二〇一六年十二月三日 2016/12/3(土)14:58
あまりの軽さに、澄子は違った意味で言葉を失った。
放心した澄子に、なぜか芽衣はゆっくりとうなずいてみせた。そして、少しだけ頬を膨らませながら笑う。
「聞いてよ、酷いのよ?あのパパはね、自分から私に惚れておいて、なおかつ借金までしたのに、行方くらましてさ。本当、ふざけんなって話でしょ?」
まるで、友人同士の会話を楽しむかのように、芽衣は話し続けた。
「それでね、息子と暮らしているって聞いたから、柿坂の家に押しかけてやったわ。軽い督促のつもりだったけど……ふふ、気が変わったの」
その顔に、恍惚とした色が浮かぶ。
「何と、その家には中学三年とは思えない、長身で大人っぽくてセクシーな男の子がいたのよ。それでいて、少し照れ屋さん。もう、これは磨けばきっと良い商売道具になると思ったんだけど……」
澄子がその意味を解するより先に、芽衣は口を開いた。
「お客の相手をさせる前に、何より先に私が試したくなったの」
「な……っ」
澄子はハンカチで口元を覆いながらも、芽衣を睨みつけた。
「商売って……!」
――この人は何を言っているの?
「まさか、そんな……待って……中学生……に」
「そうよ、貴重でしょう?だから、流石にタダで楽しんじゃうのは悪いと思ったわけ。パパに掛け合ったわ。誠司くんを好きにする代わりに、借入分をチャラにしようかって」
胸の奥から吐き気が込み上げる。
たまらず咳き込む澄子を、芽衣が心配そうに見つめた。
「大丈夫?空調が悪いのかしら」
芽衣がエアコンの吹き込み口を見上げた。
――この人。
澄子は背中が寒くなるのを感じた。
――何かがおかしい。
しかし、芽衣は一向に気にすることもなく話を続けた。
「あろうことか、あのパパは承諾したのよ。冗談かと思ったけどね。追い詰められた人間は、どんなワラでも掴むのねぇ。でも……」
そこで、初めて芽衣が悲しげな目をした。
「実際に、私が息子に馬乗りになっているのを目の当たりにしたら、やっぱり思った以上にショックだったみたいでね。二十五年前の今日、死んじゃったの……。本当、バカよ。死ぬことなかったのに……私も少し心が痛んだわ」
澄子は身体じゅうの震えをどうにか押さえ、浅い呼吸を繰り返した。
「何て……酷いことを……」
「本当、そうよね」
芽衣はうなだれた。
「ちゃんとホテルに行くべきだったわ」
「……」
さっきから、話がかみ合わない。
――いや、違う。
感覚が、良識が、どこかが『ずれて』いる。
芽衣は首をかしげた。
「でも、六百万の借金を十五歳とのセックスでチャラにするのは……良心的だと思うけど」
「ふざけないで!」
澄子は頭を抱えた。
「それじゃ……か、柿坂さんが……」
それ以上、何も言えない。澄子はひたすら息苦しさを耐えた。
すると、芽衣が困ったように笑った。
「そうなの。最初はあの子も抵抗しなかったんだけど、色々と大人の事情がわかってしまったら、ちょっと反抗的になったのよ。ま、当たり前よね」
「……」
「おまけに、パパが自業自得とはいえ精神を病んで、死んじゃうもんだから、誠司くんは全部が全部、自分のせいだと思い込んじゃって。おかげで、私も逆恨みされたわ」
芽衣は頭が痛そうな顔をしたが、それも束の間、再び笑みを浮かべた。
「でもね、あの子は本当に賢くて、そのへんのダサい男なんかより、よっぽど大人だったわ。自分の置かれた立場がわかったら、ようやく割り切って従順になってくれたのよ」
その不穏な言い回しに、澄子は耳を疑った。
「割り切る……」
「そうよ」
芽衣は音を立てながらリンゴジュースを飲んだ。
「だって、パパが私に借金したのは、誠司くんのためだもの。事業に失敗して無一文になって、それでも息子には辛い思いさせたくないって……要は、誠司くんが生きていられるのは、私が貸したお金のおかげなのよ」
