料理研究家ですのでうまい異世界メシしか認めません!

たこうさぎ

料理研究家ですのでうまい異世界メシしか認めません!



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「さて、今日の料理は〜」


俺はヒュウジ、料理研究家だ。

日々みんなが喜ぶ『バズるレシピ』を考えている。


メモに取ったレシピ案を眺めながら腕を組む。

最近の動画はこってりした食べ物のレシピ紹介が多かったからあっさりしてて尚且つ食べ応えがあるものがいいなぁ

それでいて意外性があるメニューを考えたいぞ〜う〜ん...


「考えていても仕方ないからスーパーにいくか!」


陳列された食材達を見ていると良いアイディアが浮かんでくることがある。

時期によってトレンドの食材も違うし、何か意外な発見があるといいな。


よし!久々に少し遠くまで行ってみるか。


スニーカーの紐を固く結び、俺はスーパーマーケットを目指して歩き出した。


⭐︎⭐︎


ほろ酔いの身体に外の冷たい空気が心地よい。

いい気分で歩いていると見慣れた近所の景色も新鮮に映る。


「!?」


…なんて事だ。この辺りのすべてのスーパーは網羅していると当たり前に思っていた。

こんなところにあるではないか!知らないスーパーが!


僕は急いで積み上げられた野菜達に駆け寄る。


「さて値段は...」


新しいスーパーはワクワクするものだ。

見慣れた人参もなんだか特別に思える。

…あれ?人参ってこんなにピンク色だっただろうか。普通オレンジ色だよな?ん?


目を擦って見てもピンク色に見える。なんでだ?疲れてるんだろうか

比較的今日は元気なリュウジなんだけどなぁ

まぁいいや値段は…


野菜の下に貼られている値段を見て僕は思わず『ええっ!?』っと声を出してしまった。

120000000...の後なんだ?アラビア語のもっとグネグネしたみたいなものが書いてある。

こんなところで日本円に表記を直さずに野菜を売ってるなんて新たな発見だ。

しかし単位が何でも120000000は高くないか?

…このじゃがいもはどうだろう。

隣にあったじゃがいも、これはこれで少し白っぽくて普通のじゃがいもじゃないけれど持った感じの

手触りや質量感は捥ごう事なきじゃがいもだ。


じゃがいもは60なんとか。

じゃがいもは円表記だったとしてもおかしくない値段だな。少し高いけれど。


せっかくの面白いスーパーとの出会いなので一周して店の人とも話をしてみたいな。


野菜のタワーを崩さないように身体を捻って店の奥に入ろうとすると、そこには豚がいた。

豚肉じゃない。生きている豚...

いや二つの足で靴を履いてエプロンをしたまるで人のような様相のブタさんがいたのである。


「ど...どうも...」


流石の僕も頭をかきながら後ずさりする。

きっと動画にしたら面白いだろうけどそれどこじゃないなぁ...


女の人が見たら悲鳴をあげちゃうんじゃないだろうか。

街の人は見ていないのか?


僕が後ろを振り返ると、そこは…


そこは僕の見慣れた街ではなくなっていた。



「あれっ!?」


まず歩いている人達が人間じゃない。

パンダ頭のお父さんお母さん、はしゃいでる子供。

杖をついてる馬の頭のおじいさん。


顔が肌色で人間っぽい人もいるけど耳がくまだったりウサギだったり...


そして全体的にヨーロッパの古い町並みを思わせるようなレンガ調の家が立ち並んでいる。


…これはどうやら夢の中らしい。

いつから寝ていたんだ僕は。

今日3本は動画を撮っておきたいというのに。



「パドセラササーメン!!」


「エッ!?はい!何でしょう?」


スーパーの店主であろうブタさんは僕を怒鳴り上げた。

なんて言ったかは全くわからない。

新しい麺の種類かと少しワクワクしてしまったがきっと違うでしょうね。


僕は何とか身振り手振りで会話を試みる。


「何も、とって、ないですよ〜」


腕を縦にして横に振ると、みるみるブタさんの顔が赤くなっていく。

あれ??僕もしかして変なことした?


「バビギギバツラバ!!」


ブタさんは鬼の形相で木の棍棒を僕に向かって振りかざす。


「ヒィー!!!」


僕は叫びながらも、ここで痛いめにあえばきっと夢から覚めるなと思って逃げなかった。


思いの外の鈍痛が僕の頭にゴーンと響いた。

痛い!夢にしては痛すぎる!

