この道の先

kinatu

第1話

アスファルトの坂道に

「コツ…コツ…」

と響くローファーの音を何回も繰り返してやっと少し平坦な道に出た。


平坦になったのに、坂道沿いよりも家が少なくなって、沢山の茶色い木と、少しの緑の木だけが両端に生えている道が続いている。


この道を進んだらもっと人気(ひとけ)が無くなるんだろうな、と思う。


もしかしたら、道に迷うかも。


でも、他に行きたい所もないからこの道でいいや。

それに迷って戻れなくても別に、いい。


考えている間一瞬止まっていた足を、またすぐに動かし出す。


道の両端にある木や、草を見ながら、いつも高校に行くために降りている駅と、二駅違うだけでこんなにも雰囲気が違うんだなあと思う。



今よりも1時間くらい前。

学校が終わって、いつも通り最寄りの駅から家に帰る為、電車に乗ろうとした。


でも、何故だか足が動かなくて、自分の家の方向の電車に乗れなかった。


代わりに、家と真逆の方向に行く電車が来た時は足がすんなりと動いた。


そして、なんとなく二駅行った所で降りて、なんとなく坂道の方に、高い方に歩いている。


コツ…コツ…


私のローファーの音だけが響く。


木と草に囲まれた道を歩き続けていると、とうとうアスファルトがなくなって、土の地面が現れてきた。

土を踏むとさっきまで響いていたローファーの音が消え、急に辺りが静かになった。


道のわきには冬になって茶色くなった木が増えて寂しいような、寒々しいような空気になる。


どんどん人がいない方に進んでいることを、周りの景色の変化が教えてくれる。


少し怖いような気もした。このまま進むのが。


でも足は止まらず、もっと木々の奥へと進んで行く。


だんだんと道が細くなってきて、枯れた細い木の枝が肩にたまに当たった。


これ以上は進めないかも。


そう思った直後に、少しだけ視界が開けた。


茶色い木と茶色い土に囲まれた単色の細い道。


だったのに、急に深緑や、深緑よりも少し明るい常盤緑の葉っぱたちが囲んでいる道に出た。


いきなり私を囲む色が、木々が変化したことに戸惑う。


さらに、緑に囲まれた道の先を目で追うと、小さい家のような建物が見えた。


赤紅色の屋根が緑の木々に囲まれた中にぽつんと浮かんでいて、とても目立っている。


こんな人気(ひとけ)がない所にあんなちゃんとした建物があるなんて。


少し気になってその建物の方へと歩いていく。


近づいて見ると、家の窓も、屋根も、扉も、壁も、どこも汚れがなくて、この山の中では少し不自然なくらいキレイだった。


外壁はクリーム色で、ドアは栗のような茶色。

それに赤紅色の屋根が合わさって、まるで絵本の中のような可愛らしい家だった。


扉には

<Open>

と書かれた木のプレートがかかっている。


この家、お店なんだ…、こんな所に来る人いるのかな?


ちょっと気になるかも、中に入ってみようかな。


少し重たい扉を引く。


カランカラン〜


私が扉を開けると同時に、扉の上にある鈴が弾んだ。


お店の中は、焦茶の木のタイルようなものが壁に貼られていて、明るすぎない優しい黄色の照明が地面や壁を照らしている。


落ち着いた雰囲気で、初めて来たような気がしなかった。

 

「いらっしゃいませー」


「うわっ!」


人が居たことに気づいていなかった私は、声をかけられ、思いっきり肩を上げて驚いてしまった。


声がした方を見ると、若芽色のふわりと揺れるワンピースを着た女の人が立っていた。


声をかけられてこんなにびっくりするなんて失礼な態度を取ってしまった。

謝ろうと思い、その人の顔を見て、またびっくりした。


その人は、そよ風を受けゆっくりと気持ちよさそうに揺れる木々のように穏やかな笑みを浮かべていた。


こんなに穏やかな笑みを浮かべている人を初めて見たかもしれない。


あまりの穏やかな笑みに、さっきまでの思考を持っていかれ、何も言えなくなってしまった。


「お一人様ですか?」


柔らかい若葉のような声。


「あ、は、はい」

 

ゆったりとした、穏やかすぎるその人の声と表情に逆に緊張して噛んでしまった。


「では、お好きな風船を選んでお好きな席に着いてください」



ん??


ふーせん…?

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