第19話 トリスちゃんと(未来の)鬼嫁
「つまり、カラビア家があの二人の身元を引き受けたということ?」
「そういうことになるな。トリスのところのあの娘と同じと思ってくれ」
ライは今日も供すら、連れずにフォルネウス邸にやってくる。
わたしと話をしてもそんなに楽しいとは思えないのだが……。
本当に変わった人だと思う。
たまに手合わせをすることもあるから、それが楽しみなのだろうか?
「ライ様! リック様は何で来られないんですかっ! マリーはっ! マリーは! 悔しゅうございますっ!! おねーさまも何か、言ってくださいませっ!」
ライが噂をしたせいだろうか?
動きにくいドレスを着せられているのに器用にも全速力で駆けてきたらしい。
息を切らして、苦しそうでも言いたいことは言うはっきりとした性格の女の子だ。
マリエッタ・ノルドヴィーア。
当家と遠縁にあたる東方の貴族ノルドヴィーア家の娘だ。
年齢はシリルと同じ年だから、九歳になったばかりだが、どこか大人びた子で既に恋する乙女として暴走している。
東方にどうもきな臭い雰囲気が漂ってきたのでせめて、娘だけでもと当家を頼ってきた。
フォルネウス家としては根本的な問題を解決するべく、早速、議題に挙げたほどだ。
帝国としてもこれまであまり、注力していなかった東方に本腰を入れて、対処することになるだろう。
だが、すぐに解決可能な問題ではないのでマリエッタを当分の間、預かることになった。
幸いなことに我が家には彼女と同じくらいの年齢の子供がいるし、わたしも妹が一人増えたようなものだと軽く、考えていた。
「マリー。そうは言ってもね。お仕事が大変なのは分かるでしょ?」
「マリーにだって、分かりますぅ! お仕事大事なの分かりますぅ! でも、愛はもっと大事なんですぅぅ!」
「やれやれだな」
ライが額に手を当てて、嘆じている。
疲れが顔に見えるから、かなり精神的に来ているんだろう。
だが、わたしはこれをほぼ毎日、聞かされているのだ。
そもそもの前提から、色々と間違っている。
リックがマリーに好意を抱いているのか、誰も知らないし、分からない。
あの男は氷の貴公子と呼ばれるくらいに表情筋が死んでいるのだ。
何を考えているのか、分からないところがあるし、ましてや、異性への好意など把握出来るはずもない。
リックがこの邸をあまり、訪れなくなったのも仕事が忙しいのもあるが、マリーに付きまとわれるのを嫌がったという可能性もあるのだ。
ただ、この点ではわたしよりも人間観察力に優れるディアが『あの人もまんざらではないと思います』と断言していた。
全く、脈がない訳ではないのだろう。
「今日のところはこれにて、失礼する」
マリーに振り回され、疲労の色が見えるライはおかえりあそばした。
要は逃げたとも言う。
逃げ遅れたわたしはマリーに付き合わざるを得ない。
悪い子ではないのだ。
むしろ、素直で気持ちや感情をはっきりと表現出来る点は好ましく、思っている。
これほどにかわいい女の子から、好意を寄せられて好ましく思わない男性はいるのだろうか。
恋に恋をする度合いが強すぎるのとまだ、九歳というのが問題だとは思うのだが……。
「おねーさま! リック様はマリーのこと、嫌いになったのでしょうかぁ?」
「そ、そんなことはないと思うよ」
好きになっているの前提と思えるそのハートの強さを見習いたいかもしれない。
マリーの止まらない口を見ているとディナーまで、わたしが解放されることはなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます