真冬の日の惨劇

淡雪 隆

第1話

           淡雪 隆


     一 鬼女


 仰向けに寝たその女は内田魔子という。真冬だというのに、汗びっしょりだった。

 ――う~~む‼️ う~~む‼️――

 最大限に力むと、大きく広げた股間の間から

”ぶりっと"小さな塊が出てきた。出てきた塊の尻を捻ると

"オギャア”と産声を上げ肺を膨らませた。女はその子と繋がっているヘソ膿を裁バサミでチョッキンと切ると、ゴロンと隣に転がした。女はその子にまたがり、眺めた。男の子だった。二勢町中瀬三丁目二番他木造二階建て『木蔭アパート』の一階の一室での出来事であった。


「細い首だね、そのくせ真っ白でプリンとしてる。肉付きもいいが、いかんせん細い。もう泣くんじゃないよ! 猿男!」女は自分で股間を綺麗にすると、回りに出た血などを新聞紙などで拭き始めた。赤ん坊はこの寒さで震えている。そんなことは構わず、再度赤ん坊にまたがり、ジットその首を見ていたが、右手を伸ばして、赤ん坊の首に手を掛けて、ギュット力を加え締め始めた。当然の事ながら赤ん坊は無抵抗だ。あっという間に赤ん坊はぐったりとなった。女はにやにやと笑うと、ビニールを広げその上に新聞紙を敷き詰め、その上にぐったりとした赤ん坊を置くと、ぐるぐると巻き始めた。


 その部屋はアパートの一階に有るのだが、女がくるくると巻き始めたまさにその瞬間! アパートの玄関のドアを勢いよく開けて入ってくる若者がいた。ジーパンをはき、ダウンを着た半グレ男だった。男の名前は木暮雄二、内田魔子の同棲人である。


 女がやっている仕草を見たその若者は。

「おい、魔子❗ おめえ何をやってんだ! いい加減にしろよ何度めだ❗ 俺は知らないからな」と大声を出したかと思うと、クルリと身を翻して、ドアを閉めて、走っていってしまった。


「ふん、一体誰の子供だと思ってんだい❗」女は、入り口に向かって大声でなじった。女は赤ん坊をくるんでしまうと、プラスチックで出来た衣装ケースのなかに、並べた。五つ目だった。

「そろそろ、片付けにいかなくちゃな。少し臭いもしてきたし、山に埋めにいくか」

 と、化粧箱の蓋をし、回りを布製のガムテープでグルグルと巻き始めた。巻き終わると部屋中に消臭スプレーを撒き散らし、風呂場にいって、シャワーを十分に浴びてさっぱりし、普段着に気変えた。勿論下はジーパンをはいてである。後は夜になり家の裏側に行くと、縁の下に置いてあったスコップを持ってきて、自分の軽自動車の荷物置きに隠し、再度家のなかにはいると、ビニールの化粧箱を持ってきて同じく荷物置き場に固定した。そして山の方へ車を走らすと深い山中に車を止め、スコップで、深く穴を掘りそのなかに例の化粧箱を埋めた。アパートに帰ってきて、何食わぬ顔で部屋に戻った。「あぁ、疲れた。もう一度消臭スプレーをまいとくか」とスプレーを持つと部屋中に振り撒いた。



 そんなことが何年も続くわけがない。流石にもうアパートの周辺では、噂が渦巻いていた。ただ、誰もその不信感を確認できずにいたのだ。同棲している木暮雄二の半グレ仲間が三、四人バイクで乗り付けて、玄関の前で車座になって、喚いたり近所の人びとをなんの理由もなく睨み付けたりするから、近所の人びとは近づけないのだ。しかし、このままではいけないと、近所の人が大勢で町内会長に相談に行くことにした。相談を受けた町内会長もなす術がなく、結局交番のお巡りさんに相談に行く事になった。相談を受けたお巡りさんは、とにかく事情を詳しく聞いた。お巡りさんはみんなの話を聞いて、要約するとアパートの内田魔子さんは、絶対に赤ちゃんを何人も生んでいるはずなのに、赤ちゃんの影も形も見ないということだった。確かに赤ちゃんの泣き声を聞いた。という人も多く。妊婦姿を見たのは二度や三度ではないと言うことだった。それなのに同棲している半グレの男達が恐くて、家まで確認にいけない。という事実も訴えられた。

