彼方なるハッピーエンド
おくとりょう
さてさて、クライマックスです。
やぁやぁ、みなさま。お久しぶりです、いえ、はじめまして。
わたくし、死神見習いの暗井
……え?もちろん、偽名でございます。本名はとうの昔に忘れてしまいまして……。
まぁ、そんなことはさておいて。
事件でございます。お助けください、どうしましょう。
あぁ、いや……。まずはわたくしの仕事について、説明するべきですね。
わたくし、死神協会の『ハッピーエンド促進科』なる部署に所属しておりまして。魂に幸福な最期を迎えさせる業務を行っております。
とはいっても、先日研修を終えたばかりのど新人でして。本日が初の単独業務でございます。それはもうドキドキで、昨夜は遅くまで眠れませんでした。
なので、お寝坊いたしました。あはははは。
……いえ、笑い事ではないのです。
初ターゲットである"彼方なる"くん。
彼にはハッピーなエンディングを送ってもらわねばならないのですが、彼が今ちょうど目の前で、首吊り自殺真っ最中なのでございます。あらあら、もう……。
本来ならば、まだ意識のハッキリする段階で、本人と交渉、今後のことを相談したりしなかったりするわけなのですが、遅れたために彼の意識は今や三途の川の上でしょう。
いえ、比喩ですが。
ただ、もう既にいろんな穴からいろんな汁が溢れてまして。これじゃ、ハッピーエンドにはほど遠い。つまり、わたくし大失態。
……いえいえ、まだです。今こそ死神の能力の使いどころ。
まずは、彼の魂と話してみましょう。
――もしもし。もしもし、彼方なるさん。聞こえますか?わたくし、死神見習いの暗井MAXと申します。貴方の心に直接話しかけてます。
いえ、違います。神様ではございません。暗井です。
いえ、死神とはいえ見習いなので。実質、今はまだ"ただの暗井"です。
いえ、"
えぇ、資料では『イジメを苦に自殺』と伺っておりましたので。"暗い"方かと親近感を覚えていたのですが。
あら、そうですか。空元気。まぁ、ご家族とも不仲だったようですし。
えぇ、わたくしも家族とは良好な関係ではなかったもので。生前の記憶はもう忘却の彼方へと消えたのですが。
え?貴方の名前は『彼方なる』?
いや、『忘却の彼方』とは貴方のことを指してるわけではなくて。もう……。分かりにくいボケはお止めください。
とにかくですね。貴方にハッピーエンドを迎えていただくのが、わたくしのお仕事でして。何とか幸せになってもらう必要があるわけです。
えぇ、えぇ。存じておりますとも。
ご両親は貴方をひとりの個人として省みず、放ったらかし。なのに、いつも命令ばかりで、聞かないときには殴られる。
まるでどこかで聞いたような、芸術点の高い虐待家庭。
だからこそ。不幸に満ちた人生だからこそ。幸せに往っていただくために参ったのですが。
ただ……。ちょっとばかり、遅過ぎたようですね。これは。
貴方のお汁でズブズブに濡れた敷きっぱなしの床のお布団。その膨らんだ掛け布団。真っ赤な染みが浮かんでますが、中身はどなたの肉塊ですか?
黙ってたって、しょうがないですよ。これで貴方も人殺し。
あぁ、これさえ無ければ死ねたのに。
……いえ、何でもありません。
まぁ、とにかく。
どんな酷い親でも殺していいというわけではなくて。天罰なんて何処にもなくて。天への唾も他人への呪いは、すべて己に返るわけで。
お
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