「……」
「ただ、学生のあの子は借金返せないでしょ?だから、そのまま代わりとしての『返済』はしてもらったの。ふふ、同年代の男の子が、雑誌やビデオに夢中になる時に、いろいろ教えちゃった」
澄子は、反射的に耳を塞ぎそうになったが、震える身体を押さえつけた。
――逃げないって決めたのよ。
柿坂のために、すべてを知る覚悟でここに来たのだ。
芽衣は澄子の様子などお構いなく、まるで何かを欲するように小指で唇をいじりながらつぶやいた。
「……誠司くんのセンスは抜群で……指も舌も完璧よ。言わなくても、欲しいタイミングがわかってるのよねぇ。ヤル気がない時は、よく父親の話を出してけしかけたわ。その乱暴な時もたまらないのよ。私もあの時はまだ若かったけど、さすがに十代のパワーにはかなわないわ」
澄子は、床の一点を睨みつけたまま、声を押し殺した。
「絶対に……許せない」
「澄子ちゃんに許されない以前に、未成年に手を出したのがバレて、私は捕まっちゃったわ。そのついでに昔の悪いこともバレて、刑務所でお世話になったの」
芽衣は何かを思い出すように空を見つめた。
「出所してからも、誠司くんとは年に一度、あの子の親の命日に『返済』してもらっていたんだけど、私ったら、またすぐに別件で捕まったりして……それで、今はこんな状態」
その悪びれもしない態度、澄子は真っ向から女に喰ってかかった。
「あなたは狂っている……普通じゃない……!」
「昔、同じことを誠司くんにも言われたわ。二人とも似ているのね」
「……」
「だから、同じことを言ってあげるわね。彼が未成年だったから、私は捕まっただけ。でも、二十歳だったら?オッケーじゃないの?だって、セックスしただけだもの」
「それが、間違いなんです!」
澄子は声を荒らげた。
「身体を重ねる行為は……そんな軽いものじゃないはずでしょう?」
「どうして?合意の上なのよ?」
芽衣は首をかしげた。
「もしかして、尊い愛情表現とでも思ってる?子孫繁栄のための崇高な儀式とか?」
「……」
「女房がお産で実家に帰っている間に、風俗に通う亭主なんかいくらでもいるし、小遣い稼ぎのために、たくさんの男と寝る女子大生もいるでしょ?そこに尊さなんかあるのかしらね。やっていることは一緒なのよ」
芽衣は呆れたようにため息を吐いた。
「まあ、世間一般では、愛情の証らしいけど……。それは耳元で愛をささやき合えばオッケーなの?相手が嘘をついているかもしれないのに?真っ最中に、別の誰かを思い浮かべているかもしれないのに?アレ本当に不思議よね。どうして、目をつぶるのかしら」
強く見開かれた芽衣の瞳が、真正面から澄子を捉えた。
その口角が色っぽく持ちあがる。
「普通じゃない私に教えて。ねえ、普通ってどういうこと?」
普通。
普通。
普通。
目の前の女が間違っているのは明らかなのに、それを批判するだけの資格も経験も自分にはない。
――だって、わたしも普通を知らないから。
澄子は髪の毛を鷲掴みにしたまま、膝に突っ伏した。
途端に、芽衣が慌てて澄子の背中をさする。
「ご、ごめんなさい!言い過ぎちゃったわね……。だって、誰とも寝たことがないはずの澄子ちゃんが、セックスを語るなんて、ちょっとビックリしちゃったのよ……。でも、考え方は人それぞれだからね。うん」
そして、再びあの怪しい色気を放つ視線を澄子に向けてきた。
「それにしても、澄子ちゃんは怒った時の顔も声も、すごく良いわね。誠司くんにはもったいないんじゃないかしら」
「は……」
――この人……もしかして。
澄子の疑惑が伝わったのか、芽衣は少し頬を膨らませた。
