逃避行

@HEKISA4

雨音

長くて、冷たい雨だった。


雨粒は細い線みたいになって、たくさん降り注いでた。


1秒が10秒にも思えるほど、

ゆっくり、静かに、時の流れを感じてた。


雨音はどこか遠くの方に聞こえて、

1日中雨の日に、部屋で作業をしている時くらい

どうでもいい生活音になってた。


でも、次の瞬間。


車が雨を潰しながら走り去る

キュルキュルキュルッ…!って音が

大きくはっきりと耳元まで届いた。


音は耳の真横まで迫って、私を現実に引き戻す。


鼓膜の蓋を外したみたいに一気に外の音が耳に流れ込んで

「ヒュー、ヒュー」と自分の荒い呼吸音まで聞こてきた。



きっと運転手はさぞかしびっくりしたでしょうね。


だって、私、こんな土砂降りの中で

路上にへたり込んでいたから。


腕にはまだ温かい肉の塊を抱いてて、

灰色の薄手の部屋着には血が滲んでいた。




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