第十六稿 パクチーとの勝負

クレソンちゃんを仲間に迎えた私たちは、次にルッコラ君の案内でパクチー君を探すことにした。


その前にレタス村で現在の世界の状況を見るついでにご飯を食べるというバジルちゃんの案により(世界の状況を見るのは主に私とクレソンちゃんなんだけども)、食べ物屋さんに入った。


世界地図はないけど、この付近の地図を貸してもらってどこらへんに人民掌握軍が居るのかを食べ物屋のお客さんとか店主に教えて貰った。


「今分かっているだけでも、この村が完全に包囲されているのが分かるね。」


クレソンちゃんが、ふーむ。と言いながらそう言う。


そうなんだよね。この前1つの拠点を潰したことで前線が少し前進したけどそれだけ。


レタス村とサラダ村を合わせてぐるりと囲まれていることに変わりはない。


しかもこの包囲網…


「ちょっとやそっとじゃ崩れないかも…」


「パセリちゃんも戦術を読むのが上手なんだね?」


ボソリと私が呟くと、クレソンちゃんが驚いたように私を見た。


「まぁ、こういう陣地取りゲームみたいのはよくやってるからね。」


と、まぁそれは置いておいて。


村を包囲する人民掌握軍は、どうも2重か3重くらいに包囲している感じだ。


といっても、レタス村やサラダ村を包囲しているというより、レタス村やサラダ村がむしろ包囲の外側にあって、周囲に包囲された村や町がある結果として、レタス村やサラダ村も包囲されているような形になっている印象だ。


「…こことここ。それにここも多分突破すれば包囲の連携はないと思うよ。」


クレソンちゃんが地図の3地点を指す。


その地点は、包囲網のつなぎ目だ。


例えばAという村を1という包囲網がぐるりと囲っているとしよう。そしてBには2という包囲網が、そしてCには3という包囲網。


私たちレタス村やサラダ村はこの3種類の包囲網のちょうど中間地点にいる感じ。この包囲網の1と2の接合部や2と3の接合部を攻撃して突破できれば、向こうも混乱するというわけ。


「その前にさ、こっちの攻撃拠点を作るべきじゃなかな?」


もちろん、それが容易なわけじゃない。


数は圧倒的に敵の方が多いし、場合によっては1と2の両方から援軍が来る可能性だってある。あくまでも接合部に攻撃をすれば、1の包囲網に直接攻撃をするよりも援軍が来辛いだろうというだけの予測。


だからその前に私は拠点作成を提案した。


レタス村やサラダ村から攻撃に出るのじゃ遅いし相手に気取られるからね。


「それはそうだね。パセリちゃんいい場所知ってるの?」


地図の上では実際の地形は分からない。


攻撃をするなら有利な地形から攻撃をしたり相手に気取られない位置、もしくは深く相手の領土に楔としてねじ込んでいる場所がいいはず。


「まずは見晴らしがいい小高い岩山があるからそこを偵察拠点としようよ。」


私が最初に転移した場所だ。


「それとさ、いずれはレタス村とサラダ村を1つの拠点と考えているんだ。となるとまずはこの村を分断されないような攻撃拠点且つ防衛拠点が必要だと思うんだ。」


そう言いながら私は、レタス村とサラダ村を地図上で指さした。


さらにその中間地点、ちょうど今の街道の終わり辺りにまで指を持っていく。


「この辺、ちょうど敵が攻めてきたし防衛拠点にするのは悪くないかも。兵站も両方の村から繋げるし。」


兵站とは、簡単に言えば武器とか食糧を輸送するまでの道みたいなもの。


2つの村の中間地点に拠点を作れれば、そこまでの物資の輸送が、2つの村から可能になるってこと。


「悪くないね。まずはそこに拠点を作って人員を送ってもらおう。」


にこりとクレソンちゃんが言って、私たちは食べ物屋を後にしようと思った。



ところでレタス村では、野菜も家畜もそこまで豊富じゃないから食事代は高い。


そして私たちはお金を相変わらず持っていない。


どうやって食事にありつくかって?


私の得意な交渉術よ!


