第10話

「わたくしがアクア様を虐めている?」


グランディエライト様の口から語られたのは、思わず「はぁ??」と言いたくなるような内容だった。

むしろ「虐めているぅ⤴??」と語尾の上がらなかったわたくしを褒めて欲しいわ。アレクもとんと美しくない顔をしているじゃない。


「実は……」


グランディエライト様のお話はこうだ。


アクア様曰く。

あの教室の事件(第1話参照)以来、わたくしに冷たく当たられている。

そして聞こえるように言われる陰口。

挙句の果てに、わたくしの取り巻きもそれに習い、その1人には階段から突き落とされそうにもなったという。


「まさかとは思いますけれど、貴方方はそれを信じなさったの?」

「まさか。ラピス様はそんなまどろっこしい事をするくらいなら、あの時のように正面からバッサリとお切りになるでしょう」


あらよかった。皆様がそんな妄言を信じ込むような方々だったらどうしようかと思ったわ。

ジーク様はその場合、とりあえず婚約破棄をしなきゃいけなかったもの。余計な労力を使う必要がなさそうで安心したわ。


「もちろん、僕達も彼女の言葉を信じてはいません。けれど、涙ながらに訴えるレディの言葉を『ありえない』と一掃するのは、紳士の行いじゃありませんから」

「そうですわね」


うんうん。と頷き相槌を打つ。


「ええ。なので、失礼とは思いましたが、ラピス様へお尋ねしようと……」

「そうでしたの……わざわざありがとうございます、グランディエライト様」


こんな嫌われ役、彼だって聞きに来るのは嫌でしたでしょうに。

しかも、わたくしが不快な思いをしないようにと、わざわざこんな素敵なお茶会をセッティングしてくださる気遣いまで忘れないなんて。紳士の鑑よ、まさしく。


というか、取り巻きって何かしら。

わたくしそんなもの得た記憶はないのだけれど。アクア様には何か見えてらっしゃるのかしら。なにそれ怖い。


「もちろん、わたくしはそのような事、しておりませんわ」

「そうですよね、よかった……」

「ええ、だって、虐めというのは『相手に対して僻んでいる、羨んでいる』から行う行為でしょう?」


もちろん、『私』の生きていた現代社会ではただ単純に「気に入らないから」「嫌いだから」という理由の虐めも存在した。

けれど、今『わたくし』が生きるこの世界──特に淑女の間での虐めとなれば、理由は『妬み僻み』。その一言に尽きる。


……ゲームのユリアが、そうであったように。


だが。

それは『ゲームの』ユリアの話。



「わたくしが彼女に対して劣っているところなんて、ひとつもないでしょうに」



アクア様ったら、何故そのような事を仰るのかしら。

小首を傾げながら呟いた心からの一言に、何故かグランディエライト様の頬が引きつったのはきっと気の所為ね。


こくりとカップを傾けるわたくしに、後ろのアレクの盛大なため息が聞こえた。

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