陽子の塩辛

卯月

おじいちゃんがベージュ色な日

 今日はおじいちゃんの「ベージュ」のお祝いの日。

 ブルーの日とかレッドの日もあるの? ってボクが聞いたらなんかお母さん笑ってた。

 

 おじいちゃんの日なので、晩ごはんはおじいちゃんの好きなものばかり。

 お魚とか、煮物とか、ボクはちょっとつまんない。

 でもおじいちゃんはとってもうれしそうだった。


 ボクはおじいちゃんに聞いてみた。


「おじいちゃんが一番好きな食べ物って、なーに?」

「んん、そうだなあ……」


 おじいちゃんはウーンと考えて、でもフツーの食べ物のことを言った。


「ふかしたイモかなあ」

「イモ? これ?」


 ボクはサトイモの煮っころがしをおハシで突っついた。


「いやいや、ジャガイモだよ。

 ジャガイモをかしたやつが一番美味い」

「えーっ」


 じゃがバターならボクも、何回も食べたことがある。

 おいしいけど、でも一番っていうほどかなあ。


 ボクが考えていると、お父さんが話に参加してきた。


「蒸かしイモにイカの塩辛しおからのっけるやつ?」

「そう! それ!」


 お父さんの言葉をきいて、おじいちゃんは目をキラキラさせた。


「陽子の手作りの塩辛!

 あれ乗せて食うのが一番うまかったんだ!」


 ようこって、ボクの知らない名前だった。


「ようこって、だれ?」


 ボクの言葉を聞いておじいちゃんはアッと口を開いて、なんか恥ずかしそうに顔を赤くした。


「あー、陽子ってのはね、おばあちゃんのことだよ」

「そうだったんだ、ふーん」


 どうして恥ずかしそうにしているのか、よく分からない。


 ボクはおばあちゃんに会ったことがないんだ。

 ボクが生まれたときにはもういなかったんだ。

 おじいちゃんの部屋に写真がかざってあるのを見たことしかない。

 おじいちゃんはおばあちゃんのことを、ボクには「おばあちゃん」とよび、お父さんお母さんには「ばあさん」とよぶんだ、いっつも。

 だからおばあちゃんの名前が「ようこ」だっていうのを、ボクは初めて知った。


「ねえどうしてさっきは「ようこ」ってよんだの?」

「い、いいじゃないかそんなこと」


 おじいちゃんはやっぱり顔を赤くして、恥ずかしそうだった。

 なんで恥ずかしそうなんだろう。

 なんで「ようこ」って言ったんだろう。

 ヘンなの。


「でもイカの塩辛とジャガイモってそんなにおいしいんだあ」

「うん、そうだよ」


 ボクは塩辛ってヌルヌルしていて臭くって、本当は好きじゃない。

 でもおじいちゃんが大好きっていうおばあちゃんの塩辛なら、食べてみたいなあって思った。

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陽子の塩辛 卯月 @hirouzu3889

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