よぉし、いざ、目指せ、辺境の村!


 ……と、そんな風に決意したのもつかの間。


「ヒャッハー! 金目のものは全部おいておけ!」


 一日もたたないうちに別の盗賊がやってきた。

 もちろん、問答無用で爆破、捕縛、引き渡し。

 うちの実家の領地のはずだけど、なんなのこの治安。


 しょうがないので、出会う盗賊・山賊のたぐいは全部、やっつけることにした。



【魔女様の発揮した能力】

・熱爆破:触れたものに過度の熱を与えて爆破させる。岩や金属でも爆発する。人間に使った場合には防御不可で四肢を四散させる。準・即死技。

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