異能社会で異能じゃないものを異能判定された俺、別の力で頑張ります

棚からぼたもち

第1章 妖怪騒動編

第1話 プロローグ

 『小説家になろう』でも投稿しているのですが、あちらの方が先に進んでいるので1章完結までは毎日2話投稿します。

――――――――――――――――――

 黒い狐面をかぶり、夜の空を走っている男。

 傍から見ると、怪しさ抜群かもしれないが、それが今の俺だ。


「待って!」


「待てと言われて待つ奴がいるか!」


 現在、俺は逃げざるを得ない状況に陥っている。

 誰か助けて。


「この・・・止まらないと攻撃する!」


「止まったら捕まるだろうが!」


「当たり前!」


 俺を追いかけてきているのは、何か銀色の光を身にまとっている少女だ。

 その少女のことを俺は知っている。

 なぜなら、彼女はかなりの有名人だからだ。

 異能と呼ばれる特殊な力が存在する現代社会では、裏の世界にいない限り、強い異能を持つ人物は必然的に有名になる。

 少女もその1人で、日本で10位以内に入るほどの強者だ。

 それに加えて、美少女と言うのもあって、日本で今一番有名な異能者と言えるだろう。

 少女の名前は、白桜はくおうみお

 『白銀ミストルティン』という身体能力の強化し、何でも問答無用に分解する銀色の光を発生させて操作するという超万能かつ強力な異能を使っているって、うわ!まじで攻撃してきやがった!


「殺す気か!?」


「死にたくなかったら止まって!」


「・・・ちくしょう!相性が悪すぎる!」


 今の俺は隠密・攪乱能力に特化しているのだが、あの銀色の光が周りを明るくしているので、なかなか思うように隠れることができない。

 影に潜り込むこともできるのだが、あの光で影を消されてしまって、強制的に引きずり出される。

 目くらましのために攻撃してもその攻撃を銀光でかき消されるし、ついでに俺の命もかき消されそうになった。

 身体能力も高くなっているはずなのだが、澪は普通についてくる。

 ただ、追いつけるほどではないみたいなのが唯一の救いだな。


「ちっ!降りるか!」


 あんまり騒ぎにしたくなかったのだが、捕まったら元も子もないので、俺は高層ビルの屋上を飛び移るのをやめ、そのまま飛び降りた。

 高層ビルの壁をジャンプしてどんどん飛び移りながら、俺は下へと降りる。

 さすがに追いかけてこないだろうと思って後ろを振り向いたら、澪は銀色の翼を生やして追いかけてきていた。


「理不尽すぎる!」


「この状態で攻撃されたらどうなるか分かるなら、すぐに止まって!」


「・・・分かった!止まるから攻撃するなよ!」


 俺は高層ビルの壁にまるで地面に立っているかのように立ち止まった。


「はぁ・・・もう逃がさないから。」


「それは別の場所で言ってほしいところだなぁ。というわけで、今日はお互いに予定が合わなかったということで。」


 仕方ないのでちょっとした奥の手だ。

 手を狐面の口元に持っていき、まるで静かにするように指示しているようなポーズをとる。

 そして、一言。


「コン。」


「っ!」


 澪は一瞬ビクッとなると、銀色の翼が霧散して、硬直したまま、落ちていった。

 ん?落ちていった?


「え!?嘘だろ!?まさか、ピクリとも動けないのか!?」


 強い人ほど効きにくい技だぞ!?

 そりゃ強い人でも、効きやすさとかはあるけど、さすがに完全に身動きできなくなるとかありえるのか!?


「あぁ・・・くそっ!」


 このままだと澪はそのまま地面に落ちて死んでしまう。

 身バレの可能性がある分やりたくないが・・・仕方ないな。

 俺は虚空に手を伸ばし、あるものをつかむ。

 手に取ったのは、赤い狐面だ。

 黒い狐面を外し、赤い狐面をつける。

 そして、俺は澪をキャッチするために急いで地表に降りた。

 赤い狐面は身体能力特化、落ちていく澪に余裕で追いつき、壁ジャンプをしつつ降りることで落下の衝撃を和らげた。


「ふぅ・・・大丈夫か?」


「ありがとう・・・ていっ!」


「あ、危ねぇ・・・油断も隙もあったもんじゃねぇな。」


 澪は俺に抱えられた状態で狐面に向かって手を伸ばしてきた。

 さすがに焦ったわ。

 姫抱っこしてる状態で両手ふさがってたからな。

 一瞬で放して両手の手首をつかみ、倒れないように支える。


「乙女への扱いとしては雑・・・」


「残念ながら、あんたほどの女は俺の手に余るみたいだ。というわけで。」


 もう一度さっきの技だ。

 澪は手首をつかんでいる俺の手を振りほどこうとしたので、俺はおとなしくパッと手を放し、指を立てて、口元へもっていった。


「あ・・・それずるいっ・・・!」


「コン。」


 黒い狐面の時ほど、効果が強くないが、やはり澪は効き目がいいのか、体はほとんど動かせていない。

 逃げるなら今だな。


「そりゃじゃあな。」


「ひ・・・きょう・・・もの~・・・!」


「なんとでも言え。さっきよりは弱いだろうからすぐに動けるようになるだろうよ。」


 恨みがましい目で見てくる澪を放置して、俺は夜の闇に紛れて逃げた。


――――――――――――――――――――


 西暦2033年、世界中で特殊な能力を持つ人間が発見された。

 この力は、「異能スキル」と称され、人類の発展に貢献した。

 異能が発見されてから50年後の西暦2083年、超攻撃型の異能、のちに『特級』と格付けされる異能を持つ人が発見された。

 この異能の名は『爆砕』と呼ばれ、能力は能力者が本人が知っている爆弾と同等の威力の爆発を己の寿命を引き換えに再現するというものだった。

 その爆発とは原子爆弾すらも再現できるというものだった。

 この異能が発見されてから、他の地域でも、このように強力な異能が発見されるようになり、異能が軍事利用されるようになった。


 そして、それから約8年後、西暦2091年に、ついに「異能」を持つ者たち、通称「異能者スキルホルダー」が戦争に投入された。

 この戦争は異能戦争と称され、世界最悪の戦争と呼ばれた。

 異能はのちに、下級、中級、上級、超級、特級、神級の6段階に分類されるのだが、そのうち超級に格付けされる異能でも戦車など簡単に薙ぎ払うレベルの力をもっていた。

 それほどの力を持つ異能者が10人も暴れる戦争が異能戦争で、この戦争に参加した兵は異能者以外はほとんどが死亡した。

 各国はこの戦争以降、より一層、異能を重要視するようになった。


 ほとんどの異能者は5~10歳頃に異能が発現するため、異能者の管理や成長のための中学校や高校が各地に建設された。

 まだ倫理観などが成長していない小学生の時は、危険性などを考慮し、異能の成長のための訓練は基本的には禁止されている。

 今は2183年、一部の例外を除けば、どの世代も生まれた時から異能が存在し、異能が浸透した社会である。

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