ギュッと閉じた目の奥がぐるぐるぐるぐる回って僕はそのまま意識を失ってしまった。



⭐︎⭐︎



「ご飯だよ〜」


少女の可愛らしい声がした。

ご飯だって?あいにくご飯を作るのは僕、そして食べるのも僕。

そんな充実した生活を送っているんだけれども...


不思議に思いながら目を開くと、天井は今にも崩れてきそうな古びたレンガ。

雨の日の土の匂いがする、背中はひどく冷たくて硬い。


「ここは…」


現実離れした光景に頭を抱える。

なんてこった。まださっきの夢から覚めていないらしい。

僕の料理動画を楽しみに待ってくれてるみんなのためにも早く現実に戻らないと。


「ごめんね。お父さんが手荒なことをして」


少女の申し訳なさそうな声がして、身体を起こしてそちらを向く。

頑丈そうな鉄格子の向こう側に少女は立っていた。

どうやら僕はさっきのブタさんに捕まえられてしまったようだ。


となると少女はあのブタさんの娘だろうか。それにしては人間と変わらない顔立ちで

北欧系の美少女だ。耳だけピンク色のブタ耳だと思われるものが付いててピコピコ動いている。


「これ、ご飯」


小さな手を鉄格子の下に差し込んで、アルミにような銀色素材のでこぼこのトレイに入った

食事を渡してくれる。


「…ありがとうね」


聞きたいことは色々あるけれどまずは腹ごしらえするか。

しかしこんな状況で美味しいご飯が出るとは思えないけどね。


案の定トレイに乗っているのは固そうなじゃがいも2つに固そうなフランスパンみたいなものに

これまた固そうな肉...豚肉っぽく見えるけどブタさんの娘がそれを持ってくるとは思えない。

最悪なことにこれらすべて味付けはされていなさそうで...うん、食べれるかな?これ...


「い、いただきます...」


ほろ酔いもすっかり覚めてしまっていてテンション低めにクオリティ低めの異界メシを口にする。

これが意外とうまい!なんてことは...


「まず...い...」


なかった。それぞれすべて見たままの味だ。

固くて味がなくてとても食べれたものじゃない。



「まずいってなあに?」


少女は可愛らしく小首を傾げる。


そういえばなんでさっきからこの少女と会話は通じているんだろうか。

少女から発せられる言葉はよく考えると日本語ではないのだけれどなぜか理解できるのだ。

さっき殴られた衝撃で異世界語に対応したとでもいうのだろうか。

考えてもわからない。

とりあえず少女に返答する。


「まずい、は美味しくないって意味だよ」


「おいしくない?おいしい必要あるの?」


「...え?」


職業柄、聞き捨てならない言葉を聞いた気がして俺は目を見開いた。


「だってご飯は毎日の一番の楽しみだよ!どうせなら美味しいご飯を食べたいと思うでしょう?」


「美味しいかぁ、よくわからない。食べることは好きじゃないし」


「なんだって!?」


これは驚いた。食べることが好きではないなんて勿体ない!

日本にもそういう人はいるだろうけど幼い少女が食を楽しめていないと思うと

料理研究家として見過ごせない気持ちになる。

よく見たらこの少女痩せ細っている。脚が棒のようだ。


「リリス!おーい!リリス!」


「お父さん!」


先程のブタさんが登場。

少女の名前はリリスというらしい。

丸々太ったブタさんと美少女リリスはどう見ても親子には見えない。


「リリス、また人にご飯をやったのか?」


「だって私食べたくないもん」


「お前のために用意したご飯だぞ」


リリスは口を尖らせて拗ねている。

さっきのご飯はてっきり罪人用の刑務所メシだと思ったら、この子の晩ご飯だったらしい。

お父さんは山盛りの野菜を売っているのに粗末なご飯しか食べられないなんて可哀想だ。

何か事情があるんだろうか。


「おい、お前!」


ブタさんは僕を見て声を荒げた。


「悪かったな!いきなり捕まえちまって、でもお前が悪いんだぞ?店に入ってきたかと思えば

俺のことを『豚野郎』呼ばわりするからよぉ」


「言ってないですよそんなこと〜」


心の中でブタさんとは呼んでいるけれどそれはそうとしか見れないので許してほしい。


「これをやっただろこれを!」


ブタさんは腕を縦にして横に振るジェスチャーをする。

え、それってこっちの国では『豚野郎』って意味なの?


