第26話 トリスちゃんと永遠の誓い
わたしは何も言わずにライに向けて、突き返すように指輪を返した。
『いりません』と拒否した訳ではない。
「ちゃんとした言葉と態度で表してよね」
そう言ってから、ただ左手を差し出す。
おずおずとしか、出せない。
わたしも意外に意気地がなかったみたい。
さりげなく、薬指へ誘導するように指をピンと伸ばして、アピールしているのは内緒だ。
わたしに預かって欲しいというのなら、言葉と態度ではっきりと示して欲しい。
だって、それは形見の大事な指輪なのでしょう?
預かるということはそういうことと思って、いいのよね。
それともわたしの思いが暴走しているだけ?
だから、はっきりして欲しい。
「これからの人生を俺と一緒に歩んで欲しい」
ライはわたしの手を取ると跪いた。
彼のはっきりとした言葉と態度から、並々ならぬ覚悟を受け取った。
今度はわたしが返さなくてはいけない。
「はい……喜んで」
思ったよりも尻すぼみで小さな声になってしまった。
あれだけ、居丈高な物言いをしたのに何とも情けない……。
ライはわたしの返答に薄っすらとした笑みだけを浮かべ、差し出した薬指に指輪をはめてくれる。
「今はこれが精一杯なんだ。ごめんな」
「分かっているわ。これでもあなたとは長い付き合いなんだもの。それくらいは理解しているつもりよ? だから……」
「俺が帰るまで待っていて欲しい」
「うん……」
その日、わたしとライは初めて、口付けを交わした。
軽く、唇を触れ合わせるだけ。
それだけなのになぜか、涙が止まらなかった。
理由は分からないが、指で涙を拭い、頭を撫でてくれる彼の手からの温もりが恋しい。
そして、ライ――ライオネル・オセは旅立った。
ただし、一人での旅立ちではない。
あの気のいい豪傑タイタス・カラビアも同行するのだと言う。
カラビア家だけでなく、フォルネウス家まで勢揃いした出立式は盛大なものだった。
わたしもフォルネウスの娘として恥ずかしい姿を見せられない以上、形式ばった挨拶だけでしか別れを告げられなかったのが唯一の心残りだ。
思いを通じ合えたし、待っていて欲しいと約束もした。
だから、ライはきっと帰ってくる。
そう信じていた。
アンフィスバエナの消滅が、確認されたという嬉しい報せが王都に入ってきたのは別れから、二ヶ月あまりが経過してからだった。
死体の腐敗具合から、斃れたのは一ヶ月以上前のことらしい。
発見と確認が遅れたのは戦いの激しさに他の者が巻き込まれないよう二人が配慮したからだそうだ。
ぶっきらぼうだがどこまでも優しい二人らしいと思ったが、これで終わった。
帰ってくる。
彼がわたしのもとに帰ってくるのだ。
「あいつは見つからなかった……」
現場を直接、確認したジェラルド兄様の言葉にわたしは二の句を継げない。
ただ、目の前が真っ暗になるのを感じた。
彼は帰ってこなかった。
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