第二十三章 戦いの序章

ワイ達は、山脈を越えてみかん町へ戻った。


チラコンチネ達異種族達は、町の外で野営して待機してもらった。


ワイは若干の不信感を抱きながらカルドン達の元へ向かった。


「タロー。カルドン達はタローに魔族を倒してもらうために仲間になったのか?」


やはりダリアもそう思うか。


「正直、俺にも分からない。けど、確かにカルドンやグラジオラスたちは、俺を見ると魔族を滅ぼす者という風に言っていた。それって俺のことをそういう風に見ていたってことだろ?仲間だと思ってたのが俺だけだったなんて正直悲しいよな。」


首を横に振りながらワイが言う。


目の前からカルドン達がやって来る。


「おおーい。」


手を振っている。


ヤバい。どんな表情をすればいいんだろ?


「タロー。ダリア笑えそうにないのだ…」


ワイの背中に隠れながらダリアが情けない声を出す。


そうだよな。ダリアも同じだよな。


どういう顔すればいいのか分からないまま、カルドン達かつての仲間たちがワイとダリアの元へやって来ようとしていた。



『…ほう?この町に勇者がいるという噂は本当だったのか…』


太郎がみかん町にやって来たところを丁度影から見ていた者がいた。


<神の軍勢>幹部、<性欲>のスクリュードライバーだ。


『人族のやつらと勇者にもここらでひとつ、釘を刺しておくか…』


スクリュードライバーの隣に<真理>のキティと<妄語>のオペレーターがやって来た。


「あれが勇者?戦闘になったら勇者以外は倒していいってさ。」


キティがスクリュードライバーに言う。


「我の力を使えば容易かろう。」


オペレーターが片手の指をボキボキ鳴らしながら言う。


「俺様1人でも十分だがカリモーチョがやられたらしいからな。油断しないこしたことはないな。」


スクリュードライバーが頷いた。


3人が勇者太郎へ向かって走り出した。



こちらへやって来るカルドンの姿が徐々に大きくなる。


カルドンを押しのけてローゼルがひょこっと顔を出した。


にっこり笑顔だ。


ローゼル、カルドンの後ろにはグラジオラスとヒゴタイがいる。


懐かしい面々だ。


彼らに不信感を抱いているワイだが、笑顔が自然とこぼれるのを感じる。


「タロー!ダリアは自分で自分が分からなくなってきたのだ。カルドン達に対して笑えないと思っていたのに、今は不思議と笑顔が出てくるのだ。どうすればいいのだ?」


分かる!よぉ~く分かるよ!


「あぁ。俺も――」


同じ気持ちだと言おうとした時に、空気が揺れた。


ぐわんとした感覚が脳内に流れてくる。


めまいのような立ち眩みのような感覚だ。


「何なのだ?」


ダリアも同じ感覚を受けたようだ。


前を見るとカルドン達も片膝をついていた。


みんな同じ感覚を受けた?攻撃か?


キョロキョロと辺りを見回すが、これといって敵らしい敵は見当たらない。


「タロー、今のは一体?」


よろよろと立ち上がりながらダリアがワイに聞くが、ワイにも分からない。


「ヒハハ。私の力だよ!」


背の低い女の子が後ろから声をかけてきた。


笑いながらこちらにやって来る。


「離れろ!太郎!」


カルドンがよろよろと立ち上がりながらワイに言う。


ワイとダリアは今、カルドン達と謎の少女に挟まれた状況だ。


油断した。


今回はカルドン達が謎の少女と仲間じゃないから良かったけど、敵に挟み撃ちにあってたら大変だったな。


「何者だ?あんた。」


大方の予想はつく。


「私は<神の軍勢>幹部、<真理>のキティ。視覚や記憶を共有する力を持っているよ。前に<神の村>の情報を君に共有したのが私の力。今はめまいの情報を共有してあげたの。どう?楽しめた?」