「すみません。こちらの国に来るのは初めてで、そんな意味を持った行動だとは知らず...」



「そうだったのか?まぁいい、お前はなんて名前だ?」


「僕はヒュウジと言います」


「ヒュウジか、珍しい名前だな。オレはゴンザだ。

お前は耳が特殊で見たことのない種族だからな。子供も妻もいるしまだそこから出すのは不安だ。様子見で一晩はそこにいてもらうぞ、メシならいくらでもやるから」


ブタさん改めゴンザさんはそう言うと山盛りのじゃがいもを袋から出しゴロゴロと投げ入れてくる。

…生のじゃがいもをもらってもこの独房にはもちろん火も調理器具もないしこれを食べることはできない。


「...あの〜せめて茹でてもらってもいいですか?」


「茹でる?リリスはまだ子供で歯が未発達だから軽く熱湯に入れておくが、お前はもう大人だろ?

そのまま食え」


ゴンザさんはガリッとじゃがいもをそのまま口に放り込んで噛み砕く。


「おお…」


その姿は迫力があって思わず感嘆の声が出る。


「どうした?食えないのか?」


「確かに…皮の苦いのや身が固いのを我慢して齧れば食べれないこともないんですが…僕は料理研究家、

食材は美味しく食べるべきだと思うんです!」


「美味しくだぁ?」


ゴンザさんはじゃがいもを咀嚼しながら不思議そうに眉間にシワを寄せる。

表情筋豊かな動物は見慣れないので思わず笑いそうになってしまう。


しかし僕は至って真面目に発言しているのだ。


「じゃがいもは長く茹でるだけでほっくほっくになります!ほくほくのじゃがいもの方が

美味しいじゃないですか!」


「ほくほくぅ??」


ゴンザさんは変わらず怪訝な顔をしているが


「ほっくほっく?」


リリスは興味深そうにこちらを見た。


「そうだよ!じゃがいもには無限の可能性があるんだ!」


僕は両手を広げてじゃがいもをプレゼンする。


「皮のままホクホクに蒸してバターを付けるだけで『じゃがバター』

薄く切って焼けば『じゃがいもガレット』油で揚げれば『ポテトフライ』

他の野菜や肉と組み合わせれば可能性はまさに無限大!」



「わからないけどなんだか楽しそう!」


リリスが笑う。

すると木陰の方から次々と小さな生き物たちが飛び出してきた。


「なにするの〜??」


小さな少年少女達がこっちに向かって走ってくる。

そのブロンズの髪色といい薄い青の瞳といいリリスそっくりなのできっと兄弟達だ。


「お、お前達!この時間は家に居て掃除しなさい!」


「もう終わったもーん!」


ゴンザさんが叱るが子供達は気にすることなくニコニコ顔。

子供達はリリサを合わせて一人、二人、三人、四人…十人はいる。なんて子沢山

なんだ!

異世界基準がわからないけれどリリサは8歳ぐらいで、他の子達はもっと年下に見える。

3歳ぐらいの男の子もいる。


ちなみに誰一人としてゴンザさん似ではない。みんな人の顔をしている。

もしかして大人になるにつれて豚さんの顔になったり…?


「ねぇ!なんのお話してたの?」

「お兄さん楽しそうだったから来ちゃった!」


子供達は僕の入っている牢屋に詰め寄って興味津々だ。

料理に興味を持ってもらえるのが嬉しい僕はじゃがいもを手に取り熱く語る。


「このじゃがいもには無限の可能性があるって話だよ!僕が魔法をかけるといろんな料理に大変身しちゃうんだ!」


「魔法!??」


子供達は飛び跳ねて喜ぶ。

一人少しぽっちゃりした男の子が驚いた顔をしている。


「料理なんて貴族がやるもんだと思ってた!僕たちにもできる??」


「できるさ!僕はいろんな人に料理を教える仕事をしているんだよ!」


「本当!?」


どうやらこの一家では料理という概念こそあるものの簡単な煮る、焼く以外の工夫をすることが

ないのかもしれない。

この家だけとは考えにくいからこの辺りの地域全体でそんな文化なのだろう。

なんてもったいないんだ!


「ゴンザさん!」


僕はゴンザさんに頭を下げる。


「僕に料理をさせてください!!」


ゴンザさんは戸惑った顔で頬をかく。


「うーん、子供達はどうやらお前と料理に興味があるみたいだな。けど怪しいよそもんを家にあげるわけにもなぁ」


「そこをなんとか!」


すっかり料理研究家の血に火がついてしまった僕はここで引き下がるわけにはいかない。


「パパ!リュウジは悪い人じゃないよ」


リリスが僕をかばってくれる。

まだあまり会話を交わしたわけじゃないのに信用してくれて嬉しい。


「このお兄さんはいい人だよ!!」

「おもしろいし!多分いい人!」


他の子供達も口々に僕を褒めてくれる。

照れるじゃないか。



「…仕方ねぇなぁ、じゃあ朝のメシの準備はお願いしてもいいか?」


「はい!是非作らせてください!」


僕がガッツポーズをすると子供達も「わーい!!」と声をあげて喜んでくれる。


「明日楽しみにしてるね!」


リリスに言われて少しだけプレッシャーを感じる。

でも自信の方が強い。

だって今日のリリスの食事プレートの3品だけで最高の最高に美味しいレシピをもう思いついちゃってるから!


