三途の川

みお

第1話

「三途の川、渡りかけたことあるんよ」


そう、あるおばあちゃんが言っていた。


ここは、この地域の中でも1番大きい病院で、いろんな患者が入院してくる。


私は、この病院の内科に看護師として、勤めている。


看護師は、患者の様子を見て回ったり、医者から指示された点滴やら注射やらをしたりするのだが、その間、無言でいることはほとんどない。


声をかけたり、時には世間話をしたりもする。


このおばあちゃんは、1週間前に入院してきたのだが、その雰囲気と人柄が心地よくて、すごく好きだ。


「三途の川ですか?」


私は思わず聞いた。


「そうよ」


「詳しく教えてくださいっ」


おばあちゃんは、目を細めてより優しい顔つきになり、話し始めた。


「そこはね、きれいな虹がかかっててね、すぐ近くに川があったのさ。


私はその川の土手みたいなところを歩いてたんだ。


その川は、キラキラ光ってて、とても美しい川だった。


そして、いつのまにか私はある列に並んで歩いていたの。


なぜだかは、わからないけど、ぞろぞろと一列になってどこかに向かって歩いていたのさ。


子どもから大人までいろんな年代の人が歩いていたねぇ。


服装も人それぞれで、スーツを着ている人もいれば、着物を着ている人、カジュアルな服を着ている人、いろんな人がいたんよね。


んで、私も、わけもなく、その列に並んでついていったんさね。


そうすると、その川を渡る橋があったんだ。


で、その橋を渡っている途中で、私の亡くなったおじいちゃんが目の前に現れてね、


「おまえは、まだここにきちゃだめだ。


戻れ」


って言ってきてねぇ。


わけもわからず、とりあえず、きた道を引き返したのさ。


んで、その橋を戻りきった瞬間に、目が覚めたんよ。


目が覚めたとき、私の旦那が目の前にいて、


「目が覚めたか!


良かった良かった」


って、泣きながら手を握っててねぇ。


もしかしたら、あれは三途の川だったんじゃないかって」


「おじいちゃんが守ってくれてたんですね。


引き返してくれて、良かった」


それからおばあちゃんは、入院はしているが、頑張って治療を続けている。


88歳まで生きることを目標にして。

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三途の川 みお @mioyukawada

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