第二十一章 遠吠え岬で仲間がいっぱい?
<猫の里>を後にしたワイらは、犬人族が住む<遠吠え岬>へ向かった。
途中、ティムの背中に乗せて貰って楽な思いをしたワイは、何故かダリアに怒られてしまった。
「なんでそんなに急ぐのだ?もっとゆっくりでもいいではないか!」
急ぐもなにも里と岬は隣同士だし。
「勇者はあれね。ダリアと2人っきりになりたくないんだよきっと。」
にやにやしながらチラコンチネが言う。
何を言ってるんだこいつは!
「そんなわけ」
「ばかぁー!」
ワイの言葉を遮ってダリアパンチをお見舞いされた。
ねぇ。ワイ勇者だよ?死んでもいいの?
「大丈夫ですか?勇者様。」
心配してくれるのはタイニーだけだよ。
だがまたここでダリアの逆鱗に触れることに。
「タロー!また鼻の下を伸ばしていたのだ!」
「は?伸ばしてないから!」
「嘘なのだ!絶対伸ばしてたのだ!ダリアは見たのだ!」
「ちょっと待てよ!そっからどうやって見えるんだよ?ダリアは背を向けてたじゃねーか!」
「向ける前に見たのだ!ダリアが見たと言ったら見たのだ!タローのバカ!」
なんて理不尽な。
しかもバカだと?
「そうかいそうかい。ダリアは俺にそんなことを言っちゃうのかい。じゃあもう俺も知らないよ?手も繋いであげないし、飯の時も待っててあげないから。」
勝った。
「そ!それはずるいのだ!手も繋ぐしご飯の時も待ってるのだ!でも今はタローが悪いのだ!」
「めちゃくちゃだろそれ。」
助けを求めようとチラコンチネを見ると、呆れた顔して先に歩かれた。タイニーもワイの懐から飛び出して歩き始める。
「ちょっと2人とも!」
「タロー!今はダリアと話をしているはずなのだ!」
両手で頬を潰されて無理やりダリアと目を合わせられた。
「ダリアと手を繋がないしご飯の時も待ってくれないのか?」
「ダリアが悪かったと認めれば――!」
ダリアが泣きそうな顔をしている。
「いや。その…」
ポロ…ポロ…涙がこぼれてきた。
あー!もう!
「悪かったよ。俺が悪かった。手も繋ぐし飯の時も待ってるから泣き止んでくれよ。」
ピタッと泣き止んだ。
にこりと微笑まれた。
「それでこそタローなのだ。」
涙は女の武器か…
ズルくないか?
はっ!カルドンがいない今、このパーティーはワイ以外みんな女。
一見ハーレムにも見えるが多数決では絶対に負けるシナリオに!
まずいぞまずいぞ。犬人族では男を旅のお供に同行しなければワイの立場が危うくなる。
先行しているチラコンチネとタイニーに追いつくべく足を早めた。
●
<遠吠え岬>――
荒地に、岩でできたゴツゴツの小山が何個か見える。
もう犬人族の住む居住エリアなのだろうか?
今までの場所と違って入り口のバリケードみたいなものがない。
ひと際高い小山の上に犬らしきものが、遠吠えをした。
他の小山に空いている穴穴からたくさんの犬が走ってやって来る。
ワイらはあっという間に包囲された。
「何の真似だいイヌッコロが。」
チラコンチネが殺気立たせて言う。
「黙れ気まぐれ。我らが用があるのはそこの勇者だ。」
1人の犬人族が唸りながら言う。
ワイ?ワイに用事?用があるのはワイらの方なんだけど。
「勇者という立場なら、魔族を滅ぼすのが目的のはず。薄汚い人族の味方をしながら、何しにこの地へやって来た!チビや気まぐれを騙せても我らは騙せんぞ!」
「えっと?騙すとか騙さないとかそういうのじゃないんですけど、魔族を滅ぼす気もないですし。」
バウバウ!
周りの犬人族が吠えて威嚇してくる。
犬は苦手じゃないけど、威嚇されると怖い。
「ちょっと待つのだ。ダリア達は魔族を滅ぼすつもりなどないのだ。」
ダリアがワイの前に出る。
「ダリア様!こちらへ!」
犬人族がダリアだけを通そうとする。
「ダリアはタローとは離れないのだ。」
「おのれ勇者!ダリア様を騙したな!」
怒りまくる1人の犬人族がワイに向かって牙を見せる。
なんでワイはこんなに敵対心を向けられているんだ?
「ちょっと待って、話をしよう。」
戦々恐々とした中で、ワイは一番殺気立っている犬人族に向かって言う。
聞き入れて貰えるかは微妙だけど。
「話を聞いて我らにどんな得があると言うのだ?」
殺気立つ犬人族がワイに言う。
そりゃそうだ。ワイらに得があっても犬人族に得なんて何にもない。
「え?いや得と言われても…」
「それに!」
ワイが言い淀むと、畳み掛けるように言われた。
「そちらの話が真実だとする証明もない!」
ぐ。正論だ。
「確かにこっちの話を信用する根拠なんて何もないですけど、話くらい聞いてくれてもいいんじゃないですか?」
こうなりゃゴリ押しだ。
「そこまで言うのなら、我らと勝負しようではないか。そちらが勝てば我らの新しい主として認めよう。」
奥から長のような犬人族が出てきて言う。
勝負?じゃんけんとかじゃないよね?戦うってこと?
