甘党大将彼女は酒豪
@sakuraharu2021
第1話
ゴルゴは名前に似つかわず繊細な男だ。漆黒の太眉が凛々しい。人参を千切りする規則正しいリズム感。トトトトトトトン トン トン トトトト。何とかヘルツが出ているに違いない。ずっと聴いていたい、とエミリーは思う。
ミシュラン三ツ星の高級寿司屋に修行してはや10年、彼は自宅で遅めの夕飯を作っている。好きなものを作って好きなだけ食べれる至福の時間だ。
隣りでは卵を次々と割る若い女がいる。黄身を泡立て器で混ぜ、2リットルの牛乳を重そうに注いでいる。
「塩?」
うるうるのグレーの瞳でゴルゴの指示を仰ぐ。レースの立襟ブラウス、袖口には黒いリボン。
「エミリー、ボケんのやめ。砂糖50グラム」
アハっと自虐気味に笑う金髪美女を無視し、
「ちゃんとすり切りでね」
「はぁい」
指示出しと作業に余念がないゴルゴとは裏腹に、彼女は鼻歌で卵液を電子レンジへ。
「爆発しないかにゃ?」
エミリーはわざとらしく睫毛をはためかせる。まつ毛パーマかけたの気付けってば!
時計は21時を回った。
テーブルにはズラリと日本酒の瓶、遅め夕食のいつもの光景だ。
ゴルゴはスルメの干物を炙っている。
「エミリー、マヨだして」
「はぁい、後コレね」
ピンクネイルで挟まれた七味唐辛子の
小瓶を見て、ゴルゴはフフッ。。と笑った。
「楽しみが過ぎるぜ。。」
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