第7話

ところで。


「許しはしましたが、そのような無礼を働いたアクア様とその後も親しくされていらっしゃるのはどうしてですの?」


正直、これが一番疑問だった。

ジーク様は、とても聡明な方だ。女性に優しく突き放せない多少ヘタレな所もあるが、それでも王家のものとして線引きはしっかりと心得ている。

そのような方が、何故あのようなマナー違反を堂々と続ける彼女と交友を続けているのか。


ぶっちゃけていいのなら「趣味が悪くてよ」の一言である。


「それは………」

「まさか、彼女のことを好いておいで?」

「そっ、そんなわけないだろう!君と言うものがありながら!」

「でしたら、言い淀む必要は?」

「……君ならば、直ぐに耳に入るか。──アクア嬢は、我が国の『乙女』である可能性が高い」

「!! 」


──乙女。

それは、この世界においては淑女のことを指すのではない。


この世界では、それぞれの国で、ひとりの女神様を祀っている。

我が国、聖ルナティア王国では月の女神ルーナ様を。隣国の聖サンタリア王国では、太陽の女神サリア様を。

各国でひとりの女神様を祀り、敬い、そしてその女神様からの加護を受け国は発展する。


そして、その女神様からの寵愛を受け、女神様の使いと言われているのが──『乙女』である。


乙女はそれぞれの国の女神になぞらえ、『太陽の乙女』『風の乙女』等呼ばれている。

我がルナティア王国の場合は月の女神様だから、『月の乙女』というところね。


そして、ここまで説明すれば分かるだろう。

乙女ゲームのタイトル通り、ヒロインアクアがお察しの通りこの国の『乙女』なのである。


「理解しましたわ。確かに、乙女様の存在は重要ですものね」


口元を扇で隠しながら、小さく頷く。

なるほど、これで合点がいった。


ゲームをしている時も不思議だったのよね。

確かに容姿端麗で成績優秀とはいえ、ただの特待生であるアクアに興味を抱く攻略対象達の言動が。


ヒロインパワーとかご都合主義と言われてしまえばどうしようもないのだけれど、この世界は『乙女ゲーム』ではない。

きちんとみんなが意志を持ち、1人の人間として今まで成長し、生きている。


だから、『わたくしの知るジーク様』が、彼女と交友を持ち続けているのがとても理解出来なかったのだ。


「先代の乙女が亡くなり、半年あまりになるだろう。乙女の長期の不在は、我が国に災いをもたらす。彼女が本当に乙女だった場合、警護と保護が必要になるからな」


ふう、とため息をつくジーク様は、今のところ彼女に惹かれている、という訳ではなさそうだ。

……ちょっと安心。


乙女の出現は、国の預言者(我が国は齢100歳を超えるババ様である。次代のお孫様がいらっしゃるけど、生涯現役と言って聞かないのよね)が予知を告げるため、王子であるジーク様やお偉方の縁者である他の攻略対象達が知っていても可笑しくない。

ヒロインが乙女として覚醒するのはもっと後半だったから、ずっと疑問だったのよね。これでスッキリしたわ。


「……父にも、彼女と親しくするように言われている。君に不名誉な事は今後しないようにするが、……すまない」


自分の中で状況を咀嚼しているわたくしを、きっと心を痛めていると勘違いなさったのね。

ジーク様がわたくしの手をとり、真剣な顔で謝罪を告げてきた。

……もう、だから顔がいいのよ。困るわほんとに。


「そうね、そうしたら今度はもっと高価なものをお強請りしますわ」

「……なるべく手に入りやすいもので頼む」


にこりと微笑むわたくしに、ジーク様も安心したかのように、小さく笑った。

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