「任せておいて!絶対に美味しい料理を作るから!」


リリスは嬉しそうに笑った。


「さー!ヒュウジが朝メシ作ってくれっから今日は早く寝ろよ!」


ゴンザさんが言うとみんな素直に「はーい!」と返事して建物の中に入っていった。


「…さて、となるとお前さんをここで過ごさせるわけにもいかないな、お前もうちに入れ」


「え!いいんですか?」


「空いたスペースに雑魚寝だけどな、ちなみに俺は定期的に見張ってっから妙な気はおこすなよ?」


「ありがとうございます!」


牢屋から解放されて僕は一安心、ふーっと息を吐く。


「どんな食材があるか見せてもらっていいですか?」


「ん?ああ、いいぞ」



⭐︎⭐︎


ゴンザさんに案内されキッチンに向かう。

電気はなく薄暗い中をランプの火で照らす。


「お前は魔法だとか大層なこと言ってたが使える食材はじゃがいも、アルスララの肉、パン、これだけだ。あとピフムスの卵も使っていいがそんなに量はないぞ」


「さっきも思ったんですがゴンザさんって八百屋さんですよね?なんでじゃがいもしか食べれないんですか?」


「あ?お前はそんなことも知らないのか」


ゴンザさんは小さな椅子にドカッと腰掛ける。


「じゃがいも以外の野菜は貴族の食べもんなんだよ。あんまり取れねーからな。

んで野菜は大金ふっかけて貴族に売るんだがたーんまり税金取られっからいくら売っても金は貯まらねぇ。

けどとーさんもじーさんもそうやって暮らしてきてるからじゃがいも以外の野菜を食おうとも別に思わねーけどなぁ」


「そうなんですね…」


思った通り理由があっていろんな食材を使えないんだ。

でもじゃがいもに肉、パン、それに卵があれば料理と呼べるものを作るのには充分すぎる。

あとはせめて塩とかの調味料、それと…


「あの、お願いがあるんですが...」



⭐︎⭐︎



「さあっ!作るぞ!」


僕は腕まくりをしてキッチンに立つ。

朝日が差し込むレンガ造りのキッチンは異世界感があってワクワクする。

時計がないからわからないがなんとか1時間は寝れたと思う。夢の中で寝るっていうのもおかしな話だが。

とにかく僕はやる気満々である。

子供達の応援、それと…


「これが無いとねー!」


昨日ゴンザさんとの交渉によって手に入れた「お酒」

お酒はこのあたりでも人気の娯楽品で安く手に入るそうだ。助かった!

色はウイスキーが濃くなったような飴色だがはたして味は。

まずはロックで頂く。


「くっ〜!」


やはりウィスキーのような味わい。ワインのようなフルーティさもありなんとも飲みやすい。

氷がないのが残念だが冷たい井戸水で割ると頭に響く美味しさだ。


「これで準備完了!」


材料は昨日のうちに机に並べてある。


まず懸念点だった調味料だが塩辛くて苦い木の実があると言うのでそれを砕いてすり潰してみた。

すると塩コショウのようなまさにこの料理に合う調味料になってくれた。


油も欲しかったがこれもラッキーなことに大量にあった。

主に食事より保湿とか石鹸にするのに使ってるらしい。


次にじゃがいも。沢山あるからいくらでも使っていいそうだ。


アルスララの肉。

猪肉と豚肉の中間のような味だ。脂身が多くジューシー。固くなりやすいのが難点。


パンはまとめて買うらしいがこれは固くて仕方ない。

フランスパンのような感じで噛むとポロポロとパン屑が溢れる。


ピフムスの卵

これはダチョウの卵より少し小さいかなってぐらいのサイズ。


…うん、これだけあれば充分。



「さて、調理開始だ!」



⭐︎⭐︎



縦長の大きな机。これはゴンザさんの手作りらしい。

起きてきた子供達が目をこすりながら一人ずつリビングに集まってくる。


「ハハッ、いつもはもっとコイツら起きるの遅いんだぜ?よっぽどヒュウジの料理が楽しみらしい」


ゴンザさんが呆れ顔で腕を組む。


そう、料理って一日を楽しみにするものなんだよ。

僕は「えへへ,、」と照れて笑った。


机の上に置かれた大きな大きなお皿には僕の作った料理が載っている。

埃防止の為に白い布をかけて見えないようにしている。


「なんだろー!」

「いい匂いがする!」


子供達が小さな身体をのり出して机の上の料理に注目している。

リリスはにこにこして行儀よく待っている。


「これでみんな集まったかな?」


僕が聞くとみんな一斉に手をあげる。


「「はーい!!」」


幼稚園の先生にでもなったような気持ちだ。





「じゃあ料理をオープンするよ〜!!