ヒハハと笑いながらキティと名乗った少女が言う。


「くそっ!<神の軍勢>は本当にいたのか!」


カルドンが悔しそうに言う。


「勇者の仲間か。」


大男が少女の後ろからやって来た。


「我は<妄語>のオペレーター。勇者の仲間の人族ならば我らの指令を知っているはずだな?」


ギロリとオペレーターがカルドンを睨む。


「念のために言っておくが、俺様たちに勝とうなんて思わないことだ。俺様は<性欲>のスクリュードライバー。俺様達の言うことを聞いてもらおうか。」


やや小ぶりだが筋骨隆々の男が凄みを利かせる。


「神の指令って、魔族を滅ぼせってやつか?」


ワイがオペレーターに訊くと、オペレーターは黙って頷いた。


視線はカルドンに向けたままだ。


「えっとさ、それなら俺に直接言えばいいじゃん?なんで他の人を巻き込むのさ。それに俺の仲間を殺したのもあんたら神だろ?」


訳も分からずワイが訊くと、スクリュードライバーが答えてくれた。


「勇者には知らされていない真実というものがある。人族は俺様達神の奴隷だ。」


そう前置きをしたところでカルドンが遮った。


「ちょっと待て!」


焦るカルドンを見てキティがヒハハと笑った。


「いいよいいよ人間~。足掻いて足掻いて苦しみなよー。」


「太郎。俺達は勇者が魔族を滅ぼす存在であると聞かされて育った。それと同時に勇者が人族の願いを成就させる存在だとも聞かされた。」


カルドンが真面目な顔でワイに言う。


「願い?」


「神殺しだ…」


すまない!とカルドンが頭を下げる。


「ウチらは、勇者が神を殺すことで、どんな呪いを受けるか知らない。でもそういった罰当たりなことを全部勇者に押しつけようとしてたんだ…」


ローゼルも頭を下げてきた。


「全ては自分達が助かるために…神から解放されるために…」


ヒゴタイも同様に頭を下げる。


「へー。あっさり白状するんだ?何で?」


つまらなそうにキティがカルドンに訊く。


「俺達は、勇者ではなく、太郎の仲間になる!人族とかそういうのではなく、1人の友人として太郎を助けたいんだ!」


「ごめんね勇者。知ってたのに黙っててでもあんたに神殺しの報いなんて受けさせないから。」


ローゼルがぎゅっと手を握ってくる。


久しぶりの感覚に胸が跳ねる。


あ!とかダリアが言っているが、それどころの状況ではなかった。


「それってさ、つまり私たちに逆らうってことぉー?」


にやにやしながらキティがカルドンに訊いている。


「当然だ!俺達は太郎の仲間だ!<神の軍勢>を倒す!」


カルドンが叫ぶ。


嬉しすぎる。


ワイはやっぱりカルドン達を信用して良かったんだ。


さっき心の底から浮かび上がってきた笑顔の感情。


あの感情は正しかったんだ。


嬉しくなってカルドンの方を見たと同時にダリアが叫んだ。


「タロー!」


カルドンが死んでいた。


カルドンだけじゃない。グラジオラスもヒゴタイもローゼルも死んでいた。


「ヒハハ!」


キティが高笑いする。


片手で顔を覆い、指の隙間からこちらを見て笑いながら話す。


「人族はみんな死んだ。私達の仲間の呪いの力によってね。」


何だと?


