美晴と冬馬のいつかの待ち合わせ
真南大道
一、いつも喧嘩ばかりしている美晴と冬馬を含む五人の話
そもそものきっかけは、大学の授業でその時たまたま近くの席に座っていたことだった。五人一組の同じ班になり、共同で一つの発表をすることになった時は、美晴は冬馬のことをいいなと思っていたのだった。真面目だし、課題に対して熱心だし、しっかりと主導権を握りつつもまわりの人にちゃんと気配りを忘れないところがかっこよかった。
問題は高校の時からの親友の茉莉も冬馬のことをいいなと思ったことで、学校帰りの喫茶店でたわいもない話をしている時に「ねえねえ、冬馬くんってかっこよくない?」という話題になり、茉莉が冬馬のことをなんだか気になっているということを知った美晴は「あ、そう? わたしの好みではないけどね」と一気に応援する側にまわって、親友の恋を全力で応援しようと思ったのだった。
しかし、茉莉の冬馬への想いは結局実らずに、こんなにもかわいらしい茉莉を傷つけるなんてひどいやつなんだと美晴は思い、それからというもの美晴は冬馬を生涯の敵とすることを心に決めたのである。
本を読んだり、一人で過ごす時間を好む冬馬は、人付き合いに関してわりとドライなところがあって、それほど友達がたくさんはいるタイプではなく、唯一心を許しているのが、その時も教室で並んで座っていたが故に同じ班になった晃彦で、ともすれば冷たい性格に見られがちな冬馬に対して、晃彦はのんびりとした、穏やかな雰囲気を醸し出していた。
これだけ対照的な性質の二人が、気が合うとはなんとも妙な話ではあるが、優柔不断なところのある晃彦は即断即決の冬馬といると楽だし、また冬馬も晃彦といると気をつかわなくてよいので落ち着くようであった。
その学期のその授業が終わってしまえば、おのずと班は解散となるから、五人は単なる顔見知りに戻りそうなところを、恋愛相談をしている内に茉莉と晃彦がなんだかんだでくっついたので、どこかに遊びにいく時にそれぞれの親友である美晴と冬馬も誘うようになって、それならどうせならとたまたま同じ班だった薫にも声をかけるので、なんだかんだ五人はいつも一緒に行動することが多くなったのであった。
なにかの折に冬馬が、最近料理研究家の動画を見るようになって、それ以来料理をするのにハマっているという話をした時のこと。茉莉がちょっとびっくりした様子で、「美晴も同じこと言ってたよ。料理、最近始めたんだって」と言った。
「気が合うじゃないの」と薫。
美晴と冬馬はお互いが同じ料理研究家のチャンネルを見ていることが分かって、共通の趣味が見つかって盛り上がりそうなところだったのだが、冬馬が「いや、俺の方が料理にハマってるね」とわけの分からない張り合い方をして、美晴がそれに乗っかって、「いや、私の方がハマってると思う、ガチで」と譲らず、他の三人はやれやれまた始まったよと呆れ顔だった。
美晴と冬馬はいつからか顔を合わせれば口喧嘩ばかりで、遊園地に行けばそれぞれ正反対のエリアに行くと言い張り、食事をしに行くお店を決める際も二人は決まって全く違うジャンルを主張して譲らないのであった。
「じゃあ、どっちが料理が得意か勝負しよう」と最終的に美晴が言い出し、「望むところだ」と冬馬が受けて立った。他の三人が変なこと言い出すね、まあがんばってねとかなんとか言っていたら、何言ってんのあんたたちが審査員をするのに決まってるでしょと美晴が言うので、他人事として聞いていた三人も、このおかしなイベントに巻き込まれてしまうことになったのだった。
美晴は物事をあまり深く考えないところがあるので、どうやったらこの勝負に勝てるかなんて考えていなかったし、また実際勝っても負けても正直どうでもよかった。ただ冬馬に張り合うことさえできればそれでもう満足だったのである。
一方、勝負事で負けることが大嫌いな冬馬は早くも、いかにしたら勝負に勝てるかについて考えをめぐらせていた。審査員の票は茉莉と晃彦と薫の三票、茉莉はうまかろうがまずかろうが同情票として親友の美晴に一票を投じるであろう。同じ理由で晃彦は自分に入れてくれると思う。ということはすなわち、この勝負は三人の審査員がいるようでいて、実は薫がどちらに票を入れるかで勝敗が決するのだ。
そうなると薫の好みを把握しさえすればいいわけだが、携帯ゲームから家庭用ゲームまで幅広くとにかくゲームが好きで、五人で遊んでいる時もたまにヘッドホンをして一人で黙々とゲームをし始めるくらい自由人で、気まぐれな性格故にみなから猫みたいだと評されている薫の好みを把握するのは難しかった。
とある日曜日、いよいよ料理勝負が行われる日の朝、待ち合わせ場所になっていた駅の改札前にみなが集まってもそこに薫の姿はなく、連絡するとその連絡で起きたという返事がきた。しかしそういうのがいつものことだから誰もみな慌てない。薫はともすればそのまま来ずに二度寝をしそうな雰囲気を醸し出していたのだが、それでは審査員が偶数になって勝負の決着がつかなくなる恐れがあるからとにかく急いで来いと連絡して、薫は直接現地に駆けつけることとなった。
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