「解りました。住所は二勢町中瀬三丁目二番他木造二階建て『木蔭アパート』101号なのですね」お巡りさんが言った。「おい、上田に井上君! 一寸様子を見てきてくれ」とハコ長から命令が出された。二人の若い巡査は”はい。了解しました"と言って自転車にのって現場に向かった。


 現場に着くと、そこは木造二階だての一階正面から見て一番左端の部屋で、壁にそって軽自動車他とバイクが置かれていた。二人の巡査は自転車を降りると、101号室の玄関の扉をノックした。何も反応がない。二人は声を出して、

「内田さん、内田さん」と大声を出してドアをノックした。暫くすると、ドアが内側から開きポッチャリとした肥満体で、髪の毛は今起きたかのようなグシャグシャの頭をした女が出てきた。

「なんだい❗ うるさいよ❗」と怒鳴り声を上げた。巡査二人は一歩後ずさると、

「うるさいとはなんだ❗ うるさいとは」

 二人は警察手帳を見せた。

「ふんっ、警察か? 何の用だい」と頭をポリポリと掻いた。その時、家から見たからに半グレの背の高いサングラスをかけた男が出てきた。

「何事だ! うるせえよ」しかし、警官の制服を見ると、急に大人しくなった。

「家族調査に来たんだ。ここは内田さんの部屋かね? 名前と年と商業を教えてくれた。その男との間柄も」

「ふんっ、私は内田魔子、三十歳、無職。この男は、七年前に転がり込んできたチンピラ、木暮雄二二十九歳、無職だよ。同棲って言うんだっけ」巡査は書き付けていたが、

「それから?」

「それからって、馬鹿じゃないのそれだけよ」

巡査も頭にきて、つい大声を出した。

「馬鹿だと! ふざけるな。赤ちゃんもいるだろ」

「赤ちゃんなんていないよ」

「嘘を言うな! 近所で赤ちゃんの泣き声を聞いているんだ!」

「いないって言ったら、いないんだよ」

「よし、それならば部屋のなかを見せて貰うぞ」巡査は玄関に進んだが、

「嫌だよ、見せねえよ! ポリ公」と肉たれ口を吐いた。

「ポ、ポリ公だと! とにかく家のなかをみさせろ」

「へんっ、見たかったら令状ってやつを裁判所から貰って出直してきな」

「う・グググッ! また、来るからな」

「もう、来るんじゃないよ」と大声を出した。

 

     二 家宅捜査


 二人の巡査は、部屋の回りをグルッと見回したが何もこれと言うものがなく、交番に引き返して、設楽ハコ長に相談した。

「しょうがねぇなぁ! 地域課長に報告してみるか。おい、俺はこれから所轄の地域課長のところに相談してくるからな。後は頼んだぞ」

「はい」と上田、井上両巡査は敬礼をした。


 設楽ハコ長は、南警察署の吉元地域課長に、いままでの経緯を報告した。

「なんや、こんなことハコ長のところで解決でけんのかいな。多分こんなに近所で評判になっとるのなら、誰かが市役所か県の児童虐待で児童相談所に通報してるやろ」

「いや、それが相談した人がいたそうなんですが、市役所の係の人も児童相談所も行ってはみたものの、この内田という女性に"うちには子供なんておらん!”って言われて、追い返されたらしいんですわ。同棲している半グレの男も仲間を集めさんざん脅かされたらしいんです」「同棲している男というのはここにかいてある木暮雄二という厄介者か。半グレは、チンピラ以上に厄介だからな~ それに家宅捜査令状を持ってこい。等とふざけたこと言いやがって、何も物証もない予想だけでは裁判所の許可が降りるわけ無いじゃないか。何かあるのか? 令状を請求する根拠が。えっ」

「いや、何も憶測だけで何もありません」

ハコ長はかしこまって答えた。


 その二人のやり取りを聞いていた春日正安課長が、

「何だって、木暮雄二だって、奴がまた何かやったのか?」と割り込んできた。

「あの野郎、懲りねえやつだな!」

「春日生安課長。奴を知っているのか?」

「あぁ、よく知ってるよ少年係の頃からな野郎が中学生の時からよく知ってるよ。悪でな! 中学生の時から少年院や厚生施設に入ったり、出たりの男だ。高校の時は暴走族の頭を張ってたな。今でもやくざモンにもなれねえで、族の時の後輩なんかを率いて、半グレやってる奴だろ! ろくでもない奴さ。そんなにその女にてこずっているなら木暮を攻めた方がいいぜ。あいつは今『おれおれ詐欺』をやってるんじゃないかと言うことで、今、五課の組対と一緒に内偵をやっててな、そろそろ掃除をやろうと、話し合ってるところだ。きっとこの中に木暮雄二もいるぜ。そして奴をその件で叩いた方が口を割りやすいぜ。奴らは集まると強気になるが。一人一人になると弱いもんさ! 叩けば直ぐに口を割るぜ」

