72.自分との約束。

「俺、勝つよ」


 不安や恐れ、迷いが無くなった拓也に、最終戦で初めて『勝利への道筋』が浮かんだ。

 再度戦況を整理。敵味方すべてのパテを頭に叩き込み、それぞれがどう動けば良いか最適解を導き出す。



(こんなに浮かんでくるもんなのか!?)


 状況の整理中にもかかわらず次々と浮かぶ采配。拓也は『デスコ』のアカウントをオンラインにすると、皆に向かって書き込んだ。



『これから一気に指示を出します。ごめんなさい、みんな。受けて下さい!!!』


 突然の団長からの強烈なメッセージ。

 その心意気を汲んだ団員達から書き込みが続く。



『待ってましたよ、団長!!』

『了解!! どんどん指示くれ!!』

『うちの力、見せたりましょ!!』


 拓也はみんなの言葉に頷きながら素早く的確に指示を出し始めた。





(くっ、拓也が動いたか!?)


『竜神団』で一番最初にその異変に気付いたのは無論スパイを送り込んでいる龍二ジリュウ。戸惑うことなく一気に指示を出す拓也に一瞬唖然とする。そして軍師である嵐もその異変をすぐに感じた。



(動いて来たな)


 そして怒涛の攻撃を見せる『ピカピカ団』。多くの団員達が水を待ち望んだ魚のように生き生きと拓也の指示を受け攻撃を行う。



(な、なんだ、この攻撃は!!)


 アッシですら予想もできなかった敵の速攻。役職もあっと言う間に見つけられ、大量リードしていたはずの戦況が一気に変わる。

 焦り始めるアッシ。しかしそれ以上に焦り出した龍二ジリュウが無断攻撃に出た。



『俺が大将の首とってやる!!!』


 リアルでは父の事情もあり何ひとつ拓也にできない。

 SNSも美穂に激怒されもう書き込みができない。


 八方塞がりだった龍二。せめて、せめてこの『ワンセカ』だけでも奴に勝ちたかった。龍二ジリュウはスマホの敵大将拓也タクに触れ、攻撃ボタンを押した。



「ダメ!! それやっちゃ!!!」


 その書き込みを見たアッシがひとり叫んだ。

 大将同士の一騎打ちに盛り上がる両『デスコ』の面々。『ピカピカ団』団長拓也が気合いを入れる。



(大将同士の一騎討ち!! 俺がこれに勝って勝負をつける!!!)



 拓也と龍二のパテが画面上で対峙する。

 先手は素早さで勝る拓也。連続攻撃ができるよう計算されたパテは、キャラ性能と課金だけで勝ってきた龍二のパテを初手から飲み込んだ。


 勝負はあっと言う間についた。



(負けた、また負けた。この俺が……、どうして、どうして勝てないんだ……)


 あっと言う間に蹴散らされる龍二のパテ。拓也のキャラをひとりも落とすことができない程の惨敗であった。

 拓也のキャラの前に、無様に倒れる龍二のキャラ達。龍二はスマホを見つめながらひとり涙を流す。そして思った。


(結局、一度も勝てなかった。拓也あいつに……、くそっくそっ、くそ……)



 大将の敗北。スパイに副団長抜きというアドバンテージがありながらも、神軍師と呼ばれた拓也の猛攻の前に『竜神団』は逆転を許す。

 そして午後11時過ぎ、指示を出しても全く動かなかった『どらごん』の行動を待たずに『ピカピカ団』の二連覇が決まった。






(あ、涼風さんからだ)


 連覇が決まり喜ぶ『ピカピカ団』の掲示板。その喜びをみんなと分かち合っていた拓也のスマホに、美穂からのメッセージが届いた。



『さっきね、手術が終わって眠ってた弟がやっと起きたよ。術後の経過も良好だよ!!』


 美穂は拓也に感謝し、そして『ピカピカ団』の連覇を祝う言葉を送った。そして最後に書き込む。



『私、何もできなくてごめんね』


 拓也はひとり首を横に何度も振りながら感謝の意を込めて書き込む。



『涼風さんが一緒に居てくれたから勝てたんだよ』



(一緒に……?)


 拓也のメッセージを受け取った美穂はその言葉を見て少し考えたが、良くその意味が理解できなかった。






(ああ、負けた。また負けた!! くそっ、くそっ、無能な奴らめ!!!!)


 再び最終戦で拓也に敗れた龍二。

 その怒りで自分を制御できないまま、掲示板に罵詈雑言を書き込む。



(はあ、また始まった。今度こそ、ここ出よう)


 嵐は前回同様、敗北し自我を無くす団長を見てため息をついた。今回はあまりの悪態にフォローしてくれていた団員からも無反応が続く。


 しかし怒りのコメントを発していた団長ジリュウの書き込みが、ある時点から全くなくなった。龍二は自分宛てに送られてきたメッセージを見て青ざめていた。



【不正行為によるアカウント停止について】


 運営から送られてきた一通のメッセージ。

 その内容は禁止されているアカウントの売買を行ったこと。また登録情報から本アカのプレイヤーが同一人物と断定。

 更に規約で禁止されているアビューズ行為(相手を不利にさせるゲーム内スパイ等)も行ったことで、関連する両アカウントの停止を行うと言うものであった。


 更に時を同じくしてSNS運営会社からも、根拠のない誹謗中傷を行ったとしてこちらも警告と共にアカウント停止を告げるメールが届いていた。



「うそだろ……」


 椅子に座ったまま動けなくなる龍二。

『デスコ』では全く反応が無くなった団長を心配する声もあったが、ほとんどの団員からは無視されたままであった。



(終わった。俺の『ワンセカ』、あれだけ大金をかけたのに……)


 私生活では父親の件もあり拓也に頭が上がらない。

 自分の女だと思っていた美穂には無視し続けられる。

 大金をかけ強豪ギルドへと育てたスマホゲームももうできない。

 SNSも止められ、その信頼も失った……


 どこで歯車が狂ったのか。

 龍二はその答えが見つからないまま、PCに表示されたメールの文字列を見つめていた。



 翌日以降、『ワンセカ民』の間でジリュウの垢BANの情報が流れ、『竜神団』そして団長龍二ジリュウは本当の意味での活動を終えることとなった。





『みんなおめでとう!!!!』

『二連覇、快挙達成!!』

『団長、サイコーー!!!』


 翌日になっても『デスコ』には二連覇を祝福するコメントで溢れた。美穂やヨッシーも自分のSNSで大会二連覇を感謝する言葉を書き込む。

 団長の拓也は皆の言葉にひとつひとつ感謝のコメントを書きながら自分自身に向かって言った。



(ついに来ちゃったな、この時が)


 自分自身に課せた使命。

『ギルド大戦争』二連覇と言う前人未到の偉業を遂げることができたら、美穂に自分の想いを告げる。

 もう逃げない、逃げたくない。拓也はそのことを考えて身震いした。

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