「あ、あの~ですね…」


「勇者が食い逃げ?」


店主がすごむ。


「い、いや。食い逃げとかじゃなくてですね…その…お金を持っていないことを忘れてたと言いますか…」


「そんな言い訳が通ると思ってる?」


言い訳じゃないんだよ。ほんとなんだよ。


だって私はJK。自宅警備員だよ?お金はないけどなくても心配ないような生活なんだよね。


外食なんてしないし。


つまり普段の私の社会性の無さが今ここで大きなダメージを受けたことになる。


こりゃちょっとは社会勉強をしないと、ラノベすら書けないかもね…


よく考えたら前回転移した時もお金の管理はカラアゲさんやナポリタンだったな。私はお店では好きな物を注文して食べるだけ。


野営の時もナポリタンが狩りで捕って来た獲物が調理されるのを待つだけ。


サラダ村でも勇者だからという理由で、勝手に料理が出てきたし…


よく考えたら私って、すっごく恥ずかしいことを今までしてたのでは?


「ごめんなさい!」


素直に謝る。


「本当に、お金がないのを忘れてて、でもお腹が空いてまして。その…どうすればいいですか?」


「なぁあんたら勇者で、しかもフェアリーとバンパイアを味方につけてるならよ。バンパイアのパクチーって奴を知ってるだろ?」


パクチー君?これから会いに行こうと思っているけど?


そう思いながら私は顔を上げた。


あれ?どうも許してもらえる感じではなさそう…


「あいつも食い逃げしたんだわ。ここに連れてきてくれよ。そしたらあんたらの分はチャラにしてやるからよ。」


えぇ。とゆーかパクチー君、この村によく来るの?


私がルッコラ君を見ると、すまなそうな顔をされた。


その可愛らしい表情ズルいよ。


とりあえず私たちは、パクチー君を探して連れてくるという名目で無銭飲食の責任を何とか逃れた。


「これからは、お金の稼ぎ方も考えないとね。」


「なぜ人間はお金なんて必要なのかしら?」


私の言葉にバジルちゃんが訝しむ。


「だって、物を買うのにお金がかかるでしょ?」


しかしどうやら私のこの感覚は、フェアリーにもバンパイアにも全く共感を得られなかった。


バジルちゃん、ルッコラ君、クレソンちゃんの3人(匹)が同時に、そうなの?と首を捻った。


「ま、まぁとにかくさ。パクチーの元に行こうよ。」


こうして私たちはルッコラ君案内の元、パクチー君がいるという場所に向かった。



驚いたことにパクチー君がいるという場所は、クレソンちゃんがいた林の近くだった。


もっと驚いたことに、そこには妖精の里とバンパイア村があるんだとか。なんともご都合展開だね。まぁ今は関係ないか。


とりあえず私たちはバンパイア村に向かったんだけど、どうやらパクチー君は1人で人民掌握軍へ勝負を挑みに行ったらしい。


「何やってんだか…」


とバジルちゃんが漏らすのも仕方ない。


うーん。私が描いたラノベとは全然違う設定だけどまぁ仕方ないか。


というわけで私たちにはパクチー君が人民掌握軍と衝突する前にパクチー君を止める必要性が出てきた。


バジルちゃんとクレソンちゃんが、飛んでパクチー君を探してくれると言ってくれたのがとってもありがたい。


これまた驚いたことに、クレソンちゃんがパクチー君を見つけて何とか人民掌握軍とぶつかる前に引き留めることに成功した。


…んだけど、今度はパクチー君の怒りの矛先がこっちに向いてきた。


「何だてめーら?俺のやり方にケチつけんのか?」


あれ?喋り方がどことなくナポリタンに似ているような…


「俺はなぁー。掌握軍がバンパイア村に攻めてくるって情報を受けて迎え撃ってるだけだぞ?」


ギロリ。と睨まれた。


そうなの?それならパクチー君悪くないじゃん。むしろ村思いのいい子じゃん。


でも私たちも後がないからごめんよ。


「えぇっとさ。レタス村でご飯を食べた時にお金を払わなかったことあるでしょ?」


「お金?んだそりゃ。」


そりゃそうだよね?だって私もさっき知ったけど、フェアリーとかバンパイアにはお金って概念がないんだもん。


「えっとね。私たち人間の間では、ご飯を食べるのにお金っていう、うーん。アイテムが必要なんだ。お金とご飯を交換して貰うの。でね、パクチーがご飯を食べるだけ食べてお金を渡さなかったからレタス村の人が困ってるんだ。」


「てめぇ…何で俺の名前知ってやがる?まさか敵か?」


「違う違う!」


私はクレソンちゃんにも分かってもらうために、この世界が自分が作ったラノベの世界であることを説明した。


「よくわかんねぇな…けど迷惑をかけたってんなら謝るぜ。」


私のことはよく分かって貰ってないけど、お金が必要ってことは理解してくれたようだ。


「けどよ。その前に掌握軍を倒すぜ?」


「そのことなんだけどさ。私たちも掌握軍を倒したいって思ってたところなんだ。もし、仲間になってくれるならバンパイア村も助けられると思うんだけどどうかな?」


「あぁん?俺は俺よりも弱いやつとは組まねー!特にそこのルッコラみたいな泣き虫は大っっ嫌いなんだよ!」


ルッコラ君の隣でバジルちゃんが猛烈に頷いてるけど、納得してんじゃないわよ!


