少女たちは2度迷う

矢矧草子

本編

2013年5月2週

ピンポーン

「え?」


ピンポンピンポーン

「ああ。はいはーい、ちょっと待ってー。」


ピンポピンポーンピンポーン

「はいはい、ちょっと待ってって!」


「はい、どうぞ。」

「ちーちゃんちーちゃんちーちゃん!ハピバー!」

「テンション高まってるところ悪いんだけど、今さ、夜の24時だからもう少し静かにしてね。」

「はい!クッキー焼いてきた!誕プレね!」

「全然聞こえてないじゃん。はい。ありがとー。じゃあ紅茶でも入れようか。何が良い?」

「じゃあダージリン!」

「はーい。」




「え、ちょっとおしゃれじゃん!頑張ったんじゃない?」

「でしょでしょー。すごいでしょ?見た目の割に全然手間がかかってないから、コスパ良いの!」

「えー、そういうこと言わないでよー。」

「ちーちゃんだから良いの!」

「これなんて言うの?」

「ステンドグラスクッキーだって。」

「へぇー。かわいい。」

「そういえば、ちーちゃんが紅茶飲むなんて珍しいね。」

「あー、そうだね。紅茶って、香りは好きなんだけど、渋みがちょっと苦手で。普段は飲まないけど、たまには飲んでやろうかなって。オレンジペコくらいならなんとか。」

「そんな無理やり飲まなくても、あやちが飲んであげるのに。あと、なんでそんな上からなの。」

「上からってつもりじゃないけど。」

「じゃあナチュラルに上から目線なの?」

「それすごい嫌な言い方じゃない?わたし今日誕生日なんだけど!」

「それはそれ。これはこれ。じゃあ、さっそくいただきまーす。」

「え、ちょっとあやちが先に「おいしー!」……食べるんかい。」

「ちーちゃんも早く食べなよ。美味しいよ!我ながら。」

「自画自賛もここまでくるとすがすがしいね。じゃあ、いただきます。」

「はいどうぞー!」

「……。……。いや、さすがあやち。美味しいわ。」

「とーぜん!あやちだもん!」

「いやー、あやちと結婚したら毎日これ食べれるのかー。いいなー。」

「毎日はちょっと…………。」

「えー、毎日作ってくれないの?じゃああやちと結婚するのやめる!」

「えー、あやちの価値って、クッキーだけー?」

「んーん。ほかにも。えーっと、クッキーと、シフォンケーキと、 ブラウニーと、「お菓子ばっかじゃん!」……。冗談冗談。」

「もー、ちーちゃんすぐにそうやっていじめてくる。」

「いいじゃん今日くらいはさ!」

「いつもじゃん!」

「いつもやってるけど、今日は許してくれてもいいじゃんって。」

「なんか毎日許してないみたいな言い方ー。」

「許してくれてるの?」

「ん-!許してないー!」

「ほら。だから今日だけは許してって。」

「んもー!ちーちゃん!」

「何?」

「大好き!」

「わたしも。好きだよ。」

「えっ!?」

「わたしも、わたしのこと好きだよ。」

「あー!もー!今日も許してあげないー! 」




「さ、寝るよちーちゃん。」

「そうねー。さすがにそろそろ眠いかも。」

「明日は9時に家出るよ。」

「は?」

「ワッフルがめちゃめちゃ美味しいお店予約してあるから!」

「え?」

「お腹空かしといてね!おやすみ!」

「え……。おやすみ?」


台風みたいな。

むしろ台風よりもすごい?

あやちの行動力はいつもほんとにすごいと思う。

出不精でめんどくさがりなわたしにはできない。

予約ってちょっと怖いじゃん。

なんて言われるかわかんないし。

前にあやちに言ったら、『なんて言われるも何も、「ありがとうございます!」って言われるだけだよ!』とか怒られたっけ。

結局あやちとどっか行くときにわたしが予約したことないけど。

というか、わたしからどこか誘ったことって……あんまないな……?


今度のあやちの誕生日くらいは、どっか……。

ん-。

何も知らん。

カフェ?

ん-。

ショッピング?

ん-。予約いらない。

アスレチック?

ん-。これも予約いらない。

予約がいるところ。うーん……。


ちがう。

そうじゃなくて。

あやちと行きたいところ。

えー。

あ。

ステンドグラス見に行く?

ん-。

面白いかなー?

微妙?

ん-。

やっぱ何も思いつかないなー。

まあその時考えればいっか。

寝よ。




「おいしー!」

「ホント。おいしいね、これ。ありがとね、あやち。」

「ここはあやちじゃなくて、パティシエにお礼言った方が良いと思うよ?」

「なるほど。一理あるかも。」

「でしょ?呼ぼっか?」

「は?」

「直接お礼つたえるんでしょ?呼ぶよ?」

「え、ちょっと待って。そんなことさr「ぷっ。んっふふ。……ふふっ。」……。あー!」

「ちーちゃんって、やっぱりちょっと頭悪いよね?」

「もー!あやちからかったでしょ!?」

「あやちのこといつも馬鹿にしてくるけど、ちーちゃんだって結構バカだからね?」

「あー!バカって言った!わたし、あやちにバカとは言ってないのに!」

「でも思ってるでしょ?」

「思ってても口に出さないという心の優しさがあるから。」

「じゃあ、今口にしたから同じだね。」

「むー。あやちの癖に。」

「それ、今のところ一番の悪口だよね?」

「あー、あやちのお金で食べるし、余計に美味しく感じる。」

「え、奢りって言ってない。」

「え、奢りじゃないの?誕生日なのに?」

「誕生日だから『予約』してあげたじゃん。」

「うわー。そういうカードの切り方するもん!奢ってくれてもいいじゃん!」

「はい、聞こえませーん。あやちは自分の分しか払えませーん。お金ないでーす。」

「はい、わたしは1円たりとも今日払う気が無かったので財布を持ってきてませーん。」

「はいあy……。え。え、ホンキ?」

「…………嘘。」

「もー!やっぱり奢ってあげようと思ったのにー! !もう絶対にちーちゃんには奢ってあげない―!」

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