第4話

「ご機嫌よう、ラピス様」

「ご機嫌よう、ユリア様!」

「みなさま、ご機嫌よう。今日も良いお天気ですわね」


にこりと小さく、柔らかな笑みを浮かべ膝を折る。それだけで挨拶をした生徒達はきゃあ!と黄色い声を上げてくれるのだから大変に心地が良い。


そうでしょうそうでしょう。

わたくしが作り上げたユリアは美しいでしょう!!


鼻歌でも歌いそうなわたくしの背中に、アレクの呆れ返った視線が突き刺さった。




「彼女、相変わらずのようですね」

「そうね、あとはわたくし、知らないわ」


ゴーン、と重厚な鐘の音が知らせる昼休み。わたくしとアレクは、教室に残り、中庭の様子を眺めていた。

その視線の先にいるのは、多数のイケメンに囲まれるひとりの美少女──アクア=パール。所謂『ヒロイン』だ。


そして彼女こそが、冒頭でわたくしが「美しくないものは嫌いなの」と切り捨てた存在でもある。


「彼女が美しくないとは、貴女の審美眼には恐れ入ります」

「あら、嫌味?美しさとは外見だけじゃないわ。中身も大事なのよ?」


にまっと笑えば、「彼女へ対する嫌味です」とサラリと返された。あらそう。分かってるじゃない。


中庭でお昼ご飯を頂いてるのでしょう、彼女達の笑い声は、2階のここまで届いてくる。

そして、それに被さるように聞こえてくるウワサ話。


──あの特待生、ダイア様達をまた侍らせてるわ

──この間の学園の夜会で、何人もの殿方と踊ったとか

──中には婚約者のいらっしゃる方もいたのだろう?

──まあ、はしたない……


それはどれも、彼女へ対する良い感情のものでは無い。

それも当然だ。この国で夜会や舞踏会では、複数の殿方と何度も踊るのはタブーとされている。ましてや婚約者のいらっしゃる方と、なんてもってのほかだ。それは相手方の婚約者の方への侮辱へと繋がる行為となる。


ここ、ルディア学園は国有数の名門校だ。

そして、特待生制度を導入している学園でもある。

故に学園主催の夜会や舞踏会で、庶民の出の特待生が恥をかかぬよう、きちんとマナー講座も設けているし、彼女も知っているはず。

なのだけれど……。


それを我がもの顔で平然とやってのける彼女……あのアクア様が、わたくしには『美しい』とは到底思えなかったのだ。


「彼女は確かに庶民の出かもしれないわ。けれど、ここに入学したのであれば、そのようなしきたりやマナーを身につけるのが淑女のたしなみよ」

「仰る通りで」

「それを注意してくださった優しい方々に対して『咎められた』と殿方に泣きつくのも言語道断だわ」

「貴女の嫌いなタイプですね」

「ええ、だからわたくし、あの方のことはあと知りませんの」


どうぞお好きになさればよいのよ。


吐き捨てるように呟いた言葉は、自分が思った以上の冷たさを孕んでいた。



──恐らく、あの『アクア様』も、わたくしと同じ……異世界転生した方なのでしょうね。

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