第六章「目標に向かって」
45.体育祭、開催!!
(やはり奴等の『デスコ』でも一般掲示板ではなかなか情報は得られないな……)
『竜神団』団長ジリュウこと足立龍二は、自宅のPCの前に映し出された『デスコ』の掲示板を見て思った。
『ピカピカ団』の団長と副団長が拓也と美穂だと気付いた龍二は、すぐにサブ垢を作り入団させ内情を探る。そこまでは良かったが、今のところ大した情報はない。
(やはり、あの役職部屋で色々と話をしているのか、くそっ!!)
龍二は幹部、と言ってもそれは団長と副団長のふたりだけしかいないのだが、そのふたりだけの部屋で交わされている会話を想像し机を叩いて悔しがる。
一方で、龍二は新しく作成したSNSのアカウントを開き、そして『ピカピカ団』団長タクについての
『ピカピカ団の団長のタクって人、なんか裏垢作って団員の悪口書き込んでいるみたい』
『タクって団長、オフ会とかやって団員の女の子を襲ったって噂だよ』
まだ無名のSNSアカウント。
しかし多くのフォロワー数を誇る『ジリュウ』がリツイートしたことで、あっと言う間にその噂は広まって行った。
(垢の購入、SNSでの誹謗中傷。ちょっとリスクはある事だが、あいつを潰すためなら俺はどんな手段だって選ぶ!!)
龍二はひとりPCの前で静かに笑った。
『団長、気にしなくていいですよ』
『あんなのデマだって、みんな知ってますから』
SNSに広がっているタクの誹謗中傷を心配して、『ピカピカ団』の団員達が優しい言葉を掛ける。
『ありがとう、みんな。本当にどうしてこんなことになったのか……』
拓也は悲しみを込めて掲示板に書き込む。
『団長は何もしてませんよ。逆にみんなすごく助けられたんだから!』
オフ会に参加した女性団員のマキマキが書き込む。
『私も女性ですが、団長はとても紳士でしたよ!!』
同じくオフ会に参加した副団長のミホンも書き込む。それからオフ会に参加したメンバーが次々と拓也を擁護する言葉を書き込んでいく。
『ありがとう、みんな。みんなが団員でいてくれて本当に嬉しい』
そう書き込んだ拓也に暖かい団員からの言葉が続く。
(ふん、下民共が!!)
ただ新団員である『どらごん』だけは、ひとり無言を貫いた。
「はあ、はあ……」
梅雨入りしてから久し振りの快晴。
拓也は日課になっている早朝ジョギングを終えると、一気に水筒の水を飲み干した。
(ああ、気持ちいい朝だ。走るのもなんだか楽しくなって来たし)
実際、走れば走るほど同じことをしていても疲れを感じにくくなり、余裕を持って走られることに気付いた。
そして何よりも自分自身に課した大きな目標、『ギルド大戦争の二連覇』を目指して真剣に動き出している。
(自分で分かっていて分からない振りをしていた。でも今は違う。俺は前に進むことを決めたんだ)
玲子の時のように見えない何かに怖がって後ろを向くことはもうしたくない。初めて、生まれて初めてと言っていい、女性に対してこんな気持ちになったのは。自分に勝つ為、前を向いて全力で走る!!
