第3話

「先は…静永の後ろ」

 人数的に、一人飛び出ることになる。先生が机を持ってこっちにくる。

「ということで宜しくな」

 突然の転校生に皆ざわめいている。思原が席に着いたところで先生は再び話し始める。

「実は、大事な話があるんだ。今朝、救急車が多かったのはみんなが知るところだと思う。落ち着いて聞いてくれ」

 改まって、何の話だろう。疑問を感じる一方で、嫌な予感もする。でもそれは考えたくない事だ。

「実は、このクラスの、猫間光くんが亡くなったそうだ。しかもこの学校の敷地内で」

 …。え…。え?何だそれ、嘘だ嘘だろう?僕はうまく考えられなくなった。信じられない。

 そう思う一方、そんなタチの悪い冗談を先生が言う訳無い、だとか、だからなかなか来なかったのか、とか思う自分もいる。

 先生は笑い飛ばす気配も訂正する気配もない、真面目な顔だ。

 まさか、本当に。…来るのが遅い、ではなくて、永遠に……。


[クラスはしんと静まり返った。俺は接点がまるで無いからわからないが。悲しむべきことだろう。

 前の席の奴と、その隣は動揺している。受け入れられない悲しみを感じているようだ。その他は…驚きってところだな。あれ、一人違う。真ん中の方の奴だ。アイツも動揺で‥後悔?後で名前を見ておこうか。]


 頭が追いつかず、どうでもいいことばかり考えてしまう。冷静になれ、僕。

 でも、何故学校?皆そう思い始めたようで、ざわつき出す。

 先生が言う。

「警察が来て、自殺の可能性を疑っている。どうやら通報した方も、屋上に人が居て、落ちていくのを見て通報したらしい。という訳で、屋上は当分立ち入り禁止だ」

…自殺だって?あの子の性格からすれば、それは無いだろうと、思う。でも…。

「そして、今こんなことを聞くのは悪いが、いじめの有無も調べられている。特に猫間の居た、このクラスで」居た、なんて傷を抉る様な言葉を使って…。

 でも、いじめなら‥、いじめならっっ。

 僕は、考えない様にしていたそれを思い出す。考え始めるとあいつに怒りが湧く。自殺なんて、と思っていたけど、それならあり得ると思ってしまう。もしかしたらあいつのせいで…。

「もし、いじめをした人がいるなら、正直に言って欲しい。早く言って欲しい。事情も聞くし、後で言うより悪いようにはしない」それはおかしいだろうと、僕は思う。死人に口なしだ。

 でも、誰も手を挙げない。何も言わない。僕は色々な思いを堪えながら思う。僕は、いじめがあったことを、その犯人を、その概要を知っている。でも、あいつらに悪いようにはしない、なんて。そんな生温いことを。あの子も嫌だろう。僕は無言を貫いた。

「もし言えるようになったら、いつでも言ってくれ」

 先生はそう言って出て行った。

 少し張り詰めた沈黙が漂い、やがてざわめきが戻って来る。

 後ろでは、お節介な女子たちが思原と話している。

「さっきのこと、気にしないでね」こんな時に転校して来るなんて大変だろう。「そんな、ひどいいじめなんて、なかったから」そうだろう。女子たちは知らない。

「そうか」ややぶっきらぼうに答える思原くん。

「それより、どこから来たの?…それから話は逸れて続いていく。

 穩陽に話しかけられる。

「ねえ、あれって…」そう、穩陽も知っている。

「きっと、そうだ」

「言った方がいいのかな」

「僕は言わない。言っても意味がないから」

「そっか」

 話している間に一限目に入る。

 ところが、先生が来ず、10分後くらいに来て、「自習していろ」と言ってまた出て行った。

 


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