「そうなのか、ぜひ捕まえたら、地域課にも叩かせてくれよ」課長が頼んだ。

「オッケー、絞り上げてくれ」そう言うと春日課長は自分の机に向かった。

「流石! 春日課長ですね。なるほど男の方を落とすのか。課長いいことを聞きましたね。早く『おれおれ詐欺』のガサ入れをやってくれないかな」ハコ長はいいアイデアを聞いたと、にこにこしていた。

「こりゃ、設楽ハコ長! その時はお前が落とすんだぞ。失敗は許されないぞ。別件逮捕なんだからな」吉元課長がハコ長を睨み付けた。



 数日後、組対との合同で生安部の『おれおれ詐欺』の拠点にあたるビルの二階だったが、ガサ入れが入った。掛け子、受け子、出し子等半グレども二十人が摘発された。そして幸いにもその逮捕した中に木暮雄二もいた。それを聞いた吉元地域課長が、正生課長のところにいって、

「課長。ガサ入れやったんだってな。仲間に木暮雄二はいたかな?」

「おう、勿論いたぜ! 詐欺の聴取が先だからそのあとにな、取り調べさせてやるよ」

「春日課長。ありがとうな。是非頼むよ」

 と吉元課長は設楽ハコ長にそう伝えた。

「よっしゃあ、必ず吐かせたるからな」ハコ長は拳を握りしめた。

「しかし、吉元課長。もし嬰児殺害事件まで発展したら、一課の出番となりますな」

「アホ、嬰児の死体もまだ出てないのに、殺人事件になるかいな。死体が出ての殺人事件だ。とにかく頑張って嬰児の死体を見つけるんだ!」

 課長も少し興奮してた。久し振りの殺人事件にかかわるのだ。 何年振りかな--若い頃の熱い血がわいてきた。


 そして、詐欺事件の聴取が一段落したあと、春日課長から連絡が入った。

「一通り聴取が終ったぜ、吉元課長さん、やっちゃっていいよ」連絡が入った。吉元課長は早速設楽ハコ長に連絡をした。

「解りました。それでは早速、やりましょう」ハコ長は取調室に木暮雄二を呼び出した。

しぶしぶ取調室に入ってきた木暮雄二はハコ長の対面に座らされた。その横には春日課長が立っていた。木暮はチッと舌を鳴らすと課長を睨んだ。

「おう、雄二。お前達が詐欺して稼いだ役一億円の隠し場所を思い出したか?」

 雄二は鼻を鳴らすと、

「さぁ~、知らねえな!」

「惚けるな! お前達が稼いだ金じゃないか。何処に隠したか正直に話した方がいいぞ」と睨み付けた。そこで設楽ハコ長が話し始めた。

「さぁ、木暮! ところでお前内田魔子っていう女と同棲してるらしいな」

「あぁ、してるよ」

「最近近所で噂になってるのを知ってるか?」

「さぁ、何の話だ、知らねえな」

「お前達の間に赤ちゃんが出来てるはずだという話だ。しかし、赤ちゃんを見たことがないという、噂だ」

「さぁ~何かの間違いじゃないか。俺たちに赤ちゃんなんていないよ」

「おい、ふざけるなよ! あんまり俺を怒らせるなよ! お前みたいなガキの扱いはなれてるんだぜ」春日課長と目を合わせて薄ら笑みを見せた。

「な、何だよ。俺を脅す気かよ」

「だったら、素直に言えよ。俺を怒らすと春日課長どころじゃすまないぜ!」

「解ったよ、何年も一緒に暮らしてるんだからな。子供くらい出来てもおかしくないわな」

「それで、出来た子はどうした?」

「俺は、よく知らねえけど、この前は自分で産み落として、その赤ちゃんの首を絞めてるのは見たな」

「何だと‼️ 赤ちゃんの首を絞めて殺したのか?」

「そうだよ」

「その子はどうした」

「さぁ、そこまでは知らねえな。何処かに隠したんじゃないのか。でも家のなかじゃないな。そんなに家のなかは臭くないもんな」

「思い当たる場所はないのか!」