拓也は大きく手を空に伸ばしてから、自宅マンションへと戻って行った。
「団長っ、今日は晴れてよかったですね!!」
「あ、ああ、そうだな」
体育祭当日。梅雨の晴れ間となった今日は、朝から強い日差しが降り注いでいる。体育祭の開始を待つ全校生徒が校庭に集まり、雑談しながらその開始を待っている。
(か、可愛いな。マキマキさん……)
拓也はあまりちゃんと見たことがなかったマキマキの体操服姿を何度もチラ見する。
ふんわり柔らかそうな肩までの髪に、白い肌。そして半袖とショートパンツという学校のダサい服が、却っていやらしく見せている。
「あれ~、団長。なにを見てるんですか~?」
拓也の視線に気付いたマキマキがちょっと嬉しそうに言う。そして慌てて視線を逸らした拓也の耳に、その聞き慣れた声が入って来た。
「おっは~、木下君っ!!」
「す、涼風さん」
そこには珍しく髪を後ろで結んだ美穂が立っていた。
「あ、ミホンさん、おはようございます」
マキマキが丁寧に挨拶をする。美穂も笑顔で答える。
「おはよう、マキマキ」
挨拶をした美穂を拓也が見つめる。
もちろんマキマキと同じ学校の体操服を着ているのだが背の低いマキマキとは違い、すらっと伸びた長い足に大きく出た胸。現役の読モと普通の女子高生の違いが如実にそこに表れている。
少しの沈黙の後、何か空気が変わったことに気付いた拓也がふたりに言う。
「そ、そう言えば、ふたりとも『仮装大賞』に出るんだよね。た、楽しみだな」
「え!?」
マキマキが驚いた顔で拓也を見つめる。マキマキは拓也にコスの相談はしたものの、クラスも違うふたりがお互い『仮装大賞』に出場することを話すことはしない。
「勝負だね、マキマキ」
「ミホンさんも出場するのか、ええ、それなら仕方ない……」
(え? なになに? なんか俺、変なこと言ったのか!?)
更に悪化した空気に気付いた拓也が焦り動揺する。
「はーい、みなさん、自分の列の戻ってくださーい!!」
その時、体育祭の準備が整った実行委員からのアナウンスが校庭に響いた。
「じゃあね、マキマキ」
「はい、ミホンさん。また」
美穂がマキマキと拓也に手を上げて自分のクラスへと帰って行く。
背も高くスタイルもいい美穂。どんな服を着ていても似合ってしまうほどの美少女。周りから降り注がれる視線を全く気にもせず歩いて行く。
マキマキはそんな美穂をずっと見ていた拓也に気付き、ちょっとだけむっとした顔で列に並んだ。
「よーい、ドン!!」
「きゃははっ、行け、行けっ!!!」
「うっそー、マジで!!??」
体育祭が始まり皆が競技種目のひとつひとつに一喜一憂している。
クラスの出し物では普段あまり会話のないクラスメート同士が練習を通じて仲良くなったり、人気種目のリレーでは予選でありながら生徒の熱気は空に輝く太陽よりも熱く感じるほどであった。
(なんでこんなに盛り上がっているんだろう……)
拓也はクラス応援席に座りながら、この体育祭の盛り上がりがいまいち理解できなかった。
最近ジョギングをしてその楽しさに気付き始めた拓也だったが、やはり大勢で楽しく行うこういったイベントには一歩引いてしまう。
「では次の競技、郊外マラソンに出場の生徒は集合場所に……」
そんな拓也の耳にマラソンが間もなく開始されるアナウンスが入る。立ち上がって準備をする拓也にマキマキが声を掛ける。
「団長、頑張って来てくださいね!!」
「あ、ああ」
マキマキが言う。
「これが終わればマキマキのコスプレショーですから、お楽しみに!!」
「うぐっ、う、うん……」
一瞬マキマキのナース姿を思い浮かべ、どきっとする拓也。それを隠すように軽くマキマキに手を上げて集合場所へと向かう。
(ここか、集合場所は……)
マラソン出場者の集合場所である学校正門近くにやって来た拓也。その拓也の前にひとりの男が仁王立ちした。
(え、足立!?)
それは昨年同じクラスで、美穂と一緒に居た陽キャである足立龍二。
すらっとした高身長のお金持ちのイケメン。そして拓也に嫌がらせをしていた男でもあった。龍二が言う。
「なんだ、木下。お前も出るのか? くくくっ、まあ、せいぜい頑張れよ」
「ああ……」
龍二は完全に見下した目をして笑いながらその場を去って行った。運動もできない陰キャが俺に勝てるはずがない、と言った目つきである。
昨年までならこのまま適当にやり過ごそうと思っていただろう。だが今は違う。
(精一杯頑張ろう。前に進むために!!)
拓也はここからでは見えない応援席に座る美少女の姿を思い浮かべてこぶしに力を入れた。
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