プロローグ 2
来客の男は、ひっそり値踏みをするリーヴを惑うことなくしっかりと見つめ返してきた。
「勧誘・冷やかしならお断り。お客様なら大歓迎。さて、そちらさんはどっちかな?」
来客の男は言葉をためらうように息を呑んだ。もっとも、リーヴはそれを気にしない。客商売にしては言動が奔放すぎる、といくらか言われたこともあるが、殊更に改めるつもりはなかった。
「――陽炎を魅せる魔道具がある、と聞いて」
来客の男の口から口ごもりつつも飛び出した言葉に、リーヴはゆっくりと瞬きをした。どこかたどたどしい言葉は、おそらく人づてに聞き出した言葉なのだろう。一体だれが彼にこの「合言葉」を教えたのか気になるところではあったが、今はそれに執着している状況もない。
「なぁんだ。そっちの客か」
リーヴはカウンターに置いてある化粧箱をひとつ叩いた。
するとこの部屋にあるカーテンが一斉に降ろされ、部屋の壁に備え付けられているランプに次々と明かりがつく。カウンターの上にはランプがひとつと、布がかかった空のケージがひとつ。リーヴは空のケージにかかった布をさり気なく取り払った。
周囲を見回し驚いたような来客に、リーヴは来客用の椅子を勧める。
「ようこそ。ひとまず話だけは聞きましょう」
少し薄暗い店内で、やってきた客はリーヴの勧めるままカウンターの向こう側に座った。
表向きは、庶民的な小さな道具屋。けれど、ひとつの合言葉で道具屋ルティは裏の顔を見せる。
それは「探し屋」 対象は人だけに留まらない。確かに「存在すること」がリーヴへ証明できるのならば、依頼として引き受ける。
そんな彼へ来客が差し出したのは、一枚の紙。
そこに描かれているのはひとりの女性だった。癖のない長髪から垣間見える尖った耳と整った顔立ちから、いわゆる妖精族だろう。神に愛されたとまで言われる容姿と長い寿命をもつ種族だ。この街ではあまり見ない種族でもある。
「は~、本当に綺麗だ。この人が特別? それとも妖精族みんなこうなの?」
「親族の似姿も見せてもらったが、皆美しい方々だったよ」
答えてしまった後で、なぜそんなことを口走ったのか、来客は首を傾げている。
(少しは効いてるみたいだな)
カーテンを下ろしたのと同時に、ふわりと甘い香りが漂い始めていた。少し前に東の国から仕入れたもので、人の口と気分を軽くする作用があるそう。売っていたのは人間だったが、人以外の種族にも効くのか確認はしなかった。売るにしても一度試してみる必要がある。今回は丁度いい機会だったのだ。
「それで、この人がどうしたんですか?」
「いなくなったんだ。今日で一週間になる。どうか見つけてもらいたい」
「なるほど?」
つまりは人探し。そこまで珍しい依頼でもないが、二つ返事で引き受けるようなことはさすがにしない。わざわざこの店に頼みに来るあたり、どう考えても「わけあり」な客に違いないのだ。
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