第8話
「許すと言っても、やっぱり気分は良くないのよね」
タンタンタン
「そうでしょうね」
タンタンタンタン
「ええ、だって理由は理解出来ても、辱められた事には変わりないもの」
タンタンタンタンタン
「仰る通りです」
タンタンタンタンタンタン
「ええ、ジーク様ってば本当に、ほんっっとーーに!そういう女心に疎いのよね!!」
タタタタタタタタタタタ!!!
「………お嬢様、何回飛んだか数えれません」
どうか落ち着いて頂きたい。
アレクの呆れたような、同情するような窘めに、わたくしは力の限り回していた縄跳びをピタッと止めた。
………最近、エクササイズがストレス発散になっている気がするわ。いいのかしら。
リンゴーン、と鐘の音が響く昼休み。
今日も今日とて、彼女はイケメンを侍らせている。
そして、それを窓から見つめるわたくしの顔は、とても美しくないものだろう。
いやだわ、ユリアにそんな顔をさせるなんて。
ぶっすーーーという効果音が着きそうな程にぶくすれていただろう自分の頬をむにむにと揉んでいると、後ろに控えるアレクから大きな咳払いが聞こえた。
あら、ごめんあそばせ。
いくら好きにすればいいと思っていたって、自分の婚約者が取り巻きの1人で、しかも今後も続くとなれば不機嫌にくらいなるってものじゃない?
これくらいは許してちょうだいな。
「彼女、自分の評価に関心がないのかしら……?」
「恐らく、彼らからの評価にしか、関心がないのかと」
「……理解出来ないわ」
ここで彼女を取り巻く攻略対象達の説明を軽くしておこうかしら。
まず、アクア様の隣で静かに見守っているジーク様は割愛ね。
そして、彼女の反対隣にいるのはひとつ下の学年である、エリオット=グランディエライト様。
甲斐甲斐しく彼女の世話をする彼は、学園の温室で花の世話をするのが趣味という、温和な青年だ。茶色の髪は肩にかからない程度の短髪で、昼の海を切り取ったかのような透き通った水色の瞳はとても美しい。
ちなみに、大臣様の1人息子様である。
そして、少しだけ離れた木に寄りかかって目を閉じているのが、アクア様、そしてわたくしとも同じクラスの風雲児、レイ=オニキス様。
サラリとした燃えるような赤髪は襟足が長く、黒曜のような漆黒の瞳は冬の夜空のよう。
着崩した制服から溢れ出る色気は大変淑女の心臓に悪くてよ。素晴らしいわ。
この方は男爵家の三男坊とか。
今、彼女のそばにいる攻略対象はこの3人。
数こそ少ないけれど、どの殿方も学園、学年の華と呼ばれる方々。と、なれば、他のお嬢様達から羨望や嫉妬を向けられても仕方ないことでしょうね。
そして、そこにいない攻略対象が──……
「お、ラピス。ここにいたか」
「あら、アンデシン先生。わたくしをお探しでしたの?」
「ああ、このノートラピスのだろう?提出物に混ざってたから返しに来たんだ」
「まあ、ありがとうございます。探していたんですの」
「悪い悪い」と砕けた口調で笑っていらっしゃる、クロード=アンデシン先生その人である。
短めのオレンジの短髪に、ザクロのような深い赤の瞳。切れ長でつり目なのだけれど、いつもからりと笑っていらっしゃるせいかキツめの印象は全く受けない。
まだ歳若いお方だけれど、何を隠そうこのルディア学園初の庶民特待生だったというだけありとても優秀な先生である。
「お、あいつらまたあそこで昼飯とってるのか。仲良いなー」
わたくしの席が窓際ということもあり、自然とアンデシン先生の目にも彼女達が映ったのだろう。
窓から顔をだし、楽しそうに眺めていらっしゃる。
「………上手くやれてるみたいで、よかったよ」
そして、その瞳は安堵と慈愛に溢れていて──……
「まあ、もう少し貴族のマナーは知った方がいいけどなー」
苦笑と共に告げられた一言に、デスヨネ、なんて言いそうになったわたくしは悪くないと思うの。
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