ザワッとした感情が心の奥底から湧き上がって来る。


<猫の里>で言われた、嫌な空気が世界を覆っているというのが呪いだったのか。


今まで苦楽を共にしてきた仲間が全員死んだ…


「私達神に逆らうと死ぬように呪いがかかってたのも知らなかったんだ。」


ヒハハと相変わらず笑っている。


つまり、わざと逆らうような言葉を引き出したわけか。


「タロー。ダリアは許せないのだ。」


ワイもだよ。


スカーレットが殺された時以上の怒りがこみ上げてくるのが分かる。


「ぶち殺してやる!」


感情任せに叫んだ。



空気が爆発した感覚がした。


感情のリミッターが外れたような感じだ。


怒りで我を忘れるとはこういうことを言うのか。


「全員!俺を助けろ!」


無我夢中で異種族の助けアイテムに叫んでいた。


町の外で待機していたタイニー、チラコンチネ、ワチワヌイ、1の4人はすぐにやって来た。


ミサンガからはエルフのミシシッピが、ベルトからはトラガスが現れた。


6人の異種族とダリアがワイの前で、3人の<神の軍勢>と対峙した。


「何なのだこの感覚は?」


ダリアが驚いてワイを見る。


「これが勇者の力か…」


オペレーターが呟くが、感情が爆発している今のワイにはその意味はどうでもいい。


「あの3人を殺せ。」


口調が変わっているのにも今のワイにはどうでもいい。


とにかく、カルドン達の仇を取りたい。


それだけだった。


「何だか分からないけど、いつも以上に体が動くよ!」


チラコンチネが素早く移動する。


「攻撃態勢:起動」


1が少女型から変形し始める。


「勇者以外は殺していいんだな?」


スクリュードライバーがキティに訊いている。


キティは何も言わずに頷いている。


いや、タイニーと目が合っている。


幻術の掛け合いをしているのか。


「機械。これも武器にしロ。」


トラガスが1に鉄くずを渡している。


「私も魔法で応戦しましょう。」


ミシシッピが一度に3つの魔法を同時に唱えた。


「ふん。さすがは長耳。魔法だけは得意だな。」


ワチワヌイが皮肉たっぷりに言って、ダリアと共に敵に向かって行った。


チラコンチネと同じ敵、<妄語>のオペレーターを狙うようだ。


ミシシッピがかけた魔法は、身体能力向上の魔法と、防御力上昇の魔法、そして敵の察知能力低下魔法らしい。


1が巨大な銃のような形となり、トラガスに渡された鉄くずもトラガスが持てる大きさの銃にして渡していた。


「攻撃開始。」


銃じゃなかった。レーザー砲だ。


巨大な光線がスクリュードライバー目がけて発射された。


凄まじい戦いの光景を目の前にすると、ワイの怒りの熱が冷めていった。


「おや?勇者殿。もう怒りが収まったのかい?」


ミシシッピが陽気に話しかけてくる。


「勇者殿の力はたぶん、怒りなどの感情が高ぶったときに、近くにいる仲間がパワーアップできる力だ。」


流石は魔法力のあるエルフ族。


だから<ブルードラゴン>討伐の時とかに、仲間に力が漲ったのか。


「それで?勇者は俺様達<神の軍勢>に逆らうのか?」


レーザー砲を受けたはずのスクリュードライバーが無傷のまま砂煙から出てきた。


「ふん。我の<増やす>力を使えば、そこら辺の岩を増やしてレーザー砲をガードすることなど容易。」


オペレーターが、ダリア達の攻撃を避けながら言う。


「俺様の<伸縮>の力で、オペレーターとの距離を伸ばせば、どんなに早く動けても攻撃を避けるのは簡単だ。」


スクリュードライバーが、こんなこと何でもないかのように話す。


「で?勇者は逆らうのか?人族は勇者を利用していただけだというのにか?」


「確かにそうかもしんないけど、俺を利用してんのはそっちも一緒だろ?俺は魔族は滅ぼさない!」


そう宣言したワイはティムを呼んでその背中に飛び乗った。


「ドラゴンに乗る勇者だと?ありえん!」


スクリュードライバーが驚くのを横目にワイは、タイニーとキティの間に割って入った。


この膠着がとければ、ワイらに有利になる気がしたからだ。


「まずい!」


オペレーターがスクリュードライバーに<伸縮>の力を使うように目配せするが、


「任せて!」


チラコンチネが躍り出た。


スクリュードライバーの力を自分に集中させるために、連続攻撃を仕掛ける。


「愚かな!」


オペレーターがナイフを1本投げる。


それは<増える>力によって何本にも複製された。


チュキュン――


全てのナイフが、1とトラガスの砲撃によって撃ち落された。


砲撃見えなかったけど、光速ってことなのかな?


