夜店が見せた昔日の面影
織宮 景
僕の英雄
正月。入り口の鳥居から神社まで続く出店に気分が上がる少年。少年のお爺さんとお母さんはその姿を見て微笑む。すると、息子がある出店の前で止まる。
「これしたい!一回だけで良いから」
少年が指差すのは射的であった。一回5発で300円。絶対一回では済まないことをお母さんは見通していた。しかし、子供の可愛い笑顔に負け、300円を出す。夜店のおじさんに渡されたコルクの球を詰めていく。
「打った時に引いたレバーが下がるから気をつけるのよ」
「はーーーい」
初球を撃つが、全く標的に当たらない。そしてあっという間に最後の球になってしまった。
「何を取ろうとしてるの?」
「1番上の段に乗ってるお人形!」
息子が指差す人形は商品の中でも1番大きいものだった。経験者の親には何十発当たったとしても倒れないことがわかる。しかし、子供にそれを言ったところで納得しないだろう。
「もう一回!もう一回!」
「終わりです。違うところ行きますよ」
お母さんが息子の手を引っ張ろうとした。
「待つんじゃ」
お爺さんが射的台に300円を置く。皆が驚いた。もう米寿を迎えた腰が曲がったお爺さんが射的をすることに。
「子供さんの分ですよね?」
「違う。わしじゃ、わし」
出店のおじさんも目が点になる。お爺さんは5発のコルク球を渡され、球を込める。銃に頬を当て、いつも見せない鋭い眼つきに変わる。それはさながら戦地に立つ兵士の姿だった。
再び銃を握りしめたお爺さん。するとかつての記憶がよぎる。敵はトンプソン銃を装備した兵士が3人。森林の中、負傷を負った仲間と逃げて身を潜めていた。仲間は足を撃たれ身動きができない。動けるのは自分1人。敵は連射できる武器に対し、自分は単発の銃のみ。真っ向勝負では負けるのは明らかだった。なので見つかる前に先手で背後から撃つ作戦を立てた。警戒しながら進む敵兵の背後から隠れて銃口を構える。失敗すれば、2人とも死ぬ状況に心臓の音が鳴り止まない。視界を遮ろうとする虫達が自分には悪魔に見えた。胸に手を当て心を落ち着かせ、覚悟を決める。その刹那ーーーーー
「おじいちゃん!取ってくれてありがとう!射的上手だね」
大きい人形を抱き抱えて満面の笑みを浮かべる孫。その笑顔を見たお爺さんはこの日常が永遠に続きますようにと願った。
夜店が見せた昔日の面影 織宮 景 @orimiya-kei
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