ワイ戦闘力0なんだけど?
「そちらは、ドラゴンに勇者、ダリア様に気まぐれとチビでよろしいかな?」
お?ワイ1人じゃなさそう。
「えーと。」
ワイが他のメンバーを見るとワイの答えを待たずにダリアとチラコンチネが答えた。
「「もちろん!」」
息ピッタリだな。
「では、ルールは参ったと言わせた方の勝ちとしましょう。殺したり一生残るような傷は失格。どうかな?」
「やってやるのだ!」
つまり降参させればいいわけか。
ダリアがいれば何とかなりそうだな。
犬人族も精鋭の5人が出てきた。
長の開始の合図と共にティムが空高く舞い上がった。
ぐるる。という唸り声と共になぜか犬人族と戦闘になった。
●
犬人族は、集団戦法が得意の種族だった。
5人できっちりと隊形を組んで攻めてくる。
対してこちらは個々人の能力が高かった。
小人族のタイニーはワイの懐にいるし、明らかに体格で劣る。
しかし猫人族の身体能力は高かった。
さすがは罠だらけの里に住んでいるだけはある。
ダリアもダリアで魔族だからなのか身体能力が高い。
連携もなにもなく個人で犬人族を討ちに出るが…
「バゥ!」
ダリアやチラコンチネが攻撃を仕掛ける真横から、別の犬人族が攻撃を仕掛ける戦術をさっきから受けている。
「くっそ!まどろっこしいのだ!」
「イヌッコロめ~。相変わらず1人じゃ何にも出来ないくせにー。」
ダリアとチラコンチネが悔しがるが、それこそ犬人族の思う壺な気がする。
「ダリア!チラコンチネ!ちょっと冷静になろう。相手は連携が上手すぎる。こちらは連携なんてできない急増のチームだ。1対1は無理だ。」
そう2人に言うが、戦い方が見出せない。
ティムも上空から攻撃を仕掛けるが、簡単にかわされては反撃を受けている。
このままではこちらが不利だ。
「勇者様。」
胸元からタイニーが呼びかける。
「あの2人にはあのまま戦っていて貰いましょう。私共で敵の意表をつきましょう。」
ダリアとチラコンチネに囮になって貰うというわけか!
戦い方も派手だし目立つし丁度いいかもしれん。
「ダリア!チラコンチネ!」
声をかけて作戦会議をする。
ティムがワイらの周りを旋回して、犬人族を近づけないようにしてくれている。
「私共3人で敵5人を仕留めます。お2人には陽動になって貰います。」
「囮になれってこと?」
チラコンチネが怒るがワイが制した。
「囮とは言い方次第だと思う。勝利に貢献するんだし、1対1で倒せるなら出来れば倒して欲しいのが本音。それでも向こうの方が上手だから、向こうの集団戦法を俺達が邪魔して、ダリアとチラコンチネの1対1を引き立たせる感じ。」
「ダリアはよく分からないけど、タローが言うならそうするのだ。」
たたっ。と走って1人の犬人族に向かって行ってしまった。
「あ!もう。勇者のせいだからね!」
何故かチラコンチネが怒ってからダリアの後を追った。
まぁ言い方はアレだけど、結局は囮だもんな。騙したと思われても仕方ない。
「勝てば大丈夫ですよ。」
ワイの罪悪感を察してくれたタイニーが言う。
「さぁはじめましょ。」
タイニーの言葉に合わせてワイはティムを呼んだ。
●
陽動作戦は単純だった。
ダリアとチラコンチネが派手に戦ってくれているので、そこに煙幕としてティムがブレスを吐く。
一見、ダリア達への援護に見える攻撃だ。
「どこを狙っている!」
「我らの連携はその程度では崩れん。」
「煙幕で視界を防いでも、嗅覚で連携を取るのみ。」
うん。成功した。
相手は連携崩しのための攻撃だと読んでくれたみたいだ。
これはワイとタイニーが敵の視界から消えるためのもの。
タイニーはワイの懐に隠れ、ワイはティムの背中に乗る。
ティムは上空へ飛び、滑空攻撃で敵を攪乱する。
先ほど同様に、別の犬人族がティムに横から攻撃を仕掛けてくるが、そこは上に乗っているワイがさせない。
盾で攻撃を防ぐ。
「!ほう?連携し出したか…」
リーダーっぽいやつがそう言うと、5人は集まり再び隊形を組んだ。
ティムを上昇させるが、今度は誰も動かない膠着状態となった。
「いけ、ティム。」
5人のまとまりに向かってティムは滑空攻撃を仕掛ける。
5人はバラバラに散り、反撃するべく態勢を整える。
上にワイが乗っていることも織り込み済みでの攻撃だ。
「ブレスだ!」
ティムはワイの指示に従って急停止してブレス攻撃をした。
5人の犬人族はフンと鼻を鳴らしてこれをよける。
手強いな。
だが…
「隊形が崩れてるよ!」
ティムの連続攻撃で隊形が崩れた一瞬のスキをチラコンチネがつく。
チラコンチネに狙われていない他の4人は、無理やり態勢を立て直した。
そのまま狙われた犬人族を助けに行くが、その内の1人はダリアに邪魔された。
「行かせないのだ!」
ダリアとチラコンチネは流石に身体能力が高い。
即座の判断ですぐに動いてくれる。
しかしダリアの体は1つしかない。
足止めできるのは1人。
ワイとティムはやや遠い。
…
地面に小さな生物がいる。
タイニーだ。
2回目のティムのブレスの目的はタイニーを隠してそこに落とすこと。
タイニー達小人族は幻術に優れている。
一瞬でも意識を欺かせることが出来れば…
「終わりです。」
5人の中心にいるタイニーがそう言うと、5人の犬人族は幻を見た。
5人が気が付いた時には、ワイらに拘束されていた。
「これで勝ちかな?」
ワイがそう言うと、長が頷いた。
ようやく話を聞いてくれるようだ。
●
おかしなことになった。
確かに戦いに勝利したら主として認めるとは言われた。
言われたけどこれはおかしいだろ!