「お前の相手はダリアなのだ!」


更にオペレーターの背後からダリアが飛び出す。


これでこの2人の動きは封じたも同然だ。


「1とトラガスもそれぞれダリアとチラコンチネの手助けに向かってくれ。」


ティムの上からそう声をかけた。


チラコンチネの下にトラガスが向かい、更にワチワヌイが加勢した。


ダリアの方には1とミシシッピが向かった。


ワイはティムと共にタイニーのところへ向かう。



チラコンチネ・トラガス・ワチワヌイ対スクリュードライバー――


ワチワヌイが得意の集団戦法を急増した仲間に話す。


「私が真ん中に居るから、ずんぐりむっくりは右気まぐれは左を走って来て。私よりやや後ろから追いかけてくることで、敵の反撃を避けるようにして。」


「んなことやってたらさぁー。あいつの<伸縮>の力で距離をどんどん伸ばされちゃうんじゃないの?」


ワチワヌイの左側でチラコンチネが口を尖らせる。


「そこはずんぐりむっくりが何とかしてくれるでしょう?」


右側をチラリと見ながらワチワヌイが言うと、トラガスはむ。と言いながらも頷いた。


手には、1に作ってもらった銃の他に、何やら火炎放射器のような物を肩に担いでいる。


それを見てチラコンチネが、ひゅーと長い口笛を吹いた。


「んじゃ、いきましょーか。」


軽く屈伸した後チラコンチネが駆け出した。


「待って!先頭は私!」


ワチワヌイがこれだから気まぐれは!と悪態をつきながら追いかける。


のそのそとトラガスはその後を追いかけた。


チラコンチネの身体能力は異様に高い。


しかし、その身体能力をもってしてもスクリュードライバーの反応の方が上だった。


『チィ。神を名乗るだけあって、反応が早い。』


チラコンチネが小さく舌打ちをする。


スクリュードライバーの力で、チラコンチネとスクリュードライバーの距離がどんどん離されていく。


『あの力は、攻撃には転用できない…?ただ距離を伸ばすだけなら<神の軍勢>を名乗れるかしら?』


スクリュードライバーの行動を怪しむワチワヌイがはっとした。


「気まぐれ!避けろ!」


ワチワヌイの叫びに間一髪、敵の行動をチラコンチネは避けた。


距離を伸ばしていたのはフェイク。


その実、攻撃の本質は他のところにあった。


スクリュードライバーは、懐に隠していた小刀の刃先を伸ばして攻撃してきたのだ。


物凄いスピードでチラコンチネに迫る鋭利な刃は、ギリギリで躱したチラコンチネの頬を傷つけた。


「ほぅ?よく俺様の攻撃を避けたな。犬人族には観察眼に優れた者がいるようだな。」


スクリュードライバーが小刀の長さを戻しながら感心して言う。


「あっぶなぁ~。」


チラコンチネが額にかいた冷や汗を拭う。


あと数秒反応が遅ければ串刺しになっていただろう。


「なかなか厄介な力のようね。」


チラコンチネの隣で立ち止まって、ワチワヌイも言う。


「ちょっと油断しただけだし。タネが分かればもう食わらない。」


強気にチラコンチネが言い返す。


「そのくらいにしておケ。」


後ろからトラガスが2人を咎めた。


オペレーターのナイフを叩き落とした銃を構えている。


『あれなら確かに避けれないかもしれないわね…』


銃を見てチラコンチネが悔しそうに唇を噛む。


手柄を横取りされたくないという気持ちがあるからだ。


しかし今は戦闘中。


そこはわきまえていた。


「その機械の攻撃スピードはもう見切った。俺様に当たることはない。」


自信満々にスクリュードライバーが言う。


事実、何発か撃ったその光線は1発も当たらなかった。


タラリと、トラガスのこめかみに汗が一滴垂れる。


「アタイがスキを作るから、そのおもちゃでとどめを刺しな!」


銃をおもちゃ呼ばわりしてチラコンチネが走り出す。


後を追うようにワチワヌイも走る。


