シルフェストとの行商交易 

 依頼を受けて三日後。

 今日は風が強い。少し厚手のコートを羽織り、ケージの扉を開けてやる。軽やかな足音がして、胸元あたりにレスターが飛びかかってくる。慣れた様子で受け止めると、空いた片手でカバンを開いた。そこへ彼が飛び込んだのを確認して、カバンの蓋をそっと閉めた。はじめガサゴソと動く気配がありはしたが、そのうちしんと静まり返る。もとよりレスターは狭いところが好きらしい。それでも、窮屈な思いをさせてごめんな、とリーヴはなだめるようにカバンの外から軽く二度ほど叩く。

 店の外から、色とりどりの光が窓から差し込んでくる。壁を隔てた通りからはにぎやかな声が聞こえてくる。

(……さて。行くか)


 星だけが瞬く月隠れの夜。けれど今日は少しばかり空の星も霞んで見える。今日の職人地区の工房はいずれも煌々と明かりがつき、昼もかくやという賑わいを見せていた。職人地区の住民たちが、各々の形で他国の商人たちを歓迎する。

 今宵は姉妹都市シルフェストとの行商外交の日。隊列を成しやってくるキャラバンを迎え入れ、自分たちの技術や商品と彼らのそれを互いに売りさばく。

 キャラバンがマーケットを開くのは職人地区の中央広場。そこへに至る大通りには火の入ったランタンが浮かべられ、大通りの両脇には出店が並べられる。普段は人の声よりも職人たちの槌や魔法の加工音のほうがよく響く職人地区が、この日ばかりは活気のある人々の喧騒に包まれる。

 行商外交の日は半ば祭りのようなものだ。これを商機とやってくる商人たちは言わずもがな、珍しいもの好きの町人や輝石街の好事家など、様々な人々が夢を求めて集まってくる。

 かくいうリーヴもそのひとり。この行商にはいつも顔を出していた。真面目に仕入れをすることもあれば、こちらから魔道具を売りさばくこともある。


 職人地区の工房が並べる出店の合間合間で、移動型の調理店が道行く客へ軽食を売っている。ここでしか売らない、というイベントめいた軽食もあるため、それを目当てにやってくるものもいるそうだ。

 リーヴはシルフェストのキャラバンが出張店を出す中央広場に向かう。

 中央広場にはテントが立ち並び、様々な種族の人々がひっきりなしに出入りしている。呼び込みの声も賑やかで、今日もずいぶんと盛況だ。

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