僕特性、黄金のサックサッククリスピー俵コロッケだー!!」





ばーん!と効果音でも出そうなぐらい大袈裟に僕は布を取って手を向けて料理にみんなを注目させる。


「なんだコレー!!」


「じゃがいもが金色に光ってるー!!」


「トゲトゲしてる!!」


子供達は驚きながらも僕の作ったコロッケを手にとって不思議そうに眺める。


「俺も食っていいんだよな?」


「もちろんですとも!」


ゴンザさんも恐る恐る手に取る。


リリスがみんなを代表するように僕に聞く。


「食べていい??」


僕はとびきりの笑顔で答える。


「どうぞ!召し上がれ!」



ザクッツ!!


リビング響き渡る美しい音。

そして静寂。


口いっぱいにコロッケを頬張ったみんなの顔を一人一人見つめる。


どうだろう…みんなの口には合うだろうか?


モグモグ…ごくん


丸々一口で食べほしたゴンザさんが最初に口を開いた。


「こっこりゃなんだ!?!?一口噛んだ瞬間の歯応えが、ザクっとして、こう、最高に気持ちいいじゃないか!!」


子供達も口々に喋り出す。


「そのあとほかぁって柔らかくてほくほくの味がした!」


「あったかくて柔らかくて!優しい味!」


「こんなの何個でも食べれちゃうよ!これがじゃがいもなの!?」


「本当に魔法みたい!」


リリスは他の子に比べて上品に少なめに一口食べて、もう一口食べて、

目を丸くして僕を見る。


「おいしい…おいしいってこういうことなんだ!そうなんだねヒュウジさん!!」


「そう!そうなんだよ!ご飯は美味しくなきゃダメなんだ!!」


嬉しい…!異世界の女の子にも僕のこだわるおいしいが伝わってくれた。



そう、僕が作ったのはコロッケ。

大量のじゃがいもをホックホックにふかして、固めの豚肉…じゃなくてアルスララの肉は細かく叩いてミンチにして。

パンはいっそのこと砕いてパン粉にしちゃった。

細かめのパン粉と粗めのパン粉を作って細かめのパン粉、ピフムスの卵、粗めのパン粉の順番で構成されたコロッケはザックザクでパリッパリ。

子供達が手掴みでバクバク食べれるように、豪快に食べるゴンザさんも満足できるように俵型の大きめ

の形にしてて食べ応え抜群!


大量に100個ぐらい作ったのに凄い勢いで無くなっていく。

この光景は料理人冥利に尽きます!



「ねぇ、他にもいろんな料理が作れるの?」


リリスが尋ねる。


「できるよ!卵とパンがあれば『フレンチトースト』じゃがいもは揚げるだけで『フライドポテト』

『ハンバーグ』だってお肉があるからできるよ!きっと森を探せばもっと料理に使える食材はあるんじゃないかなぁ?」


「ほんと!?いろいろおしえてよ!!」


「もちろん!」


⭐︎⭐︎


使える材料だけで作れるレシピを貰った紙に沢山書いたあと眠気に襲われた。

そして起きるとそこは。


「あれ…?」


見慣れた天井。

ここは僕の家だ。

どうやら僕は夢から抜け出すことができたらしい。


「あれは全部夢だったのか…」


リリスに僕の料理でおいしいを覚えてもらえたのも夢なのかぁ

それは寂しいなぁ


「あれ?」


ポケットの中にごろっと丸いものが入っている。

取り出してみるとそこにあったのは白い、あの異世界じゃがいもだった。


「…本当に?」


本当にあの世界に僕は行ったというんだろうか。

だとしたら少し惜しいことをした。レシピだけじゃきっとみんな迷うだろう。

森にも一緒に入っておいしい食材探しをしたかった。

でもあの仲のいい兄弟達のことだ、きっと全部僕がいなくてもみんなで成し遂げておいしいご飯を作ってくれるはず!


「さてと、今日のレシピは!」


僕にはこの世界で僕の料理を待ってくれてる沢山の視聴者さん達がいる。

目を擦って、僕は今度こそスーパーに行く準備をするのだった。



END






















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