注意すべきことは、敵の刃物系統を伸ばした突き刺し攻撃。


つまり――


「一直線上にいなければ当たらない!」


そうワチワヌイが言いながら、小刀を伸ばした攻撃を避ける。


「にゃるほど。」


にやりと笑いながら、舌をぺろりとだしてチラコンチネも回避方法を真似る。


「俺様の力は確かに真っすぐにしか伸ばすことはできない。しかしそのスピードはある程度変化させることができる!」


そう言って小刀をさっきよりも更に早く伸ばした。


「無駄ダ。」


しかし、トラガスの火炎放射器によって小刀の刃は全て溶け落ちた。


今度はスクリュードライバーが冷や汗を流した。


一瞬で溶かすほどの高温。


それを仲間に当てない命中率。


しかも炎によって視界が遮られてしまった。


危険を察知したスクリュードライバーが次に取った行動は、非常に合理的だった。


しかし、トラガスは非情にもそれを読んでいた。


「無駄ダと言ったダロ。」


トラガスはスクリュードライバーの力を正確に把握していた。


いや、見切ったと言うべきだろう。


スクリュードライバーの力は<伸縮>。


物を伸び縮みさせる力だ。


その力を使って今、炎によって遮られた視界という大きなディスアドバンテージを覆そうとしたのだ。


その方法が、地面を伸ばして敵との距離を取ること。


スクリュードライバーは何でも際限なく伸縮させられるわけではない。


第一に伸縮させたい物に触れる必要がある。


地面を伸縮させて敵との距離を取りたいならば、地面に触れる必要がある。


足は靴を履いているため直接触れていない。


直接触れるために片手をつこうとした矢先だった。


トラガスが手榴弾を投げた。


地面が吹き飛ばされ、スクリュードライバーは、伸ばすよりも前に避けなければならなくなった。


「もらった!」


そこをチラコンチネが叩く。


一撃入ればあとは袋叩きにして終わりだった。


「人族ガ大陸を支配した時ニ、我ラドワーフ族ハ技術力が必要だト悟った。その力がこれダ。」


トラガスが最後に再び手榴弾でとどめをさした。


3人の<神の軍勢>の1人は、倒された。


残るは2人。



ダリア・1・ミシシッピ対オペレーター――


ダリアの背後からのパンチをギリギリでオペレーターは避ける。


しかしオペレーターの身体能力は、スクリュードライバーのそれと比べるとやや劣る。


隣ではスクリュードライバーが神に逆らう軍勢にやや苦戦している。


『あいつの力があればやられることはないとは思うが…』


隣の戦場を心配しつつ目の前の敵に集中する。


『厄介なのは、魔王の娘と機械族の砲撃…エルフは我が知らない魔法を使う可能性があるな…』


つまり3人とも厄介ということになる。


「援護射撃:起動。」


1の銃口が機関銃のような形に変化した。


「援護開始。」


瞬間的に無数の弾が発射された。


先ほどよりも威力は低いが、援護だからそれでいいようだ。


無感情に機械族の1が攻撃をするのを隣でミシシッピが感心したように見とれていた。


はっと我に返って、2つの魔法を同時に唱えてダリアにかける。


ダリアの脚力を上げる魔法と、ダリアのスピードそのものを上げる魔法だ。


脚力を上げる魔法でもスピードは上がるが、重要なのはキック力も上がる点。


その分、脚に頼ったスピードしか上がらない。


つまり、腕を使った回避などには適用されない。


それを補うのがスピードそのものを上げる魔法。


『魔法は一長一短。それを深く知る私達エルフ族は、やはり至上の種族だな。』


にやりと笑いながらミシシッピが魔法をかける。


さらに、オペレーターの身体能力を下げる魔法も唱え始める。


『これがかかればダリア様の攻撃で終わるな。』


じっとオペレーターから目を離さずに、魔法を唱え始める。


