紅の魔女、魔法学園に行く!―うちの最強上司と一緒に無双します―

仕える白銀

手加減しない一学期

プロローグ 入学試験は手加減しない

「リン、もうすぐ試験だが準備はできているな」


輝く黒髪に銀の丸眼鏡、変装をしているにも関わらず神々しさを残す少年が言う。

口元は不敵に笑っていた。


(推しが尊いよぉ!オールバックのクロちゃんもいいけどこれはこれでかっこいぃ)


「う゛っ!…………大丈夫よ」

「む?今、変な声が聞こえたが…………まぁ、本人が言うなら問題あるまい」


精神状態は試験どころではないと思うが、リンネにとってはいつものことなので大丈夫だろう。


「それでは筆記テストを行う。席に着け」


試験監督となった男性が言う。


「ここで下手に手加減して落とされてはかなわん。リン、主席と次席を取りに行く」

「ふふ、分かっているわ、クロちゃん。真剣勝負よ」

「ふん、かかって来い。容赦はせん」


小声で話す二人。

ちなみにリンネは心の中で子供っぽいクロキに悶えていた。


「試験始め!」


二人は同時に問題を開く。


(あら?思ったよりも簡単ね。クロちゃんの言う通り主席取れるかも…………)


この年の受験生は可哀そうだ。

これで確実に筆記の枠は二個消えた。


「試験止め!」


すべての筆記試験が終わる。

だが、この学園の入学試験において休息は短い。

すぐに実技試験が始まるからだ。


「実技はこのめちゃ硬い的に魔法を当てることだ。壊しても構わない。自分の全力を出し切ってくれ。あと結界を張るからこっちはあまり気にしなくていいぞ」


さっきとは別の試験官が言う。

口調が砕けて話しかけやすそうな雰囲気を出ている。


「試験番号301番前に出ろ」


クロキとリンネは横に並び、他の受験生の見て言った。


「リンネ、分かっているとは思うが本気の魔法は絶対に撃つなよ。学園が滅ぶ」

「やるわけ無いじゃない!貴方こそ気を付けたら?」

「ふむ、たぶん大丈夫だ」


(たぶんって何?怖いんですけど)


「試験番号385番前に出ろ」


リンネはクロキを眺める。


リンネは転生者で元はオタク女子だった。

今は色々あってクロキのギルドで働いているが元はオタクなのだ。

こんな美形な上司と隣に居られるシチュエーションに他の声が聞こえるはずがない。


「385番、前に出ろ」


(今は推しが近くにいるって奇跡、味わわなきゃ)


「385番、前に出ろ!」

「はひっ!」


試験番号385番の女性、リンネはその美しい容姿からは考えられない素っ頓狂すっとんきょうな声を出し、立ち上がった。

数十人の嘲笑が聞こえ、クロキは顔をしかめた。


「いないのかと焦ったぞ?お嬢さん」

「すいません」


濃く深い葡萄色えびいろの髪をかき上げて杖を構える。


「行きます」


深紅の眼は的を貫く。


「上級魔法【過剰超火かじょうちょうか】」


的は鯨ほどの爆炎に包まれた。

リンネがちょうど十歳のときに覚えた魔法だ。

全然本気ではない。

だが、他の者は息をのんだ。

上級魔法は三年の時に使えればいい方だからだ。


「さ、385番、合格」


震えた声で試験官は言う。

上級魔法を無詠唱で使うなどこの学園で十人もいないからだ。


(私、何かやっちゃいま――)


リンネの思考は途中で途切れる。


「リン、駄目だろう。もっとスマートに魔法を使え。私が手本を見せてやる。そこで見ていろ」


クロキが眼鏡を左手で整えて前に出る。


「し、試験番号386番前に」

「私だ」

「は、はい!」


その異様な雰囲気に飲まれて試験官の声は上ずる。


リンネのギルドリーダーは右手の指を鳴らした。


「超級魔法【照天しょうてん】」


天まで貫くであろう光が世界を飲んだ。

眩しいのが消えた後、クロキは振り返って言った。


「私の大切な部下を馬鹿にしないでくれるか?」


その笑みは周囲を凍らせた。

たった一人を除いて。


(えへへ、クロちゃんに大切って言われちゃった…………)


このリンネアホを除いて。

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