第二稿 港のある町

自分が書いた非情につまらないラノベ(書いている時は最高に面白いと思っていた)の世界に転生(厳密には転移)してしまった私は、ゴブリンがいなくなって活発化した村に暫く滞在していた。


名目の半分はもてなし。半分は旅立ちの準備。


準備って言ってもカラアゲさんが勝手に準備を進めてくれてるんだけどね。


『自発ください#いいねで気になった人お迎え~お別れはブロ解で~←これのせいで異世界転生しましたw』だと確かここで更に仲間が増えるはずなんだよね。


主人公である私は魔法使いでカラアゲさんは戦士。


新しい仲間はタンク役のナポリタン。


金髪長髪で日焼けした小麦色の肌。


一見ギャル男だけど顔はイケメン。絶対モテるようなキャラ設定にしたっけ。


肩にはトカゲの刺青を入れている。海にいたら絶対ナンパしてくるいかにも風のキャラ。


「おひさっすカラアゲさん。」


うわぁー。金髪を掻き上げててるよぉー。コイツ絶対自分のことかっこいいと思ってる。


いや自分が作ったキャラだけども、いざ目にしてみるととてつもなく嫌悪感。


「君が勇者?オレはナポリタン。よろしくね。」


ほらね?自分のことをカタカナのオレって言ってる時点でもう嫌!


私、この人のこと嫌いだ!


「は、初めましてアヤメです。よろしくです。」


「アヤメねぇー。カラアゲさんが言った通り女っぽい名前だねぇ。」


髪の毛を掻き上げながら言われると、とってもムカつく!


そう思いながら私は、はぁ。と曖昧な返事をしたんだけどやっぱりこういう人には効果ないね。


ま、この人はタンク役だし、せいぜい敵の攻撃を引き受けてもらうことにしよう。


この後旅立ちで近くの港町に向かうんだよね。


あ、そういえば私って町の名前決めてなかったな。


この村もたしかラノベの中では、始まりの村とか描いてたっけ。


んで次に目指すのが港のある町。


「で、どこに行くんすか?カラアゲさん。」


ギャル男が訊いてるよ。


「うむ。隣の港のある町に向かう予定だ。そこであわよくば船を借りようと思っている。」


ほぅらね?


「いいっすね!冒険っぽくなってきたっす!」


船を借りてどうするの?何目的で船借りるの?魔王がいる場所は船がないと行けないの?


そもそもギャル男!君は何で私たちの仲間になっているの?


あぁー!我が小説ながら訳が分からない~!



…という訳で港のある町です。


という風にならないのがラノベとの違いだぁー!


本当ならすぐに港のある町に到着しているのにぃ~!


今私たちは始まりの村から港のある町へ向かって歩いている最中。


『自発ください#いいねで気になった人お迎え~お別れはブロ解で~←これのせいで異世界転生しましたw』に戦闘描写がない以上、モンスターと遭遇する心配はないんだけど、それを知ってるのは私だけ。


カラアゲさんもギャル男のナポリタンもそのことは知らないから、当然慎重になる。


それは分かるんだけど…


「止まれ!」


まただ。


そっと気づかれないようにため息をつく。


慎重なのはこの世界ではきっと大事なのだろう。それはいい。モンスターがいつ襲ってくるかも分からないし。


でも曲がり角の度にモンスターを警戒されてたら、いつまで経っても港のある町にたどり着けない。


こういう時って、コミュニケーション力ある人とかなら、上手にカラアゲさんを扱うんだろうなぁ。


でも残念ながら私は人付き合いとか苦手。


だから人に合わなくてもいいようなラノベを描くって仕事をしてるんだし。


でもだからこそ、私のイライラもどんどん募る。


えぇい!めんどくさい!


