伝説のギョウザ
水曜
第1話
好きな料理は何?
そう聞かれたら、俺は迷わずギョウザと答えるだろう。
得意料理は何?
そう聞かれたら、俺は迷わずギョウザと答えるだろう。
人生最後に食べたいものは何?
そう聞かれたら、俺は迷わずギョウザと答えるだろう。
俺にとってはそれだけギョウザは馴染み深い料理である。
両親が中華料理屋を経営していた我が家の食卓には、毎日のようにギョウザが出てきたものだ。
幼い頃からギョウザばかり食べてきた俺の体は、まさにギョウザで出来ていると言っても過言ではない。
それは日本にいた頃も変わらないし。
異世界に転生することになった今も変わりはなしない。
「とうとう来たな、アリシア」
「ええ。ここがヴァンパイアロードの居城です」
眼前には禍々しい雰囲気を醸し出す建物。
俺は相棒であるプリーストのアリシアと共に、ヴァンパイアを倒すためにここまで旅をしてきたのだ。
日本で事故に遭って、俺は次は異世界の勇者として転生することになったのだが。そこはヴァンパイア達が支配する剣と魔法の世界だった。
ヴァンパイア。
つまりは吸血鬼。
あのゲームや漫画の敵役としてでてくる有名な怪物である。
圧倒的な力を持つヴァンパイアによって、こちらの世界の人間達はなすすべもなく虐げられていた。
唯一、ヴァンパイに対抗できるのは勇者である俺のみ。
これまで何体ものヴァンパイと死闘を繰り広げてきた。
そして、今回の相手はヴァンパイアたちの中でも格上の存在であるヴァンパイアロード。ヴァンパイアの王であった。
「アリシア」
「はい、勇者様」
「腹が減っては戦はできない」
「はい、勇者様」
「ヴァンパイアロードとの戦いに備えて、まずは腹ごしらえだ」
「はい、勇者様」
俺はアリシアとともに食事の準備を始める。
メニューはもちろんギョウザだ。
餡を皮で包み、魔法で火をおこし、手早く焼き上げる。
食欲をそそる良い匂いが、辺りに立ちこめた。
「勇者様は、本当にこの料理が好きなのですね」
「ああ。慣れ親しんだ故郷の味だからな」
と言っても、この世界にギョウザなんて食べ物はもちろんなかった。
だから、俺が似たような食材を各地から調達してアレンジして作ったものが今のギョウザとなる。
自慢ではないが、その再現度はオリジナルにも引けを取らない自負している。
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせて、早速食事を始める。
ギョウザを口のなかに放り込むと、熱々の肉汁が溢れ出す。一噛みごとに力が漲り、精神が充実していくのを感じる。
うん。
此度も我ながら会心の出来だ。
これがたとえ、最後の晩餐になろうとも悔いはない。
俺の箸はどんどんと進み、気が付けば大量に作ったギョウザをあっという間に平らげてしまっていた。
「おっと、ちょっと俺ばかり食べ過ぎたか。アリシアはちゃんと食べれたか?」
「はい。充分いただきました」
「味はどうだったかな?」
「いつも通り、大変美味しかったです」
「何なら、もっと作ってもいいけど」
「いいえ。これ以上食べると息が……その……」
「うん?」
「……何でもありません」
真面目なアリシアが僅かに赤面していた。
彼女は小食なのか、俺がギョウザを作ってもあまり量を食べない。
「まあ、いいや。じゃあ、そろそろ行こうか」
「はい、勇者様」
後片付けをして、俺達はヴァンパイロードの居城へと忍び込む。
城の主は一番奥の地下の部屋で、侵入者たちを待っていた。
「待っていたぞ、異世界の勇者よ」
日の光を浴びたことないような白い肌。
この世のものとは思えない絶世の容姿をした美女。
ヴァンパイロードは妖しく光る赤い目で、俺とアリシアを射抜く。
「私はお前たちが倒してきた、凡百のヴァンパイアとは違う。今宵は貴様らを血祭にしてやろう」
「出来るものならやってみろ!」
「援護します、勇者様!」
アリシアが神聖呪文を唱えて、ヴァンパイロードに浴びせる。
だが、吸血鬼の王は怯みもしない。
十字架や聖水なども、もちろん準備してきたのだが。
さすがはヴァンパイの王を名乗る存在。
並みのヴァンパイアなら致命傷になるはずのものでも、このヴァンパイアロードには全く効かなかった。
「仕方ない。使うしかないようだな」
俺は剣を抜き、相手へと斬りかかる。
ヴァンパイロードはするりと俺の斬撃を避けてみせた。
「この程度か。死ぬが良い、勇者よ!」
俺にトドメを刺さんとヴァンパイアロードは近付くが、それはこちらの計算のうちだ。俺は大きく息を吸い、そして肺活量の許す限り息を吐きだした。
「う、なんだ。この匂いは!」
途端にヴァンパイアロードは苦しみ出す。
「う、うわあああああああああああうわあああああああああああうわあああああああああああうわあああああああああああうわあああああああああああうわあああああああああああ!!!」
そして断末魔の悲鳴をあげて、ヴァンパイロードの体は激しい炎に包まれた。全ては灰となって、跡形もなく消え去っていく。
そう。
全ては俺が食べたあのギョウザのおかげだ。
後日。
俺のギョウザは、魔王を倒した伝説のギョウザとして語り継がれることとなる。
伝説のギョウザ 水曜 @MARUDOKA
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