「あ、誤解しないで。私は誰とでもオッケーなんかじゃないのよ。ちょっと久しぶりにウブで素敵な子に出会えて、嬉しくなっちゃっただけだから」
いや。
性の対象など関係ない。
ここまで来ても何かがおかしい。
まったく通じ合えない――。
香織のように、ライバル心をむき出してくれた方がまだわかりやすかった。
柿坂が話していた『説明するには難しい相手』という意味がようやく理解できたかもしれない。
――この人は、純粋に単純に、身体を重ねる行為だけにしか興味がないんだ。
そこに相手を想う恋愛感情はない。ただの、情欲だけだ。
咄嗟に、澄子は目の前の女から視線を外す。
すると、かえって芽衣に顔をのぞき込まれてしまった。
「ねえ、澄子ちゃんは……誠司くんのことで、何か知りたいことでもあるんじゃないの?わざわざ、こんな所にまで来たんだもの」
「……え?」
「この私に会いに来るってことは……そういうことでしょう?」
「……」
「もちろん誤解しないで欲しいのよ。私は、あなたのライバルなんかじゃないの。むしろ味方よ。これからも誠司くんと仲良くして欲しいって本気で思っているんだから」
そこで、少しだけ芽衣が咳き込んだ。澄子は、その左腕に点滴針の痕跡を見つけ、胸に鈍い痛みを覚えた。
――。
理解できない相手なのは間違いない。
――だけど。
この病床の女にとって、澄子も同じ『理解できない相手』に違いないのだ。
それを、突っぱねないで、歩み寄ろうとしている。
澄子は心が揺れると同時に、わずかな恐怖を覚えた。
――芽衣さんは、詐欺犯なのよ。
人の心をコントロールするのが上手いに決まっている。
もしかしたら、知らない間に、罠に堕ちているかもしれない――。
澄子は、大きく息を吸った。
「わたし、気になることは、全部柿坂さんに聞くことにしているんです。そういう約束をしているんです」
「約束?」
芽衣は、大きく目を見開くと、声を上げて笑った。
「あの子がそんなこと言ったの?やるわねぇ」
そして、あの柔和な色を浮かべ、澄子に微笑んだ。
「それで聞けた?『一緒にいるのに、わたしの身体に触れたくないんですか』って」
脳裏に、ポプラの並木道に長く伸びる二人の影が浮かぶ。
――『ないですよ』。
芽衣は細いあご先に指を添えて、何やら考え込むように宙を見つめた。
「でも、そうねぇ。澄子ちゃんが相手なら……きっと、こう答えると思うわ。『キミが怖がるから』って」
『アンタが怖がることをするつもりは一切ありません』
澄子の身体中から体温が失われていく。
「ふふ、それだとズルい男になっちゃうわね。誰に似たのかしら」
芽衣は、あの色気を帯びた眼差しで、澄子を見つめた。
「ねえ、当たり?」
背中に、氷があてがわれたような感覚があった。
日差しが雲に覆われ、澄子と芽衣の足元が陰る。
そのまま床に吸い込まれてしまいそうだった。
「でも、誠司くんが、あなたに触れようとしない理由は、別に必要ないでしょ?あなたも触れさせようとしないわけだし……。それとも、何かしら。目覚めてしまいそうなの?」
嬉しそうに笑う芽衣の顔を直視できない。
澄子は手を固く握り、ひたすら冷たい床を見つめた。
――そんなんじゃない。
自分でもこの未熟な想いに戸惑っている。ただ、確かに言えるのは、目の前の女のように、性的欲求を満たしたい気持ちは一ミリもない。それでも、どんな言い方をしたところで、この女には通用しないだろう。
それ以上に、用いるべき言葉も、澄子は持っていなかった。
――何て、惨めなの。
涙を溜めてうつむく澄子に、芽衣がため息を吐いた。
「誠司くんだって、澄子ちゃんと深い関係になる必要がないなら、私のことなんて耳に入れなかったはずよ。それを、あえて会わせようとまでしたんだから……覚悟したのねぇ。男嫌いの澄子ちゃんが相手だから、誠司くんも『安心』していたのに、だいぶ悩んだでしょうね」
