第12話



後を追って私も部屋に入ると、彼が入り口すぐで固まっていた。



「どうかしたの?」

「いや、そのままだなって。」

「そのまま?」

「あぁ。机も棚も服もベッドも全部が俺が生きてた時のままなんだ。机の上に置いてある写真は俺が置いたわけじゃないけどな。」

「この写真いい写真ですね!!見てくださいよ!」

「あぁ。俺の小さいときから最近のまである。」



写真に触ろうとして触れないことに気づいた彼は涙を流していた。



「死んでからさ、生きている人に話しかけたり、触れたりしなかったから改めて実感するとなんかくるな。しかも俺は院長に見捨てられてたって思ってたけどそうじゃなかったし。そこだけはちょっとだけ後悔してるわ。」

「さっき魂君が出て行った後、院長が救えたはずだったって言ってました。」

「院長が…か?」

「はい。彼らは学校側に訴えていたみたいです。でも学校側は動いてくれず、どう接していいかわからなかった末にあなたが自ら命を絶ってしまった、と言ってました。」

「嘘だ…。そんなの嘘だ。」

「でも、この部屋がいい証拠じゃなですか?」

「…。」



誰が悪いって決めていいものじゃないけど、この件は学校側がまさか魂君が自ら命を絶つ選択をするとは思っていなかった。

もしくはそんな選択はしないだろうと思っていたんじゃないかなと思う。

まして自分の学校からそんなことをする生徒が出たら大変な騒ぎになるから余計考えたくなかったんじゃないかな。

院長夫妻は動いてたけど、間に合わなかった。実際に話しているところを魂君が聞いたわけじゃないから信じがたいと思うけど、彼らを責めないであげてほしい。



「嘘だって言いたいけど、この部屋を見ちまったら信じるしかないか…。」

「彼らも心の整理ができてないように思いました。相当参っているようにも見えましたし。」

「そっか。最後に会っていってもいいか?」

「もちろんです。」

「この時間なら院長室にいるだろ。」



向かう最中にこっそりと掟の項目を見てみると、チェックが付いていた。

ここでよかったんだね。

しかもチェックが付いたってことは魂君もなんとなく心に決着がついたってことかな。



院長室に着くと、夫妻はテレビを見ていた。



「この部屋にいるときって2人はこんなことしてたんだ。」

「見たことなかったんですか?」

「あぁ。ここは子どもが入ることを禁止されてたからな。いけないことしている気分だ。」

「ふふっ、いいんじゃないですか?」

「そうだな。えっと…」



おもむろに院長夫妻の前に正座する魂君。



「俺を育ててくれてありがとうございました。親代わりの2人にはかなり罰当たりなことしたけど、今では…感謝してる。お世話になりました。」



そう挨拶をして部屋を出ていく魂君。


ちょっとだけ、ちょっとだけね、私からのプレゼントで最後の姿だけ見せてたことは秘密。

魂君は振り返らなかったけどね。


2人にも前に進んでほしいから、おせっかいな天使からも贈り物ってことで!

これで堕天決定とか言われてもいいかな。



「さっきのでさ、世話になったところに行くって項目の意味がなんとなく分かった気がする。」

「本当に~?」

「顔うざい。なんとなく、だって。まぁ、行けてよかったと思ってる。ありがとな、アズ。」

「いえいえ…って私伝えた覚えないんですけど…もしかして…」

「いや、あの、これは…そのー…」

「もしかして公園での話聞いてたんですか!?」

「はい…。」



公園に戻り魂君を問い詰めると、公園で私が話していた内容を最初から聞いていたらしく、声がかけずらかったから今まで聞いていたことを隠していたらしい。

しかも聞いてからずっと名前で呼んでくれてたって…もう!もう!もう!!



「なんでもっと早く言ってくれなかったんですかー!」

「言おうと思ったけどさ、タイミングがっていてるじゃんよ。」

「もう!不公平なので、魂君の名前も教えてください!」

「え、あぁ、そうだな。…セラだ。」

「セラですね。」



でもそっか、セラって言うのかー。

セラ、セラ…ふふっ。

って浮かれている場合じゃない。

49日の間はちゃんと導かないとね。





-つづく-








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