一方のダリアは、ミシシッピの魔法で体が軽くなったのを感じた。


更に1の追撃でオペレーターにスキが生じる。


それでもギリギリでダリアの攻撃をかわしている。


「1!ダリアの後に追撃して欲しいのだ。」


ダリアが言う。


1の攻撃は今までダリアが攻撃する前にオペレーターを攻撃して、ダリアにとどめを刺させるような形を取っていた。


しかしダリアが指示したのは、ダリアの攻撃を避けたオペレーターにとどめを刺して欲しいというものだった。


「追撃態勢:起動。」


1が再び変形した。


銃口が3つに変化する。3つ全てが先ほどのレーザー砲のようだ。


同時にミシシッピの魔法がオペレーターにかかる。


「くっ!」


オペレーターは、重くなった体を無理やり動かして力で地面の石を増やした。


しかし石を増やしてもダリアの攻撃も1の砲撃も防げない。


そもそもがオペレーターの力は戦闘向きではない。


いや、いまの<神の軍勢>に戦闘向きの力を持っている者はほとんどいない。


人族に対しては強気に出れても、その実、戦える力はほとんど残ってはいないのだった。


悔しそうに、しかしどこか安らかにオペレーターが笑う。


ここに<闘争>のカシスオレンジがいればなと心のどこかで思った。


しかしカシスオレンジは、かつて魔族との戦いで破れている。


いつも能力の相性が良かったからか、いつもペアで行動していた。


『あぁカシスオレンジ。我も貴様の元へとようやく逝けそうだ。』


増やした石を投げつけるも、魔王の娘であるダリアには無意味なことだった。


ダリアは投げつけられた石を簡単に避けてオペレーターに蹴りを喰らわせる。


その反動を利用してダリアが退避。


そこを1の三連レーザー砲が襲う。


最後に最愛のカシスオレンジの顔を思い浮かべて、<妄語>のオペレーターは死亡した。


残るは<真理>のキティのみ。



ワイはティムの背に乗って、<真理>のキティに突進していた。


スクリュードライバーとの戦いもオペレーターとの戦いもこちらが優勢だ。


ワイが突撃したことで意識が薄れたのか、キティはその場を離れた。


「ナイスです勇者様!」


タイニーがワイを褒めてそのままキティを幻術に落す。


キティは幻術が得意分野だからなのか、幻術がさほど効いていないようだった。


しかしティムにはその一瞬でも十分だった。


口からブレスを吐いてキティを攻撃する。


まぁ視覚を共有する幻術もどきの力なんて、所詮はたかが知れてるしね。


一瞬の回避の遅れが命取りになる戦場では、長い事相手に意識を集中する幻術系統はそこまで役に立たない。


少なくともワイはそう思う。


その結果としてほら。ティムのブレスでキティは倒されている。


「ゆ…う…しゃ…め…我らに…逆らったこと…後悔させてやる…ぞ…」


最後にそう言い残したけどワイにとってはもはやどうでもいい。


ワイの仲間だったカルドン達を殺しておいて何言ってるんだこいつらは。


周りを見回すと他の戦闘も終わったようだ。


<神の軍勢>との戦いがとうとう始まってしまった。


やつらがどれ程の勢力なのかは知らないけれど、ワイの仲間を殺した奴には、相応の報いを受けてもらう!


「すまんダリア。神とかゆーやつらと全面的に戦うことになりそうだ。」


息を荒げて隣に来たダリアにワイはそう告げた。


ダリアは両の拳を突き合わせて、望むところなのだ。と言った。


これが、ワイとダリアにとって最良の選択になったのか、今のワイにはよく分からない。


感情的になるのは良くないと聞くけれど、感情的にならない方がおかしい。


遠くに見える山々を見据えながらワイは、二度と仲間を失わないように、<神の軍勢>からダリアは絶対に守ると心に誓った。

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