最後は、やはりあの柔らかい笑みだった。
「平気よ、澄子ちゃんが悪いわけじゃないわ。それに、あの子にも必要なことだったのよ」
「……」
「ごめんなさいね。ムキになる貴女が可愛いから、意地悪したくなっちゃった」
ゆっくりと、フロアに日差しが戻る。
――。
澄子は押し黙ったままだったが、芽衣はそれを良いように解釈したようだった。
「私があの子の代わりに教えてあげる。あの子は女に触れると……というか、セックスすると、不幸になるって思い込んでいるだけよ。簡単に言えばトラウマよね」
その四文字に、澄子の身体が自然と強張った。
恐る恐る顔を上げると、それと合わせるように、芽衣がうなずいた。
「まず何より、父親が死んだでしょ?次に私が逮捕されたでしょ?そもそも、一般的な恋愛順序を飛ばして、いきなり経験しちゃったせいで、世間との感覚のズレに悩まされて、駆け引きとか、行為そのものとかが面倒になっちゃったのよ。当然、女の子の扱い方も知らないんじゃないかしらね。あの子にとってのセックスは、借金返済の『ツール』でしかないのよ」
芽衣は肩をすくめて、申し訳なさそうに笑った。
「そうはいっても、完全に悪いのは私だから、病気になった時、今までのことも含めて謝ったのよ。借金の残債も帳消しにしてあげるって言ったわ。そうしたら、誠司くんに断られたの」
「……」
「この前、あの子が病室に来て……利息付で一九〇万、現金を置いて帰っていったわ。見舞い金とは言っていたけど、文字通りの手切れ金ね」
芽衣は、どこか清々しい顔をして言った。
――。
澄子は、芽衣に一つの問いをぶつけた。
「あなたは……それでいいんですか?」
すると、芽衣がふてくされたような顔をした。
「もちろんイヤよ。元気になったら、また相手して欲しかったし。でも、仕方ないわ。完済だもの」
「だって……彼を、柿坂さんを、あ、愛してたんじゃないですか」
「まさか」
芽衣は眉をしかめた。
「アイシテルなんて、そんなわけないじゃない。相手は十五歳だったのよ?それに、ベッド以外のあの子に興味はないわ」
「……」
「ああ、そうだ。その言葉は、うかつに言わない方が良いわよ。すごく怒るからね」
「え?」
「昔、冗談っぽく囁いたら、突き飛ばされたことあるの。しばらく家出までしちゃってね。相手してくれなくて寂しかったわ」
ふいに、花火祭りの時を思い出した。
澄子自身がその言葉に恐怖していた時、柿坂のあの言葉がよみがえる。
『その五文字だか六文字だかの言葉は、単なる音です』
『それほど、自己本位で自己満足な言葉はありません』
愛しい人の苦しげな眼差し――。
澄子は、胸が震えると同時に、何かが解かれていくのがわかった。
「柿坂さんは……このままの関係が一番幸せだと言いました」
「え?」
――『一番、心地良くて、安心できて……幸せな距離でした』。
「あの人は、わたしと一緒に散歩をして、お昼寝をするだけで充分だと言ってくれました。その際に、身体を重ねる必要はない」
――わたしたちには、最初から関係ない。
「それでも、まだ柿坂さんが不安になるというなら、わたしは片腕の距離でも構わないんです。結婚もしません。子どもも欲しくありません。わたしは、誰よりもあの人が信頼できて安らげる存在になりたいんです」
どうして、そこに気づけなかったんだろう。
愛しい人は、出会ってすぐ、最初にそう言っていたじゃないか。
――『一人で生きようとする、貴女をひそかに尊敬していました』。
――それなのに、わたしは。
澄子は涙を落とすと、それを拭って芽衣に向き直った。
「芽衣さんが関わったおかげで……わたしも柿坂さんと出会うことができました」
「……」