「強いとか弱いとかじゃなくて助け合おうって話しなんだけど」


「問答無用!爪伸!」


私の言葉を遮ってパクチー君が叫ぶ。


瞬間、パクチー君の爪が異様に伸びた。


「あれが噂に聞く血祭ね。」


私の隣でいつもののんびり口調ではない口調で、クレソンちゃんが言う。


血祭?何それ?


「あんたばかぁ?私たちフェアリーには妖精魔法が使えて、バンパイアには血祭が使えるの。常識でしょ?」


バジルちゃんがなぜか胸を張ってるけど、知らないし。そんな設定作ってないし。


とゆーかパクチー君すごく速いんだけど!


「死ぃね!」


右手の長い爪で私のことを右下から左上へと引っ掻く。


咄嗟に聖盾をかかげる。


ホーリーシールドガードが私とバジルちゃんとクレソンちゃん、ルッコラ君を包む。


爪は盾で弾かれた。


「その盾…掌具か?」


私の盾を見てパクチー君が目を細める。


掌具?何それ?


聞いたこともない言葉に反応したのは、意外にもバジルちゃんだった。


「そんな訳ないでしょ!これは勇者の印の片翼!聖盾!」


「ならばてめぇは勇者ってわけか!勇者を倒せば俺が世界最強だろ?」


にやりと笑って今度は左手の伸ばした爪で正面から突いてくる。


さっきの右手の攻撃で私の盾は若干右上へと上がっている。要はガードに隙が空いている状態だ。


その隙間を正確に突いてくる。


急いで盾を戻すけどパクチー君の攻撃の方が速い。


――ガッ!


ホーリーシールドガードが私を守ってくれたみたい。


薄い白い膜が体を覆ってくれてそれが鎧のようにパクチー君の爪攻撃を受け止めてくれた。


けど…


膜にひびが入ってる。


「確かに聖盾のようだな。その防御力は大したものだ。だがそれだけじゃ俺は倒せない…?」


パクチー君が途中が話しを止めた。


「勇者様をいじめるな!」


ルッコラ君!あんた何て頼もしいの。別にいじめられてるわけじゃないけど、いざという時に頼りになるのはいいね。


ルッコラ君がパクチー君を後ろから抱きつく形で止めてる。


「てめぇ…そんな血祭の使い方しかできねーから、弱虫とか言われんだろーが!」


どうやらルッコラ君も血祭を使ってるらしいけど、どんな力を使ってるのかよくわかんない。力が強くなるとかそんなのかな?


それよりも。


「ねぇバジル。掌具ってなんなの?」


「はぁ?あんたばかぁ?」


はい出ました。バジルちゃんのあんたばかぁ?


「掌具は握器と対になる掌握軍の特殊な武具よ。握器が武器で掌具が防具。物によっては武具に見えないタイプもあるって話しよ。」


「それにね~、それぞれが特殊な力を持っているらしいわよ~。」


クレソンちゃんがバジルちゃんのセリフを盗んだ。


「あんたねぇ!私のセリフを返しなさいよ!」


シャーっとバジルちゃんが怒ってるけどクレソンちゃんは、いいじゃな~い。と相変わらずのほほんとしている。


それにしてもふーん。そんなものがねぇ。つまり、その特殊な武具を使って人民掌握軍は領土を拡大してるってことか。


なるほど。私のつまらないラノベも作り込めばここまでの物になるのか。


「ここで私の妖精魔法よぉ~成長促進~。」


クレソンちゃんがサラダ村にもってこいの妖精魔法を使って、木の根っこを急成長させた。


根っこでパクチー君を捉えて降参させた。


「勇者ってだけはあって、ルッコラだけじゃなくてフェアリーまで味方につけているとはな。その代わり約束しろよ。必ず掌握軍を全滅させるってな。」


降参した割には上から目線だね。


でもまぁ、私が描いたラノベの通りなら人民掌握軍は全滅というか全壊させなきゃいけないから言われなくてもそのつもりだけどね。


とりあえず私たちはパクチー君を仲間に迎え入れた。


レタス村の食べ物屋の店主と話をつけないとね。


しかし、目の前から砂塵が上がっているのが見えた。


何かくるね…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る