「さあね。俺には解らねえ」



 吉元課長に報告すると。

「よし、吐いたか。これで家宅捜査の許可は降りるだろう。部長に頼んでくるな」と課長は部長部屋に走り込んだ。


「設楽ハコ長! 令状が降りたぞ」と春日課長から怒鳴り声が聞こえた。ハコ長はその令状を手にすると、派出所へ、飛んで帰った。

「おい、上田、井上令状が取れたぞ。部長に頼んで助っ人もつれてきたから。早速鑑識をつれて家宅捜査をしてこい。俺もあとで行く」命令された巡査や刑事達は内田のアパートへ向かった。


 内田魔子のアパートの部屋に着いた巡査は、アパートのドアを叩くと、

「内田魔子さん、警察です。開けてください」と呼び掛けると。ドアが開いて、魔子が顔を出した。

「何だよ! うるさいね!」

「ほら、お前の望んでいた令状だ裁判所の許可が出たぞ」と令状を広げて魔子に見せた。

「チッ、仕方ないね。好きにすれば。」と言って外に出てきた。それッとばかりみんなはアパートの部屋に飛び込んだ。

「おいッ、みんな隅々まで調べてくれ。何かの証拠が出ないとヤバイぞ❗」とあとから来たハコ長が怒鳴った。


    三 竜神社(やしろ)


 家宅捜査は、暫く続いた。

「床のしたから、天井裏まで全てちゃんと調べろ!鑑識さんは家中調べて何か手がかりを見つけてくれ」ハコ長は、怒鳴りまくった。暫く時間を掛けて調べたが、出てきたのは風呂場でのルミノール反応。二人の指紋。床材の隙間から何か得たいの知れない細胞組織位だった。あと縁側のしたに有ったスコップ。軽自動車のタイヤに着いていた土砂。植物の欠片。位のものであった。

「嬰児の遺体は、発見できないか?」

「何処にもありなせんね。少し変な臭いがする位ですよ」捜査官達も疲れていた。こんな狭いアパートである。隠すような場所はもう何処にもない。

「よし、もういいぞ。引き揚げよう」ハコ長の合図でみんな出てきた。

「どうしたい! 赤ん坊はいたかい? 最初からそんなものはいないと、言ってるだろ。バカヤロー、帰れ、帰れ!」魔子が毒づいた。

「畜生、何処に隠しやがった!」ハコ長も悔しくて、声を枯らして言った。そして引き揚げていった。南署に引き揚げると、

「鑑識さん、とりあえず採取したものを科捜研で調べて貰ってくれ」そして春日課長に報告した。課長は苦虫を噛んだような顔をして、

「そうか、出てこないか。嬰児を殺しているのは間違いないんだ。何処に隠したか? それとも何処かに埋めたか。ガサ入れして、見つからないのだから、何処かに埋めたんだろうな」と木暮雄二との聴取書類を見直した。

「んッ、雄二が家に帰ったときに、魔子の奴が新聞紙でくるんでいるのを見た。とある。横にはブルーのプラスチック化粧ケースがあった。と言っているから、殺したのは間違いないんだ。そのあとに、ここはどうかな。奴が言っている、おめえの女の魔子は何処かよく行く場所はなかったか? と春日課長が聞いた時、女は毎月二十日の日の夜に、必ず鋸山の中腹に有る『龍神の社』に参りに行っていたと雄二が言ってるぞ、ひょっとしてこの鋸山が臭いんじゃないか。『龍神の社』か、知らねえな。吉元課長知ってるか?」

「いや、知らねえな」

「まさか、鋸山を全部掘り返すわけにはいかねえからよ、この場所の周辺に賭けてみるか、一か八かだな」春日課長が進言した。その時科捜研からの返事があったと、ハコ長が書類を持ってきた。タイヤに付いてた土は、鋸山の土に近いということで、石灰分が若干多いらしい。細胞組織については、子宮盤の組織の一部らしい。ルミノール反応からは、A.O.B.AB型の4種類が出たらしい。