「貴女が柿坂さんに二胡を教えたことも……感謝しています」
耳の奥で、切ないメロディーが響いてくる――。
「柿坂さんが弾く『流波曲』はすごく綺麗なんです。とても癒されて……わたしが大好きな曲です」
そこで、芽衣が吹き出して笑った。
「イヤだ。『流波曲』が癒し?あれは、人生の苦難が込められた曲なのよ。アテのない人生、流浪の人生をね」
「……」
「あの子が初めて弾いた時は鳥肌が立ったわ。見事なまでの情念、まさに天才だった。でも、今はきっとダメね。澄子ちゃんと現を抜かしているようじゃ、もう二度とあんな演奏できないわ」
澄子は悔しさで身を震わせながら、思わず言い返した。
「……確かに、わたしが『流波曲』を聴きながらお昼寝をしてしまうと言った時、柿坂さんにも大笑いされました。でも、そんな悲しい曲なんて知らなかったんですから、仕方ないじゃないですか」
二人の思い出の曲が汚されたようで、澄子は両目に涙を溜めた。
すると、芽衣が呆けたような顔で澄子を見つめてきた。
「今、何て言ったの?」
「え?」
「大笑いって……あの子が……そんな風に笑うの?」
「……」
芽衣は糸が切れたように、椅子に寄り掛かった。宙の一点を見つめ、しばらくボンヤリしていたが、小さくうなずくと、生気を失った瞳で澄子を見た。
「本当に……誠司くんは……本当に大切な人を見つけたのね」
芽衣は両手で顔を覆うと、そのまま肩を震わせた。
そして、やはり笑っていた。
「変な子たち。澄子ちゃんも、誠司くんも」
「……あなたにだけは、言われたくないです」
その小馬鹿にしたような目つきに、澄子は腹が立った。
すると、芽衣が小さく息を吐き、ささやくように口を開いた。
「私、誠司くんには何度も抱かれたわ。毎日毎晩、そうやって仕向けてやったのよ。とても気持ち良かった」
澄子がストールをぐっと握りしめた時、その強張らせた肩を、芽衣が優しく叩いた。
「気持ち良かったけどね……そういえば、誠司くんに真正面から強く優しく抱きしめられたことは一度もないわ」
「……」
「ふふ、キスしようとするとね、すごく嫌がるのよ。まるで、プロに徹せられない風俗嬢みたいで、その時は笑ってやったけど……今なら少しわかる気がする」
芽衣は、リンゴジュースのストローを前歯で噛みつぶした。
「本当に大切な……誰かと……」
その目が、ほんの少し揺れた。
「私にもいたわね、そんな人が」
「えっ?」
澄子は、飛び上がるほど驚いた。返す言葉も見つからない。
しかし、それを気にすることもなく芽衣が笑う。
「こんな私と関わったらいけない人。本当に大切で触れたいとも思わなかった。この汚れた生涯で、そんな綺麗な人と出会えたことに感謝よ」
「……」
「あなた方には理解できないでしょうね。幸せな人間関係というのは、世間の『型』に当てはめるものじゃないのよ。そんなのはタダの手抜き」
「……」
「結局は幸せなんて、思い込みと勘違いでしかないんだから。『型』でしかない幸せを信じ続けるのは、結構大変よ」
その時、廊下の方から人の気配がした。
「ああ、いたいた!林さん、お部屋に面会の方が来られてますよ」
看護師の呼ぶ声がすると、すぐさま芽衣の顔に、あの柔和な笑みが戻った。
「はい、すみません。戻ります」
そして、振り向きざまに、澄子に小さく頭を垂れた。
「今日は来てくれてありがとう。もう、私とは会うことないと思うけど、誠司くんをヨロシクね。澄子ちゃんと一緒なら、あの子も大丈夫だと思うから」
「……芽衣さん」
「二人で、好きなように『幸せ』になってちょうだい」
薄日が差し込む廊下を、芽衣はふらつく足で戻っていった。
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