未来の人間

NADA

88歳

夜中に目が覚めた

誰かいる

二人?

「静かに、いい子にしてれば痛いことはしない」

一人の男が言った


驚いて声を出しそうになったが、我慢した

お母さんは病院の夜勤でいない

今、家には自分だけだ

10才の僕には、どうすることもできない


もう一人の男が言う

「君の髪の毛と爪を少し切る、後は採血、ちょっとだけチクッとする、それだけだ」

子供の僕に対して、わかるように話してくれるのだから、そんなに悪い人ではないかもしれない


心臓がドキドキしている

見たことない道具を、僕の指先に当てる

本当に少しだけ指先がチクッとした

全然痛くなかった

髪の毛と爪も、わずかに切っただけで、わからないくらいだった

「身体には触れないが、君の情報を読み取る

5分程、なるべく動かないようじっとしていてくれ」


何か作業をしながら、二人目の男が僕に説明をしてくれた

「2022年の今からは、想像がつかないかもしれないが、未来の人間は皆、人工なんだ

人工ってわかるかな?

例えばうなぎでも天然と養殖がいるだろう?自然界で生まれ育ったものと、人間が増やして育てたもの

2100年、ちょうど君が88歳の時に、天然の人間は最後の一人になる

それが、君のひ孫にあたる」


「説明しても、わからないだろう」

もう一人が言う

「彼には知る権利がある」

「寝てればよかったのに」

もう一人の言葉には返事をせず、僕に話を続けた


「もうすぐ、世界中の人間の子供は自然に産まれなくなる

最後の一人の君のひ孫に当たる人間は、国際的な天然記念人だ

非常に重要な存在なんだ

けれども、まだ赤ちゃんだ

いろいろと調べるのは、難しい

私たちは、調査のため過去に来た」

「未来から来たの?」

僕が聞くと、協力ありがとう、と言葉を残して二人の男は消えた


しばらくの間、僕はぼんやりとしていた

夢だったのかな?

いつの間にか、また眠っていた



あれは、夢じゃなかった

僕の子供が結婚した頃には、もう人工の子供が当たり前になっていた

そして、孫が結婚して、自然に妊娠した時には、マスコミが取り上げてニュースになった

人工生まれじゃない人間は、絶滅危惧種に指定されている


あの時、僕が協力したおかげで天然記念人は、ひ孫ひとりだけではなくなった

僕の家系だけの特殊な遺伝子の存在が判明したのだ


しかし、僕は思う

特殊な遺伝子を操作して、自然な繁殖が可能になったかもしれないが、操作した時点で、自然ではないんじゃないか?

あの夜以来、人工じゃない人間は一人もいなくなってしまったのでは?

88歳になる今、自分が抱いているひ孫はやはり、最後の一人の天然記念人なのかもしれない

僕にはわからない

どちらにしろ、結果は同じだった?

人間は絶滅していく運命だったのだろうか…?









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未来の人間 NADA @monokaki

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