「もう!そんなに神経質にならなくても大丈夫ですよ!」


私はつい、プリプリしながらさっさと先を歩いてしまった。


「あ!おい!」


とか言いながらカラアゲさんが追いかけてくるのが分かる。


ナポリタンはカラアゲさんの後を付いてくるだけの男だし。


自分で考えておいて言うのもなんだけど、何だこのパーティー。



「いやー!見た目と違ってアヤメって大胆なんだなぁー!」


酔ったナポリタンがウザ絡みしてくる。


鬱陶しい。


あれから何もないことを知っている私が、どんどん先を進み、その日の内に港のある町に着くことができた。


おかげで、せっかくの準備が無駄だったとカラアゲさんが言っていたけど、私の知ったことではない。


恨むなら、先の展開が分かるつまらないラノベに私を転生させた神様か願いが叶うお守りを恨んでほしい。


「まぁだがそのおかげで早くこの町に到着できたのも事実。」


渋々という感じではあるが、カラアゲさんも認めてくれた。


本当に異世界転生していたなら、この町に来るまでの間だけでも、ドキドキの冒険だったのだろうけど、今の私は全ての展開が分かる。


ドキドキなんてものは全くない。


そして実感すればするほどに、訳の分からない内容だったことに気づかされる。


これじゃあ誰からも共感されないよねぇ。


はぁ…


「どうしたん?アヤメ。」


こっそりとついたため息を目ざとく気づいて、ナポリタンが訊く。


こーゆーところが、モテ男と非モテ女の違いなんだろうなぁ。


「別に。」


それだけ言って私は寝室に戻って行った。


ちょっと無愛想だったかな?


でもね。この先の展開も知ってるし、そのための準備をしておかないとでしょ?


まぁ、理由とかは別にしてもこの町で起こる出来事は、物語的にはまだマシかなー。


部屋の窓から外を見ると、私が想像して描いた時以上に綺麗な景色が広がっていた。


2階だからそんなに高くはないんだけど、この町に高い建物がないからか、遠くまで見渡せる。


港の灯台や色んな灯かりがまるでライトアップのように美しい。


レンガ造りの家々から漏れるオレンジ色の灯かりもとっても幻想的。


イルミネーションとか夜景とかライトアップなんて見たことのない私だけど、この町の夜景はとっても綺麗だった。


生きて元の世界に還れるか分からないけど、もしも生きて還ることができたなら、どこかの夜景に見に行ってみようかな?



ゴゴゴゴゴゴ。


静まった港のある町を轟音が襲う。


やっぱり来たか。


最初に感じたのは大きな縦揺れ。


地震かと間違ったけど、窓の外を見て地震とは違うことに気づいた。


確か私が書いたラノベではそんな感じで表現していたはず。


うん。そのまんまだね。


でもね、地震じゃないんだよね。


「ドラゴンだぁー!」


町の人々の叫び声が部屋まで聞こえる。


そうなんだよね。


理由は分からないけど、この町にもドラゴンが襲ってくるんだよね。


で、勇者が倒すけどドラゴンのブレスで船が焼けちゃって、仕方なく陸路を選ぶって展開なんだよね。


「さてと、行きますか。」


おっと、うっかり独り言が出てしまった。


1人が多いと寂しさからか、たまに独り言とか出るよね?これ、共感してくれる人いないかなぁ?


ってそんなことはどうでもいいか。


まずは準備していた魔法の杖!何でか私の小説ではここから勇者は魔法の杖を使ってるからね。だから私も町の道具やで買っておいた。


「勇者殿はすでに魔法が使えるのでは?」


とか武器屋のおっちゃんに言われたけど、しょうがない。私の小説ではこれから先勇者は杖を使って魔法を放つんだから。


たぶん、普通はそのまんまじゃ魔法を放てないから、媒介として杖を使うとかそんなんなんだろうね。


「みんなは逃げて!」


かっこよく私が言う。


だって、そう言うセリフがあるもん。


「「アヤメ!」」


カラアゲさんとナポリタンが同時に叫ぶけど私は、大丈夫。と一言。


「自分が描いたやつだけどさぁー。こんな綺麗な景色を消すのはないんじゃないかな?」


私の本心だった。


生まれて初めての夜景を消されるのは気分のいいものではなかった。


そのままいつもみたいに消えろ!と叫ぶとドラゴンは消滅した。


でもやっぱり私が描いたラノベの通り、私が向かうまでの間に暴れたドラゴンのせいで、船は炎上。


仕方なしに私たちは歩いて、山を超えて山の向こうの都市を目指すことになった。


この道中でまた騒動があるんだよなぁ。


憂鬱な気持ちで私は、港のある町を後にした。

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