わらわらと小山の穴から犬人族が出てきては、尻尾を振ってワイにすり寄って来る。
その数10や20なんてもんじゃない。
「さすがはイヌッコロだねー。数だけは立派だねー。」
感心したようにチラコンチネが言う。
「やっぱ種族ごとに違うものなの?」
「そりゃー全然違うよ。例えばアタイら猫人族は女が多いけど繁殖は人族と同じくらい。チビは男女比は半々くらいだけど、そこまで繁殖はしないから、数は増えないよね。イヌッコロはガンガン繁殖するから数が増えて大変っしょ。」
腕を頭の後ろで組みながらチラコンチネが軽く言う。
「我らは種族繁栄のために数を増やしているのです。」
猫人族も可愛いけど、犬人族も女の子は可愛い。
ワチワヌイと名乗った、女の子の犬人族もとっても可愛い。
犬耳に可愛い顔立ちは反則だろ!
ワイの個人的なイメージだけど、猫人族はアネキ肌で露出度が高くて、キレイ系が多い。
犬人族は、ちょっとM気質で可愛い系が多い。
「たーろー。」
背中がゾクゾクする。
ダリアが怒っている理由は、ワイがワチワヌイの頭を撫でているからだろう。
「ダリア以外の女の子に触れるとは何なのだ!ダリアは悲しいのだ!」
「ちょっと待て!別に女の子だからとかじゃなくて、犬とか猫とか可愛いじゃん?だから触れ合いたくなるだけ!」
「マジ?じゃあアタイのことも撫でてよ。」
チラコンチネが、猫っぽく甘えてきた。
かっ、可愛い!
撫でようとしたらダリアがキレた。
「タロー!チラコンチネ!いい加減にするのだ!ダリアは浮気は許さないのだ!」
浮気ってこれは浮気じゃないだろ。
「何言ってるのよ。アタイらの里には女が男をもてなす店だってあるのよ?ダリアあんたそれも浮気だって言うの?心が狭いわねー。」
「え?そんな店があるの?」
つい反応してしまった。
「お触り自由よ?来る?」
にやりとチラコンチネが笑う。
行く!と返事をしようとしてストップがかかる。
ダリアが鬼の形相をしていた。
「い、いや。俺にはダリアがいるから。」
とってつけたような理由を言うがダリアの機嫌は直らない。
「もう知らないのだ!」
ぷりぷりしながら宿に向かって行った。
まぁ暫くすれば機嫌は直るだろう。
それよりも…
「あのー。犬人族は俺達を手伝ってくれるということでいいのかな?」
ワチワヌイに訊いてみる。
「もちろんです!私達は勇者様を新しい主と認めました。ずっと付き従っていきます。あの笛を吹いていただければ、私達がすぐにでも参上します。もちろん見返りなんていりません。」
目を輝かせてワチワヌイが言う。
「勇者は女と一緒に旅することを求めてるよ?」
いらん情報をチラコンチネが言う。
「そうなのですか?では私がお供します!」
めっちゃ目を輝かせるじゃん!
この言葉をきっかけに、俺も私もとたくさんの犬人族が旅に付いてくると言い出した。
「勇者様。さすがにこんなに大所帯は…」
懐でタイニーが苦笑いしている。
「気持ちは嬉しいけど、ワチワヌイだけ付いてきて。他の人は俺が呼んだら助けに来て欲しいな。」
そう言うと全員仕方なしに諦めてくれた。
こうしてワイとダリアの旅に、人族のカルドン達が増えて、ドライブのティムが増え、小人族と猫人族と犬人族が増えた。
出会って別れてを繰り返してワイ達は進んでいく。
次は<廃屋の街>で機械族に会う。
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