ウィー・アー・プレイヤーズ! ~現代社会に突然レベル・スキル制なら、ダンジョンもどっかにあるんじゃないですか? ……だめ? ない? ……ある? ある感じ? ……魔石は?~

阿野二万休

プロローグ

レベルアップの日

 ちょうど、5限の最中だった。


 先生が授業に興味を持ってもらおうとして、脱線した話をしている時のこと。

 まあでも、数学には関係した話だったので誰も聞いていなかった。僕、八神竜胆やがみりんどうはといえば、話の元ネタ本をちょうど昨日読んだところで、先生がいかにもそれを自分で発見した態で話すから居心地が悪くて、ノートに今やってるゲームの攻略法を、自分だけがわかる略語で書いていた。


「あー、そうするとだな、この数直線上のXの半分半分……と打っていってできた無限個の点と、この10倍、10xの半分半分……と打った無限個の点、その数、どちらが大きいか、と比べた場合、だ……どうだ、わかるやついるか?」




〈おめでとう、人類!〉




「……ん?」


 どこかで聞いたことのある声がして、僕は顔を上げた。周囲にも聞こえていたのか、みんな顔を上げて辺りを見回している。

 甲高くて女の子っぽい、いわゆるアニメ声らしいアニメ声。数学の授業中に聞こえてくるにしてはとびきり場違いな声だ。誰かが音を切らずにゲームを立ち上げてしまったのかな、と思っていると……。




「誰かなん

〈よかったですね、地球にレベル・スキル制が導入されました〉




 先生が不審な顔をして教室を見回す。

 けれど声はかまわずに続けた。




〈しっかり成長させ、やっていきましょう!〉

「……おい誰だ? 授業中だぞ、スマホ切っとけ、没収するぞ」




 先生の声の調子に、オレは温厚だけど怒るときは怒るからな、みたいなトーンが混ざり始めて、それまで寝ていた数人もはじかれたように顔を上げた。けど……誰もなにも言わなかった。




〈なお詳細についてはステータスのヘルプをご覧ください〉




 この、妙な声以外は。


「……え、なに?」

「あ、聞こえてる?」

「え、この声……?」


 クラスメイトたちがざわつき始める。

 その声、どこかで聞いたことがある気がするその声は、どう考えてもクラスのどこからも聞こえていなかったからだ。強いて言うなら僕たちの耳元、いやむしろ、なんだか、頭の中で響いたような……?


「おい、静かにしろー」


 パンパン、と先生が教卓を叩くけれど、教室は静まらない。


「……竜胆りんどう、あんたじゃないよね?」


 隣の席の幼なじみ、一丸色葉いちまるいろはが怪訝そうな目で見て言うから、慌てて首を振る。


「なんだって僕がこんなこと」

「だってこの声、かややん・・・・じゃない?」




〈ヘルプからは、様々な情報がご覧いただけます〉




 ……あ。


 そうか、どっかで聞いたことがあると思ったら、前期アニメの大ヒット作でメインヒロインに抜擢され一気に売れ出した、声優の珠洲縞すずしまかや、あの声だ。清純派メインヒロイン役を得意としながらも、いざとなると声にとんでもない迫力と殺意も込められる、通称「地獄から来た歌のお姉さん」な声。


「ってなんで珠洲縞さんの声だと僕の仕業になるんだよ」

「声優を名字さん付けで呼ぶような別方面の厄介オタクだから」

「なんだそりゃ、毎月声優雑誌を買ってる君の方が厄介」

「か、買ってません!」

「ぅひぅょゃぉゅぅっ!」


 と、僕と色葉がいつもの言い争いを始めると、奇妙な声がした。

 猫がひなたぼっこをしていたらアナルにモグラが突っ込んできた、とでも言うような、本当に奇妙な声だった。女子の何人かは真剣に怯えて声の主を見る。


「……川島かわしま、お前か?」

「ひょ、ひょひょ、うひょ」


 クラス一の陰キャ、キモオタ、ってことでいつも「イジられてる」川島くんが震えていた。先生の呼びかけにも答えず、眼鏡の奥の瞳をらんらんと輝かせている。


「おい、川島、どうした?」

「あひっ、あひゃっ……ひ、ひひ、いひひひひひひ」




 がたがたんっっ!




 川島くんが椅子を飛ばして立ち上がる。




 そうして、僕たちの日常は終わった。




〈それでは人類、楽しんでいきましょう!〉




 クラス全員の頭上に表示された、ゲーム風のウィンドウと共に。

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