妖精探し 6
リーヴはゆっくりと歩きながら、街中の魔力の残滓を確認する。本当なら最後までレスターに頼みたかったところだが、これほど住人が多いところで彼を走らせるわけにもいかない。
ただ、カバンの中に入っていても自身がかいだ魔力は覚えているのか、歩くうちにカバンの中でバタバタと暴れることがあった。外へ出ようと画策しているらしく、さり気なくカバンを抑えるだけにしていたが、彼の「外へ出たい」という衝動のおかげで、ある程度の区域は絞れた。
ふらりと一軒の店に入る。この通りにある薬屋はここだけらしい。
主に扱う品は薬関係のようだが、日々の食料品も少なからず並べてある。店頭には色とりどりの果物が木のかごに山と積まれ、奥には店員がひとり、カウンターで店番をしている。頭に猫の耳、背中で揺らめく長い尻尾。どうやら機嫌は悪くないらしい。店員の背後には壁一面に薬棚が並んでいる。
リーヴは「今日のおすすめ」と書かれた桃をひとつ手にとってレジへと向かう。
こんにちは、と挨拶がてらに店員へ桃を買う旨を伝えつつ、代金をカウンターへ置く。ただ、それは桃ひとつの代金にしては倍ほど多い。
「お姉さん、ここって『夢への旅路』って置いてる?」
「……ずいぶんといけない子だねぇ」
そっと声を潜めたリーヴへ、店員の女性はにんまりと口の端を上げた。頭上の猫耳がピクピクと動く。
夢への旅路と呼ばれる薬がある。それは妖精族のみが作ることを許されたとされる希少なもの。滋養強壮の薬とされるが、使い方によっては少々「悪さ」ができる、いわゆる「危ないお薬」である。
基本的に表立って出回ることはまずない薬だ。リーヴのような青年が尋ねる構図は普通ではない。
「輝石街のお偉方の依頼でね。おつかいをちゃんとこなさないとうるさいんだな」
いやだよねぇ、などと平然と作り話をのたまいながら、リーヴはカバンの中から紙袋をひとつ取り出してカウンターへ置いた。少し鼻を鳴らして匂いを嗅いだ店員は、中身がマタタビ飴だと分かったらしく、まんまるな目を輝かせた。
「最近、定期的に仕入れが出来てね。どうも生産体制が安定したみたいなんだ」
「へぇ、それはいいね」
「妖精族もこれで稼ぐことにしたのかな」
紙袋と代金を引き取る代わりに、差し出された薬袋を受け取る。袋には薬の名前も書かれていない。袋を開けて中を視れば、煌めく薬の帯びる魔力は淡い赤色。リーヴはにっこりと笑みを返して、桃と薬袋を引き取った。
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