第23話 トリスちゃんと立ち込める暗雲
発端は小さな出来事から、始まった。
小さな出来事と言ったが、わたしにとっては非常に由々しき事態であり、悩ましい問題である。
それというのもかれこれ、十二年も一緒にいる愛犬(?)シャドーの様子がおかしいのだ。
わたしが五歳の時に彼と出会った。
その時は仔犬だったと考えても十三歳近いことになる。
大型犬の十三歳は高齢ではないだろうか?
見た目こそ、特に年老いた感じは受けないし、食事の時はとても元気だ。
つまり、食欲は旺盛なのだ。
しかし、お日様が燦々と輝き、天空から見守ってくれる日中はほとんど、死んだように眠っている。
眠っているだけだから、心配するほどのことはないのかもしれない。
でも、眠るほどに体力がなくなっている可能性だってある。
シャドーとの別れがそう遠くない未来に待ち受けているかもしれない。
そう考えるだけで悲しくなってくる。
だが、シャドーのことばかりを気にかけていられなくなったのが今のわたしの置かれた状況なのだ。
父様が倒れた……。
幸いなことに大事には至っていない。
これといった病があったせいではなく、単に激務が続いたことによる過労が原因だ。
ところがおかしな方向に話が進んでいく。
見た目はまだ若く、元気な父様だ。
それでも
どうやら、今回のことでかなりの自信を失ったらしい。
政界を引退すると言い始めたのだ。
父様の電撃的な引退発言に慌てふためいたのが皇帝陛下と政権を担う中枢部だったのは言うまでもない。
本来は段階的に委譲し、宰相としての職務を退くのがセオリー。
父様はいささか、強引な手法で強権的ではあったものの仕事ぶりは評価されていたし、何よりも鷹揚で太っ腹なところがあるから、それなりに慕われてはいた。
その貴重な人材に取って代われるような人物がいるのか?
そこでもう一人の公爵家当主であるモーガン・カラビアに宰相の任を引き継ぐようにと打診されたのだが……。
何とモーガンは宰相に就くことを固辞しただけではなく、軍務卿を辞任すると言い出した。
皇帝陛下は勅使を遣わし、留意を要請したが父様もモーガンも意志は固く、引退は決定的となった。
軍務卿は補佐官を務めているジェラルド兄様がそのまま、繰り上がる形で軍務卿に就くことで全会一致を見たらしい。
これには兄様の人望の高さと日頃の忠勤ぶりが評価されたことが大きいのだろう。
問題は宰相の任を継ぐ人物の選定だった。
人望があり、なおかつ有能である人物。
それでいて、貴族からも侮られないことも重要だった。
務められる人間はウィステリア卿しかいなかった。
だが、この人事には穴があって、今度はウィステリア卿が務めていた内務卿の地位が空席となってしまったのだ。
ナイジェル兄様が補佐官を務めている。
そのまま繰り上がりで内務卿とはいかなかった。
いかんせんまだ、若輩と侮られかねないからだ。
そこで白羽の矢が立ったのがチェニェク・ウィステリア伯爵。
ツェツィ義姉様の兄上だった。
年齢はジェラルド兄様と同じ、二十九歳。
ウィステリア伯は次期宰相であるブランドン・ウィステリア侯爵と親戚関係にある同族だ。
家柄も申し分ないし、マクシミリアン皇帝と懇意である点も大きく考慮されたのだろう。
しかし、これらの人事のごたごたが影響し、フォルネウス家もカラビア家もてんやわんやの状態になっていた。
当の本人である父様と母様はどこ吹く風で涼しい顔をしているし、モーガンもどこか
父様は領地の方で暫く、療養すると言いながら、母様と羽を伸ばす気が満々なのはどういうことなのだろう。
ジェラルド兄様が本邸に居を移すということはもしかして、もしかするのではないだろうか?
だとすれば、カラビア家でも動きが見られるはずだ。
ライはどうするのだろう。
いや、ライはどうなるのだろうか?
それが気にかかって、わたしが溜息を
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