霊徹な代弁者の気持ちの伝え方

第12話

　そして放課後。

「じゃあ静永。よろしくな」

「うん。わかってる」僕は理科準備室へと向かう。

［「黒崎。話がある。理科室にきてほしい」

「今なのか？」

「ああ、帰る準備とか、終わったのなら」

　黒崎は、覚悟を決めたように、わかった、と言った。

　理科室では、思原と黒崎が向かいあっているようだ。

「黒崎、これから猫間のことについて話す。だが、まずはここへ来てくれてありがとう」

「あ、ああ。うん」黒崎は、突然の礼に驚いたように返事をする。

「じゃあますは、確認からだ。当時、猫間はいじめられていた。他ならぬお前と、他数名によって」

　少し間をおいて、黒崎は頷いた。

「何故、お前はいじめをしたのだろう」

「それは、…。なんでだろうな。きっと、楽しかったからだろう」苦しそうに言った。

「きっと、ということは、今は、そう思っていない」

「そう、だな。むしろ、何で楽しかったんだろうな。俺は卑劣で最低な野郎だ」黒崎は、何かへの怒りを溜め込んだ表情で言う。

「俺こそ、死んだほうがいい」

　何か、もしかしたら自分自身への、怒り。

「そう、安易に死んだほうがいい、なんて言うな」

「それに、まだ始まったばかりだ。結論を急ぐな。どちらにしろ、猫間はもう死んでしまった。何故だろうな」

「それはきっと、俺があいつの心を傷つけたからだ。体に傷をつけることで、心まで、傷をつけたのだろうその傷は治らなくて、遂に…遂に自殺にまで追い込んでしまった」黒崎は勢いよく頭を振った。

「俺が殺したっ。お前もそう思うだろう？そうなんだろっ」そして、取り乱したように叫ぶ。

　黒崎は、自分を責めすぎて情緒不安定になっているように見える。

「そうだと言ったら？」睨みつけるように見つめる黒崎の視線も気にせず、黒崎に答えを促す思原。

「そうだと言ったら…どうすればよかったんだ？どうしていればっ…そんなの、当たり前だな。いじめなんてしなければよかった。やめればよかった。あいつがそこまで思い詰めているなんて思いもせず、自分だけ楽しんで。俺は、優しさの欠片も無い非道な奴だ」

「…非道、か。猫間は、そうは思っていなかったようだが」

「え？どういうことだ」

「あいつが死んだのは、自殺ではない」思原は、疑問を挟ませない強い口調で言った。

「じゃあ、何なんだ？」

「簡単に言うなら。猫間は、昨日の放課後、忘れ物をとりに学校に戻った。そうしたら、猫を見つけた。そして猫を助けようとした。助けることはできたのだが、万事上手くは、いかなかったようだ。悪天候なのも、あった。その結果…死んでしまった」

「猫か。あいつらしいな。本当に、優しい奴だ。…でもっ。だからってっ。自殺じゃないからといって俺はどうしたらいいんだ。それならどうすればよかった。俺は最低な」一度落ち着いた黒崎の心が再燃する。

　だが、その高ぶる声を思原が遮った。

「確かに、お前は以前、最低な奴だったかもしれない。だが、今はどうだろうか」その声は、黒崎のものと反対に、静かで冷えて響く。

「お前が今も非道な人間なら、お前はそんなに怒ることはなかっただろう。ヘラヘラ笑って流したんじゃあないのか？」

「でも…」

「それにお前は、初めのうちは楽しんでいたが、ずっと変わらなかったわけではない。途中からは」

「途中からは…あいつのことを、知りたかった。なんで、あんなに優しいのか。どうすれば良かったんだろう」

「どうしたかったんだ」

　思原の絶妙なタイミングでの合いの手が、黒崎の本心を引き出してゆく。

「友達に、なりたかったんだ、俺は」