「決まりだな。物は試しだ警察犬の力も借りて、『龍神の社』周辺に賭けてみるか。」吉元課長は、

「そうだな! 何人か人を貸してくれるか?」

「勿論さ、生安部長には俺からいっとくよ」設楽ハコ長は、

「鋸山の『龍神の社』ですか」吉元課長が、

「お前知ってるのか?」

「はい、昔からの言い伝えがありまして、地元では伝説の『竜神の社』ですよ! お化けが出るらしいですよ」

「本当かよ。気を付けて行ってきな。あとの鑑識等の協力は俺から頼んでおくからな」ハコ長は、怨めしげに課長を見た。よし、暗くならないうちに、全員一時間後に玄関前に集合しろ。

「何だよ、課長は来ないのか?」



 一時間後、手の開いたもの全員で鋸山に向かった。

「いい気なもんだな!」ハコ長がぼやいた。車で一時間ほど山を登ったととこに『龍神の社』があった。もう古くて建物もかなりガタがきている。

自動車を止め。全員降りると、ハコ長の掛け声が響いた。

「ヨシッ! みんなこの辺り大きく周辺を探ってくれ! 何処か一度掘り返したあとがないか! 徹底して探してくれ」皆は銘々長い棒を持って地面をつついて廻った。

「鑑識さん。犬は使えるかな? 例の細胞の臭いを嗅がせてみて」

「ま、やるだけやってみましょう」

鑑識係は迷惑そうだった。


 そんな調子で数時間。みんなやけくそ加減で地面をひたすら黙々と突いていた。そんなおり、警察犬に異変が起こった。急に駆け出し、有る地点で止まると、吠え出した。

「当たりかな? おいッ、井上行って様子を見てこいよ!」井上巡査は恐る恐る近づいていった。

「あっ、ハコ長! 何か掘り返したあとがありますよ!」と大声で叫んだ。皆が集まって、堀始めると。青い化粧箱が出てきた。誰ともなく、大声で

「ハコ長! ありました」とハコ長を呼んだ。

「出たか。開けてみろ」泣きそうな声でハコ長が言った。すると井上巡査が

「おえー、おえー」っとえづき始めた。皆が渋い顔をしている。

「五つ入ってますよ! ビニールで包んだやつが! 臭いがひで~や」と直ぐに蓋をしなおした。

「何だって、五つだと!」


 ハコ長は、早速吉元課長に無線連絡をした。

「吉元課長! 見つけましたよ。嬰児の死体を、しかも五つ有りました。今から署に帰ります。みんな~引き揚げるぞ! 後は一課にバトンタッチですね。課長から一課長に説明しといてください。お願いしますよ。今度は逮捕状ですね。」みんなに大声で言った。

「よっしゃ。よくやった。こっちの事は巻かせとけ」と吉元課長の元気な声が聞こえた。

 

     四 逮捕?


 やっと埋められた箱を見つけ、南署まで帰ってきた。ハコ長は、井上巡査に命じて、

「見つけた箱を直ぐに科捜研に持っていって、死因や時期を調べて貰え! 大急ぎでお願いします。と言ってこい!」怒鳴った。吉元課長は、

「やあ、お疲れさん」

労いの言葉を掛けた。

「それにしても五遺体とはなー。ビックリしたよ! 後は一課に任せよう」

全員が不満の顔をした。こき使うだけこき使いやがって!美味しいところは一課かい❗ 皆がぐったりした。


 科捜研では五遺体とも絞殺と判断された。そこで一課の原田課長が一係の鮫島係長に命じて、殺人罪の令状を持たせて、八人で逮捕に向かわせた。二台の車に分譲し、アパートの内田魔子の部屋に着いて鮫島係長は、四人を裏手に向かわせ、ドアを叩いた。

「内田魔子❗ 警察だ、殺人罪で逮捕する」

 と呼び掛けたが出てこない。仕方なく大家さんにドアを開けて貰った。

「それッ」と係長が飛び込もうとしたが、部屋の中が異様に熱い、一歩後ずさりすると、部屋の中を見た。


 な、何と燃え落ちた襖の奥の部屋に大きな蛇がトグロを巻いて鎌首をあげていた。いや、蛇ではない、竜だ❗ 角や髭も短い手足もある。そして、黄金色に輝き何とも言えない神々しさがあった。綺麗に光り、辺りは明るくなった。

『ガオーッ』一声吠えると、天井を破り、二階の屋根を破って夜空に舞い上がった。くねくねと身体を揺らし上昇していく。不思議なことに、その回りを五つの光る玉が竜の回りを飛び交っていた。そして、雲の中に消えていった。

            (了)

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真冬の日の惨劇 淡雪 隆 @AWAYUKI-TAKASHI

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